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メモリーズ・ルナ 〜Fragment of memory〜  作者: ミゼン
第1章「バード村編」
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第3話「故郷の村」

第3話「故郷の村」


私と少年を乗せて飛び立ったルスーは崖の上の上空まで上昇し、東の方角に進み始める。

空には雲ひとつなく、下には広大な森が広がっている。すると前に乗っていた少年が命綱をしっかりと握りしめていた私に向いて身体ごと振り向いた。


「そういえばさ、まだ名乗ってなかったよね。

僕の名前は『ユース・アフェクト』。よろしく」


そう言うとユースと名乗った少年は

温和な表情を見せる。


「それで、君の名前は?」

「……えっ」


聞かれるだろうと薄々思ってはいたが、名前を聞かれて私は困惑した。

記憶を無くし、自分の名前すら分からない状態。どう答えたらいいのか数秒間悩んでいた。


しかし、このままだと埒が開かない。

正直に言うしかなかった。


「……実は私、記憶が無くて……

名前すら覚えてないの」

「えっ……じゃあ何処から来たのかも?」

「森の中の岩の横で目覚めてから、

何も覚えてなくて……」


草原と大樹で初めて目覚めた事はあえて隠して、本当の事を言う。全て話してしまうと逆に混乱を招くかもしれなかったからだ。


「そっか……こんな不思議な事ってあるんだね……突然遠くから爆発音が聞こえて、ルスーに乗って音の発生源まで見にいったら記憶をなくした君が一人でジュエリーゴーレムを粉々にしたって村の皆に言ったら絶対驚くよ、絶対」

「そんなに強いんだ、あの魔物……」


そんなに復唱するほど驚かれるとは一体私は何者なんだろうか。しばらくして気がつくと、そろそろ日が暮れそうになっていた。


「もう6時か……あっ、もうすぐ村に着くよ。

着陸するからしっかり命綱持っててね」

「うん、わかった」


腕に巻かれた時計を見たユースはそう言って身体を元に戻し、命綱を握り締め直す。

私もそれを真似するかのようにしっかりと命綱を握り締め直した。下では森林の中に切り開かれた土地に家々等が密集している。ユースの言っていた村だった。ルスーがゆっくりと降下していき、巨大な鳥が沢山それぞれの小屋に入れられている飼育場のような広いスペースのある場所に着陸した。


「よし、到着!ここが僕の故郷の村だよ」


そう言うとユースはルスーから飛び降り、地面に着地する。私も続いてルスーから降りて、辺りを見回す。周囲にはルスーとは違う巨大な鳥がそれぞれ小屋の中に入れられている風景しか映し出されなかった。すると、


「あっ、ユースお兄ちゃん帰ってきた!」


突然、何処からか声が聞こえた。

その瞬間こちらに向かって走ってくる人影が見えた。


「ユースお兄ちゃん、あの爆発音なんだった……

あれ?この人誰?」

「あぁ、えーっと……あっ」


ユースより一回り小さいが、髪の色と眼は瓜二つな少女が私の前に現れた。ユースの事を「お兄ちゃん」と呼んでいる辺り、この子はユースの妹だろう。困惑していた私の代わりにユースが全て説明してくれようとしたがしかし、入口の方に十数人の人々の存在に気がついたユースと遅れてそれに気がついた私は入口の方に一旦移動することにした。人々が私に目線を向けて騒ついている。正直、気恥ずかしい。ユースが私の代わりに皆の前で全てを説明してくれた。当然なのか『えぇ、信じられない』など不信の声が飛び交った。ただ……


「ええっ!?

あのジュエリーゴーレムを一人でやっつけたの!?すっごい!!お姉ちゃんめっちゃすごいよ!!」

「え……う、うん、ありがとう……」


ユースの妹が、物凄い眼をキラキラして目と鼻の先まで近づいてきて私を見つめてきた。私はそのキラキラした視線に押され困惑する。でも、どうやら信じてくれた人も少なからずいるみたいだ。


すると徐々に増えていってる人集りの中から中年の女性が一人、ユースの妹のすぐ近くまで近づいてきた。


『こらっ、リーズ。近すぎるわよ、

その娘困ってるじゃないの』

「あっ……ごめんなさいっ」

「いや……私は別に……ところであなたは……?」

『私?私はメグ・アフェクト。

この村で医者をやってるの。よろしくね。

さっきはごめんね、この子ちょっと好奇心旺盛だから……それにしても凄いわね、あの魔物を一人で倒すなんて」


どうやらこの人はアフェクト兄妹の母親らしい。

髪の色も眼もユースとそっくりだった。


「あ、ありがとうございます……」

「ほらっ、あんたも自己紹介しなさい」

「はじめまして、ユースお兄ちゃんの妹のリーズ・アフェクトです!よろしくね、お姉ちゃん!」

「……うん、よろしくね、リーズちゃん」


リーズちゃんの自己紹介が終わった後、私の代わりに全てを説明してくれた後喋るタイミングを掴めていなさそうだったユースが口を開いた。


「ねぇ母さん、そろそろ日が暮れるけど……」

「あらやだ、もうこんな時間?そろそろ夜ご飯の準備しなきゃね。あなた、行くあてないんでしょ?とりあえず今日は私達の家で休んだらどうかしら?」

「えっ?いいんですか……?」

「うん、そうした方がいいと思うよ、僕は」

「私もー!」


メグさんの優しさに「じゃあ、お言葉に甘えて」と、返答しようとした瞬間だった。


グゥゥゥ……


(……!?)


突然、私の腹の虫が鳴りだした。よくよく考えたら目覚めてから何も食べていなかったのを忘れていた。その音はあまりにも大きく、ユースやリーズちゃん、メグさんだけでなく周囲の人々達までもが私の腹の虫の音を聞いて笑い始めた。頰が熱くなるのを感じる。物凄く恥ずかしい。


「あはははっ、結構大人しい娘だと思ってたけどお腹の方はそうじゃないのかしら?」

「い、いやっ……!そ、そんなことっ……!」

「わかったわよ、帰ったらすぐに夜ご飯作るからちょっとだけ待ってて!ユース、リーズ、そんなに笑ってないでそろそろ帰るわよ!」

「あはははっ……分かったよ、母さん」

「あははっ……あっ、はーい!お母さん!」


ユースとリーズちゃんはツボに入ったのかまだ笑い続けていた。本当に恥ずかしい。

私はメグさんとユースとリーズちゃんに連れられ、アフェクト一家の家まで向かった。向かっている最中思い出し笑いでリーズちゃんに何回か笑われ、恥ずかしさのあまり頰全体が熱くなって視線を別の方向に向けた私を吹き出しそうにちょっとだけニヤけた顔を手で覆い隠しながら見つめてくるユースを横目で目視してしまって更に羞恥心を増してしまう。


(あああぁぁっ……!もう恥ずかしいっ……!!)


目覚めてからこんなに恥ずかしい目に合うとは思ってなかった……

私は赤面した顔を手で覆い心の中で嗚咽した……

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