第22話「新団員誕生 〜後編〜」
「おぉ……」
団員寮。
魔導ギルドの本部敷地内の建造物の一つで、
棟といっても何十棟もあるらしく、
広さは敷地内でもトップを誇るらしい。
私は毎度の事ながらその規模に
驚嘆の声をあげる。
「これでもまだ足りない方なんだけどね……
何せ団員の数が増える一方だから棟を
建てるのが間に合わないんらしいんだよね、
はぁ……」
アランさんがそう言って溜息をついた後、
「……でも今回奇跡的にユース君の
隣の部屋が偶々空部屋になっててね」
と、少し喜びの感情を持った声で言った。
「「え、そうなんですか?」」
ユースの隣の部屋が私の部屋になるのか、
と私は少しだけ嬉しくなる。ユースも
そんな感情を抱いた声をしていた。
「あぁ。じゃ、行こうか」
私とユースはアランさんに続くように、
私の部屋があるという団員寮の棟へ
向かい始めた。
……
「ここが、ルナさんの部屋だよ」
沢山ある団員寮の棟の数々の中の
一つの三階建ての棟に入り、二階に
上がり直ぐの場所の部屋の前に
私達は案内される。隣の部屋の扉には
部屋番号と「ユース・アフェクト」と
細長い名札が貼られてあった。
「……お邪魔します」
私はドアの取っ手を回し、扉を開ける。
一番最初に私の視界に入って来たのは、
玄関だった。玄関の壁の側に白色に光輝……
いていない魔晶石と紅色に薄く輝く魔晶石と
金糸雀色に薄く輝く魔晶石で合成された
ようなキューブ状の照明が壁に
埋め込まれており、アランさんが
金糸雀色の魔晶石に手を触れると、
白色の魔晶石が光輝き始めた。
靴を脱ぎ、中へ入る私達。短めの廊下にも
その照明は壁に埋め込まれているが、
向こうの部屋の窓からの光が廊下まで
届いていて照明を点ける必要もなかった。
廊下の側には風呂とトイレがあり、
廊下を抜けると一人なら十分生活出来る程
の大きさの部屋があり、そこには
ベットや小さな調理場、服や物を入れる
タンスや部屋の隅に小さな机と椅子が
置かれてあったり、氷色の魔晶石と
金糸雀色の魔晶石で造られている
飲食物を保存する箱……冷蔵庫が
置かれてあったりして、生活には
あまり困らなさそうだった。
窓の側には水色とカーテンがかけられてあり、
窓から魔導ギルドの他の建造物が見えている。
「わざわざ私の為に……
ありがとうございます」
「いやいや、団員寮の当たり前の
サービスがちゃんとされてるだけだよ」
出迎えに来てくれた上に朝食まで
奢って下さり、団員本登録の面倒や
部屋の用意までしてくれるなんて
アランさんには感謝の念しかなかった。
一体、私の為にどれだけの人が
動いてくれているのだろう。
記憶を無くして何も分からない私の為に。
それを考えるだけでも感謝の念が
止まらなかった。
………
そして、感謝の念を送りきれない
アランさんとはここで別れることに。
「とりあえず、部屋の名札自体は
団員証明書と共に届く予定だから。
あっ、それと……」
「……?」
そう言うと私に、
一枚の地図を渡してきた。
「それ、本部内の施設の位置が全部
描かれてるから、場所がわからなく
なったらそれを見るといいよ」
「なるほど……ありがとうございます」
そう言って手渡された地図を見る。
様々な施設の場所や情報が載ってあり、
かなり便利な地図だと分かる。
「じゃ、俺はこれで。また会う事も
あるだろうけど、その時はよろしくな」
「ありがとうございました、副団長」
「今日は本当にありがとうございました、
アランさん……いや、アラン副団長」
私とユースはアランさん……いや、副団長に
向けお辞儀をする。自分が団員になった今、
彼はもう立場上では上の存在だ。
「じゃ、また」
そう言って副団長は
部屋を後にして行った。
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「さて……晴れてルナも団員になった
訳だけど、何かしたい事はある?」
慌ただしい午前……いや、そもそも
一昨日から大分慌ただしかったの
だが、やっとまた落ち着いた雰囲気を
感じていた私はユースに何か話しかけられる。
「……そうね……やりたい事は
色々あるけど……とりあえず
荷物を整理したいかな……」
「あっ……そうだね、じゃあ僕は
隣の自分の部屋で荷物整理してくるよ」
そう言ってユースは私の部屋を出て、
隣のユース自分自身の部屋に移動した。
………
「………」
鞄の中の荷物を整理し、
タンスに収納したりしながら
私は今後の事を考えていた。
記憶を殆ど無くしてしまっている今、
私に出来る事は何か。記憶を取り戻す為に
やらなくてはならない事は何か。
……その答え自体は単純に分かる。
それは「情報収集」だろう。
そもそもこのリスラル大陸上の事は
ユースから聞いた情報以外まだ知らない上に
他の情報も何も分からない状況だ。
記憶を取り戻すにあたって、この世界の事、
それ以外の事もちゃんと知るべきだと
私はそう思っている。
「……!」
部屋の壁に掛けられていた時計を見ると、
もう12時を過ぎているところだった。
そろそろお腹も空いてきたところだし、
どこかでご飯を食べてから情報収集を
しよう、と考えた。
……そういえば、団員になったはいいけど
どうやってご飯を買うお金とか稼げばいいのか……
「……そういうのもちゃんと
調べないといけないなぁ……」
私はそう呟いて、荷物整理を進めた。
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………
暗黒の雲が空に渦巻く。
まだ昼過ぎだというのに、夜の如く暗闇が
崩れかけている廃墟街を暗く照らしている。
その人気の一つもしなさそうな場所に、
ただ一人、そこにいるだけで周囲が彩られる
ような風貌をしたものが一人。
少し遠くに見える、圧倒的な尊厳を誇っている
ような、そんな壮大な風貌の巨大な城を
見上げつつ、手に持っているトランプにも
視線を当てている。
「いつ見ても壮大ですねぇ、
我がカース国の魔王城は……」
そう呟き、手に持つトランプを上空に投げる。
宙に飛ばされたトランプは空中で静止し、
直後、ボンッと小さな爆発を起こした後
虹色の光を放ち、紙吹雪が舞い落ち始める。
暗闇の中に吸い込まれていた廃墟街が
一気に虹色の光に照らされ、姿を現す。
「……しかしまぁ、どうやって
この娘と接触を図りましょうかね……」
そう呟きながら、彼はポケットから
一枚の写真を取り出す。元々写真の
現像自体には時間のかかる物だが、
カース国の技術力を持ってすれば
現像時間の短縮など容易だった。
写真には勿論、ルナの姿が映っている。
「情報を聞く限りは、かなりの強者と
考えられますし、いつもの拉致や誘拐じゃ
どうにもならない相手でしょう……
それにショーの出演者としていつかは
出す以上、そんな盛り上がらない手法で
やるのは私のプライドが許しません……」
虹色の光が辺りを照らす中、一人の道化師……
そう、ピエロがただ一人廃墟街で長考している。
数枚のトランプを手に取り、それを見ながら。
トランプ自体が彼にとっての手法の数……いわば
手札というものと捉えられるような感じを
そのまま醸し出している。
「そうですね……まあ、まずは城に
戻ってから考えをまとめましょうかね……」
そう言いながら、いつの間にか隣に佇まっていた
一羽の巨大な黒い鳥に乗り、城の方へと飛んで行った。
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