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117.恩赦

就活中の筆者「御社ァ……」

 八百人を連れた旅は多少のトラブルこそあれど順調に進み、本日ようやくフラスカの国境線を超えることが叶った。


 明日にはもう王都入り出来るだろうが、既に日が沈みかけているので今日は森の入り口で野宿である。


 移動は徒歩の人々に足並みを合わせなければいけないのと、子供が多いので休憩も多く取るようにして思ったよりも時間を喰ったが、その間にガル爺から新たな剣術を指南して貰えたのでもーまんたい。


 因みに隻腕流は、亜人の国の騎士たちの扱う剣術を踏襲しつつ、片腕が無いというディスアドバンテージを補う為、守りを捨てた怒涛の連撃を主とする攻めのイケイケ流派だった。今までカウンター主体の神鉄流を中心に据えていた私としては、結構戸惑う部分も多く、剣の道の奥深さを改めて思い知った気分である。


 ただ、練習用の剣がすぐ壊れてしまうのが最近の悩みだ。


 エイジスから貰った紅蓮の黒刀とは桁違いに脆く、練習相手をしてくれるジェイドやジンと数合打ち合っただけで折れたり曲がったりしてしまう。彼ら曰く、私の膂力はおかしいとのことだが、グラディンとかエイジスに比べたら全然なまっちょろい方だと思うんだよなあ。


「いいか、相手に打ち返す隙を与えるな。振った瞬間にはもう次の動作に入れ、無駄な動きを削いで0コンマ一秒でも攻撃をし続けるんや!」


 尚、攻撃偏重の流派と聞くと、ゴリ押しのイメージが湧くが全然そんな事は無い。


 夕食前の運動として現在進行形で剣を振らされている今も、ただ闇雲に体を動かすのではなく、最も速く動けて、最も効率よく次撃に動作を繋ぐことを常に意識してやっている。この凄まじいまでの攻性を秘めた流派は弧月流と類似しながら、無型の戦剣法を織り交ぜたような、いわば全ての動きが"繋ぎ"のようなものなのだ。


「ふぅ……」


「おう、お疲れ」


 ようやくひと段落着いて簡易竃の前の枕木へ腰を下ろすと、鍛錬を眺めていたジンが水筒を此方へ投げて渡した。留め具を外して一気に水を煽ると、清涼感が喉を駆け抜けて行って一気に身体が潤ったような気になる。


「お前でも結構キツそうだな、あの爺さんのシゴきは」


「いやもうほんと……久しぶりにここまで本気でやったかもしれない」


 口を拭いつつもそう返すと、ジンは癖になった眉間の皺を緩めて小さく笑った。


「エイジスもこんぐらい厳しかったのか?」


「そうだな、寝る時間以外はずっと気張って無いと命が危かった……」


「そこまでか……」


 師匠は四六時中いつでも私の不意を突いて攻撃して来たし、なんなら寝てる間に髪の毛を結ばれたり顔に炭片でらくがきされたりもしたっけか。そのお陰で、どの角度から攻撃が来ようとも大抵は対処できるようになったのだけど。


「それにしても"アレ"、今日も湧いてるぞ。毎日毎日飽きないもんだな」


 アレとは、ジンが横目に視線を向けた先にいる、難民たちのこと。何を思ってか、私がガル爺に剣の鍛錬をお願いする時間は決まって数十人から多いときは五十人くらいが野次馬している。


『いやぁ、やっぱし剣を振ってる時の魔剣士様はとっても綺麗だべさ』


『だな、白銀の髪に汗が煌めいて眩しいぜ……』


『なによりあの真剣そのものの横顔、女のアタシでも惚れちまいそうだよ』


 き、聞こえないッ! 聞こえないったら聞こえない……!


 別に褒められるのが嫌いとかそう言うのじゃないけども、ああやって感想を言われるのは死ぬ程むず痒いのだ。こっちは前世より自分の顔が良いから変な勘違いが起きないよう、絶対に自惚れないようにして来たというのに……。


「まあ、確かにアイツらの気持ちも分からんでも無いがな。お前は魅力的だ」


「へっ……!?」


「冒険者や男なら、ここまで強い奴に憧れない奴はいねえよ」


 あ、なんだそう言う意味での魅力的か。てっきり私は…………って、一体何を思ったというのだ!


「どうした、顔赤いぞ?」

 

「べっ……別に、何でもないし……」


 おかしい、絶対におかしい。


 前までこんな事を言われても何とも思わなかった筈なのに、やっぱり自我の統合が原因なのか?

 

 ……いや、きっと褒められ慣れてないだけなのだ。今までは畏怖の対象だったのが急に尊敬の眼差しを受けて戸惑っている、そうに違いない。



 ***


 それから一夜明け。


 野営の片付けを終えた後は王都へ向かうだけだったので、特筆すべき事件やら問題なんかは起こらずに済んだ。


 無事に王都入りを果たし、私とアザリア、メイビスはそのまま城へ。アキトはオーキッド商会の支店へ報告をしに、難民たちは纏め役を買って出たガル爺やジェイドと共に王都郊外にて待機する事に。尚、冒険者組は別口で組合に旅程の最中に受けられる依頼を探しに行って貰っている。


 路銀とて有限ではない、目的地までの経路にある依頼を纏め受けするのも、冒険者の小技の一つなのだ。


 そんな訳で王城へ向かう道すがら、馬に揺られる車内では両手に華、もとい両手に毒花を抱えているのだが。


「はいそれじゃあメイビス、これ着けて」


「なに、結婚首輪?」


 私が城へ着く前にするべき事と言えば、


「はは、そこはせめて婚約指輪くらいにしておこうな。因みにこれは手錠」


「手錠」


「そう」


「……えっ?」


 コイツを再拘束する事だろう。


 重厚な金属音と共にメイビスの華奢な腕に厳めしい枷が付けられ、両腕が拘束される。これは隷属の首輪のマイナーチェンジ版ともいえる性能をしていて、使用者の魔法を禁じるという用途にのみ使われる物だ。以前メイビスを拘束していたものと同様の物でもある。


「待って、私とルフレは愛の契約を交わした間柄……こんなのおかしい」


「おかしいのはお前だよ~? 貴族殺害、王族殺人未遂、脱獄、拉致、国家転覆罪を侵しておいて易々と自由にするとでも思ったのかなぁ?」


「うふふ、これからあんたはお母様の元へ連れて行かれて、もう一度裁いて貰うのよ。その場で打ち首にしない寛大な処置に感謝しなさいね」


「う、嘘だ。ルフレが裏切るなんて……」


 笑みを浮かべているのに顔に影の差したアザリアがそう言うと、メイビスはこの世の全てに絶望したような顔で私を見た。


「そんな顔したって駄目だぞ、ちゃんと裁判受けような?」


「そ、そんな……だって、あの時は私の事を――――」


「私からも弁護はするし、多分死刑とかそういうのにはならないから大丈夫でしょ」


 私だって本意ではないが、この後ろ暗い状態の彼女をウェスタリカを連れて行く訳にも行くまい。再度女王と話し合う必要はあるし、その結果で彼女がどうしても許されない可能性は低いと考えている。


「……多分」


「嘘、ちゃんと断言して。怖い、まって、本当に? 本当に大丈夫?」


「……」


「ルフレ?」


 

 まあ、八割方悪い結果に落ち着くことは無いだろう、残りの二割は分からないけど。


 そうなったらそうなったで次善の策を講じればいい話だし、その為のカードはもう用意できている。私はこの二ヵ月ちょっとで女王の頭が固くなっていない事を祈っていよう。












「――――ええ、いいですよ。恩赦」


「あっはい」


 

 久しぶりに訪れた城は相変わらず白亜の威容を誇っており、謁見の間に通された私たちの前には、二十代前半にしか見えない女王のアマリアが楚々と玉座へ腰かけていた。


 そして、一時間をかけて事の顛末を伝え終わった後にメイビスの件を切り出すと、あっさりと恩赦を掛けて貰える事に。杞憂はやはり杞憂だったらしく、珍しく怯えて縮こまるメイビスもようやく安堵の表情を浮かべていた。


「神聖王国との確執は、私共も他人事ではありませんからね。事情を知れば彼女も被害者です、すぐに文官に赦免状を書かせましょう」


「流石女王、話が分かる」


「おい、急に態度がふてぶてしいぞ」


 しかしながら、まるで分かっていたかのようなテンポの良さで話を進めるなあ。前々から思っていたけど、この人はかなり明確に物事の先を読む力があるように思えるし、もしかすると私とはベクトルの違う予知のスキルを持っているのかもしれない。


「ただ、貴女がかつてのウェスタリカ王の孫娘だとは……思いもよりませんでした」


「私はなんとなーくわかってたけどね! 聞いたことある名前だったし」


「確かに、初対面の時にそんな事言ってたな」


「へへん、お城の図書館棟にある本で読んだの!」


 自慢気に胸を逸らしながらそう言うと同時くらいに、謁見の間に通じる小扉が勢いよく開け放たれた。


「お母様‼ ルフレ様が戻られたというのは本当ですか!?」


 小柄な体躯に灰茶の髪を揺らして現れたリルシィは、息せき切った様子でアマリアを見上げ、それから目線が下に行き、横に行き、最後にはもう一度アマリアへ戻る。そして、これでもかという程に瞳を見開くと、駆け出して私の右手を取った。


「ああ、よくぞご無事で……‼ 姉様が寄越した手紙ではちっとも状況が分からず、気を揉んでおりました」


「だ、大分心配かけたみたいで……」


 そして、そんな彼女の台詞にアザリアが声を荒げ、


「ちょっとリルシィ!? それってどういう意味よ!」


「そのままの意味でございますが、はて、それともあれは新種の暗号だったのでしょうか?」


「ぐっ……‼ この……リルシィの癖に……」


 ニッコリと笑みを浮かべて言い返すリルシィに、呻りを上げて口を噤む。うわぁ、あの引っ込み思案な妹様がちょっと見ない間に逞しくなってる……。


「二人とも、恩人が戻って来て嬉しいのは分かりますが、盛り上がるのはその辺にしておきましょうね?」


「はい……」


「……最初に言い出したのはリルシィなのに、なんで私まで」


 喧嘩する程なんとやら、あんな事件の後でも前より姉妹出来ているようでなんだかホッとした。というよりかは、あの事件があったからこそこうして二人の距離が縮まったのかもしれないけれど。


「では、メイビス・メリッサハーツの処遇に関しては恩赦とし、無罪放免とします」


「妥当」


「……おい」


 まあ、なにはともあれメイビスは晴れて釈放、アザリアも無事フラスカへ送り届けられて一件落着だ。

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