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メモリーズ・ルナ 〜Fragment of memory〜  作者: ミゼン
第1章「バード村編」
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第5話「魔晶石とお風呂」

時刻は8時を過ぎようとしていた。

夕食を食べ終えた後、食器の片付けをしているメグさんに何か手伝える事はないかとまた聞いたものの「私の事はいいから、先にお風呂入っててくれない?」と言われた。ユースからは「先にお風呂入ってていいよ、僕は後で入るから」と言われ、そしてリーズちゃんからは「ルナお姉ちゃん、一緒にお風呂入ってもいい?」と言われたので先にリーズちゃんと一緒にお風呂に入らせてもらうことにした。風呂場の脱衣所の扉の鍵を閉めた後、服を脱ぎ、脱いだ服を入れる専用の箱の中に脱いだ服を入れる。この箱はどうやらメグさん曰く「脱いだ服は置いてある箱の中に入れてね、洗浄所に持って行くから」らしい。身に纏っていた物を全て脱ぎ裸になった私とリーズちゃんはそのまま風呂場に入る。灰色の煉瓦が床と壁に敷き詰められ、壁の真ん中に鏡が嵌め込まれている。浴槽は無く、「湯水浴び機」と呼ばれる所々小さな穴が空いた物が壁に固定されている。その湯水浴び機のすぐ下の壁に小さく魔法陣が描かれている。


「……これも『魔晶石』?」

「うん、そうだよ」

「本当に『魔晶石』って、

色んな所に使われてるのね……」


その魔法陣のど真ん中に金糸雀色に輝く『魔晶石』と呼ばれる物が埋め込まれていた。リーズちゃんが埋め込まれている魔晶石を強く押すと、魔晶石の中心から魔法陣が光り輝き始めた。その数秒後、湯水浴び機から水が出てきた。


「きゃっ!っ、わあっ!!」

「……!危ないっ!」


一瞬リーズちゃんに水がちょっとだけ掛かり小さな悲鳴をあげ背後に仰け反り転びそうになったところを危機一髪、その仰け反った背中を左腕手で支え、左腕を右手で掴む。


「大丈夫?怪我はない?」

「ううん、大丈夫……!

ありがとう、ルナお姉ちゃん!」


私は安堵の溜息をついた。

少し待つと、冷たかった水がだんだん湯に変化していった。私とリーズちゃん交代で湯を浴びた後、一緒に専用の液状石鹸で髪を洗い始める。


魔晶石。四人で夕食を食べていた時、この単語が出てきた。ユースやメグさんによると、約70年前に連合国の一国「オリクト国」のとある鉱山で発掘、発見された物だという。「未知の可能性を持った物」と言われていたが、当時は使い方や加工方法はおろか、その物質の素材などについてさえも分からない外見も中身も「透明」な物質だったという。ところがその10年後の約60年前、とある天才研究者によって「魔力を流し込むと、その魔力の属性によって様々な効力を得る石」だという、物質の詳細が判明。そこから、魔晶石に対しての研究は大きなスピードアップを得り、今では魔晶石はこのリスラル大陸では人間も妖精も魔族も必要不可欠な物質、らしい。


赤色、又はそれに近い色に輝く物は「紅晶石」。

主に燃料の代わり等に使われるという。

青色、又はそれに近い色に輝く物は「蒼晶石」。

主に水を発生させる。

魔晶石の中でも特に必要不可欠な物らしい。

緑色、又はそれに近い色に輝く物は「翠晶石」。

メグさんが治療や応急処置などで

使う事はあるらしいが、何らかの加工素材として使われる事が多いらしい。

白色や黄色、又は

それに近い色に輝く物は「光晶石」。

光を発生させたり、

他の魔晶石に信号を送って作動させる等、

魔晶石の中でも一番特に必要不可欠な物質だという。

黒色、又はそれに近い色に輝く物は「闇晶石」。

これに関しては最近まで謎が大きかったらしいが、約10年前に魔族が闇晶石を使った強力な兵器を開発、AGS戦争でも使用し人間側は大きな被害を受けたという。人間側はこの闇晶石については兵器化出来るほどの技術、情報などは現在でもまだ発達していない、らしい。


少なくとも、私が目覚めた世界は割と暮らしやすい世界なのかもしれない。

そう考えながら髪を洗い終え次に身体を専用の細かい網目状のネットと液状石鹸で洗っていた時、一緒に身体を洗っていたリーズちゃんから声をかけられていることに気づく。


「ルナお姉ちゃん?どうかしたの?」

「……えっ?ううん、大丈夫」

「背中、私も洗ってあげる」

「えっ、いいの?ありがとう」


先程までリーズちゃんの背中を洗ってあげていた私は

立ち位置が逆になり、私が背中を洗ってもらう番となった。


「……いいなぁ」

「?……何が?」

「ルナお姉ちゃん、

やっぱりスタイル良くて

綺麗でいいなーって思ったの」

「そう……?

嬉しいけど、なんか小恥ずかしいなぁ……」


「スタイルが良い」や「綺麗」、と言われ素直に嬉しい気持ちもあるが、なんだか照れなのか恥ずかしいのか、よく分からないような感情も何処かにあった。


「なんだか羨ましいなぁ……

……あっ、ルナお姉ちゃんは

これからどうするつもり?」

「……?どういう事?」

「ユースお兄ちゃん、明日の夜にはここを出て

魔導ギルドの方に戻らなくちゃいけないんだよね」

「えっ……?そうなの?」

「うん、だからどうするのかなーって」


初めて聞く情報に私は少し驚き戸惑った。


「……後でユースと相談してみるよ」


私はリーズちゃんにニコッと笑って返答した。

その後、風呂場から出て身体を拭き、メグさんが用意してくれた寝間着を着てユースと風呂を交代する。取り敢えずユースが出てくるまでリーズちゃんとリビングで話をしていた。話の内容はユースがどれだけ凄いのかという物で、普通の人より再生能力が非常に高く治癒能力も優れていて、身体つきや性格とは相反した生命力の高さなどなど……兎に角、リーズちゃんは兄であるユースの事を本当に好きなんだろう。そうこうしていると十数分後、ユースが風呂から上がってきた。時刻は9時を過ぎようとしていた。私は廊下の方で先程リーズちゃんから聞いた事をユースに話す。


「あぁ……ごめん、完全に言い忘れてたよ。

一週間ぐらい里帰りしてたけど、明日で最後か……」


「……それで私、

これからどうすればいいのかわかんなくて……」


記憶も無くし、名前は出来たもののこれから

どうしていくのか方針すら未だに決めていなかった。


「じゃあ、僕と一緒に行く?もしかしたらさ、君の記憶を思い出す手伝いができるかもしれないし!」

「……えっ?いいの?」

「うん、もちろんだよ!」


少しだけ驚いた後すぐに拍子抜けのような感情と安心感が私の心の中で混ざり合う。十数秒前まで暫く考え込んでいた事を相談したらこんなに一瞬であっさりと解決してしまいそうなんて思わなかった。


「あっ、でも後で母さんにも

一応言っておかないと……ってそこで何隠れながら見てるんだよ、リーズ」


「あっ、バレちゃった……」


リビングに入るための扉の方向を見ると、覗き見するかのように隠れながらこちらを見ていたリーズちゃんがそこに居た。


「でもさ、ユースお兄ちゃん……」

「ん?何?」


「……なんか、都会によく『出没』する

って言われてる『軟派』みたいに見えた」

「んっ!?

い、いやそんな意味で言ってた訳じゃないよ!?」


『軟派』という単語を聞いた瞬間、ユースの顔が火照り慌てふためき始める。


「だってさー、ルナお姉ちゃんってスタイルも良くて綺麗じゃん?そう見えちゃうよねー、なんか」

「え……?……!!い、いや本当にそういう意味で言ってた訳じゃないから!!」

「ほら、今ちょっと『確かにそうかも』

って思ったでしょ!」

「いや、思ってない!!」

「……軟派?」

「あー、軟派っていうのはね、えーっと……」

「いや知らなくていいよ!!ルナっ!!」

軟派という単語を知らない私と

それについて教えたくて口元がニヤニヤしてる

リーズちゃんとそれを全力で阻止するユース。


(……軟派って、何……?)


私は心の中で困惑した。


結局はその後軟派についてリーズちゃんに詳しく教えてもらったが……その意味を知ってユースに、私に対して「スタイルが良い」だとか「綺麗」だとかリーズちゃんと同じ事思ってるのかと聞いたが、顔を赤面しながらの否定の一点張りだった。別にそう思われるのは構わないが……ただ、同性にそう思われるのと異性にそう思われるのとは、意味合いが違う気もしてならない……


(ま、まぁ……深く考えないでおこう……)


リーズちゃんの勘違いもあるかもしれないし、

ここは深く考えることはやめておいた。


そうこうしているとメグさんもお風呂から出てきて、先程ユースと相談した事を伝える。メグさんも快く了承してくれ、それどころか「同年代の娘と一緒にいれるなんて良かったじゃない」とユースに揶揄うように言うレベル。何はともあれ、一応これからの方針が決まって良かった。


時刻は9時半を過ぎようとしていた。リーズちゃんはそろそろ寝なきゃいけないと言って歯を磨きに洗面所へ、ユースは明日の出発に向けて準備しなきゃいけないらしく、自分の部屋に行った。リビングにいるのは私とメグさんだけとなった。

森の中で目覚め何時間も歩き、ジュエリーゴーレムという巨大な岩石の魔物と出くわしてしまい命賭けで戦い、なんとか倒したが背中を痛め動けなくなり万事休すかという状況でユースという同年代の少年に助けてもらい、アフェクト家で今日は過ごさせてもらう事になる……今日は色んな事がありすぎて疲れた。なんだか眠気が私の身体を襲ってくる。


「あっ、ルナちゃん、言い忘れてたんだけど……ちょっと部屋が足りなくて、今日はリーズの部屋でリーズと一緒に寝てくれない?


……ルナちゃん?大丈夫?」


「……はっ……!ごめんなさい、

ちょっとボーッとしてました……」


後片付けをしていたメグさんが私に話しかけてきているのに

気づくのに数秒以上かかってしまう。


「もう今日は疲れちゃった?」

「……はい、なんだか疲れて眠気が……でも」

「あぁ、私の事は良いから、貴方の明日の準備も私がしておいてあげるし……それにルナちゃん、今日はもう寝た方がいいと思うわよ、今日は色々と大変だったんでしょう?」

自分よりもちょっと前までは見知らぬ私の事を気遣ってくれるメグさん。本当に心優しくて温かい。もうメグさんには感謝の念しかなかった。

「ありがとうございます……

じゃあお言葉に甘えて今日はもう寝ることにします」

「ええ、その方がいいと思うわ。

あっ、歯磨きは忘れずにね。

新しい歯ブラシも置いておいたはずだから」

「もちろん、わかってます」


そう言うと私はリーズちゃんが今まさに

歯磨きをしている洗面所に向かった。


リーズちゃんと一緒に歯を磨いた後、私はリーズちゃんに案内されるままにリーズちゃんの部屋に向かうとその途中の廊下で明日の準備をしていたユースと出会う。ユースは「僕もこの準備が終わったら寝るつもりだから、先に寝てていいよ」という事なので「じゃあ、おやすみ」と伝えリーズちゃんと一緒にリーズちゃんの部屋に入る。部屋の中には二人ならギリギリ一緒に寝られそうなベット、教科書などが入れられている本棚、その横に勉強机が置かれていて、勉強机の下に可愛らしいハートのマークの絨毯が敷かれていた。私とリーズちゃんはそのまま一緒にベットに入る。少しばかり寝るスペースが狭いものの、一緒に寝ているからか布団と体温の両方の温かさが感じられる。


「……なんだか、あったかいね」


「……うん、そうだね」


リーズちゃんのたわいもない問いに答えると、

私の身体を襲っていた眠気に私自身が遂に耐えられなくなり、気がつく間も無く私はリーズちゃんより先に眠りに落ちた。

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