第17話「到着」
第17話「到着」
……
……なんだろう。
とても、心地良く暖かい。
……なんだろうか。
何かに包まれてるような。
そして、側から凄く
温もりを感じるような……
……
「……ん」
窓から入ってくる朝光に、私は起こされ、
うっすらと眼を開ける。気がつかないうちに
寝てしまっていたのだろうか。魔晶車は
まだ動いていて、山を降りていっている
ような感じがした。
(……んん?)
私は、何か側に凄く温もりを感じる。
一体なんだろう。夢の中でも、何か
温もりを感じたような気がする。
私はその温もりを感じる方向に視線を向ける。
「……きゃっ!?」
……そこには。
壁に寄りかかり寝ている、ユースの姿があった。
その瞬間、私はユースに寄りかかるようにして
寝ていたことに気づき、眠気が一気に覚め
小さな悲鳴を上げ身体がたじろぎ、
反対側の壁に寄りかかる。
まさか寝ているうちに、ユースに
寄りかかっていたなんて。私は頰に
熱が帯び始めるのを感じる。
「……ん……?」
私が上げた悲鳴が耳に入ったのか、
ユースも目を覚ます。そして一目散に
私に視線を当てた。
「あ、ルナ、おはよ……ん?
あれ……どうしたの?」
「えっ、いやっ……」
赤面している私を、眠そうな顔で見ている。
私は起きた瞬間にユースに寄りかかって
しまっていたことを伝え……
(いや、そんなの言えない……!!)
伝えるなんて、あまりにも恥ずかしかった。
いや、まだ私から寄りかかってきている
なんていう確証もなかった。もしかしたら
両方寝ている時に段差に当たってたまたま
不可抗力で私がユースに寄りかかったとか。
そもそも気づいていないかもしれないのに、
自分から墓穴を掘る事になったらそれこそ
本当に恥ずかしいだろう。そういう事を
考えていると、余計に頰が熱くなるのを感じる……
……いや、多分大丈夫だろう。
うん、多分何も気づいてない。大丈夫。
……
「……あ、そういえば……
昨日、ルナが突然僕の方に」
「っ!?」
「寄ってきて……ん?」
……ダメだった。やっぱり知ってた。
「どうかした……?」
「え、えっと……その……」
私は言葉に詰まり、心の中であたふたする。
いつ、いつだ。無意識にユースに
寄りかかってしまっていた自分は。
寄りかかっていた時、私とユースの身体は
完全に密着している事になる。つまり、
気づいていたユースにしては完全に
小恥ずかしくて寝れない状況
だった事に違いない。
つまり、反撃されるかもしれない。
「……うん、まあ不可抗力だから
しょうがないよ……」
まだ眠そうな顔をしているユース。
ユースの人柄や運もあってか、反撃は
飛んでこなかった。良かった。
するとユースは鞄から腕時計を取り出し、
時間を見る。時刻は朝の8時前だった。
「もうこんな時間か……確か出発したのが
昨日の夜8時だったから、もうちょっとかな」
そういうと、左腕に腕時計を巻く。
私の頰を帯びる熱は、暫く冷めなかった。
……
「運転手の人、ずっと運転してるの……?」
暫くして、私はふと浮かんだ疑問を
ユースにぶつける。もし本当に、
夜中ずっと山道を運転してるとなれば
超人、もしくは夜行性の別の生命体なのかと
ありえない疑いを無意識にかけてしまう。
「いや、流石にどこかの関所で休憩は
入れてると思うよ。運転手も人間だからね」
「まあ、そうだよね……」
流石にそんな超人的な存在じゃなかった。
すると、窓から入ってくる木々の景色が消え、
広々とした景色となる事に私は気づく。
山を降り、丘のような地形の道を通る魔晶車。
……
「……あっ」
その景色の中に。
防壁で囲まれた、広大な都市が
堂々とそこに存在していた。
巨大な城、壮大な量の建造物。
今までに見たこともないような、
想像以上の景色が、そこにあった。
「見えてきたね、アステール都」
「……うん」
私はその圧倒的な景色に、息を飲む。
リスラル大陸で一番発展している都市と
言われる程以上に発展しているのではないか、
と丘の上から見ても思う程の圧倒的な建造物の量。
「まもなく、終点アステール都です。
この魔晶車は、ここまでです。
降りの際は乗車券をお渡し下さい」
と、運転手が言う。バスの中はいつのまにか
満席となっていて、立っている人も少なからずいた。
魔晶車は方向転換し大きな関所に一直線に走り出す。
私達は降りる準備を進め始めた。
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アステール都、リスラル連合国立魔導組織本部。
通称「魔導ギルド」の本部の、とある一室。
3人の、動きやすい服装をした、それぞれ
赤色、青色、緑色の魔導士の制服を着た
団員の魔導士が、部屋の前に立ち扉をノックする。
扉には「団長室」と書かれた看板が吊られている。
「失礼します」
魔導士のうち、一人がそう言うと扉を開ける。
団長室とされている部屋の中は、かなり広いのにも
関わらず、一つの壁を埋め尽くす程の本棚が並び、
もう一方の壁には歴代のフォス国の団長の
似顔絵と写真が額縁に飾られている。そして
扉の一番奥に団長の仕事場、とされている
高級そうな長方形の机が置かれ、中央には
お客様専用なのだろうか、低めの長方形の
テーブルをソファーで挟むように置かれていた。
団長室の団長の机の上には沢山の仕事が
山積みとなっている。
『ええ、それで……あっ、どうぞー
……あれっ、どうかなさいましたか?』
その仕事を着々と進めようと筆を走らせている、鎧と布で構成された、騎士の装備なのかドレスなのか、両方の要素を合体させたような、防御性とファッション性を兼ね揃えた鎧を仕事中はずっと、常時装備していると言われる。光り輝く金色の髪、まるでモデルのような美しい、かつ可愛らしい顔立ちと身体のスタイルの良さ。そして地味に露出度も高く、胸元やお臍が堂々と見えてしまっているような装備。全てが美しく、可愛らしい。容姿端麗、眉目秀麗。そして性格も優しく慈悲があり、団長の中でも特に国民から人気もあり、年齢も若く誰もが振り返る存在、「団長」が椅子に座っている姿がそこにあった。
「おぉ、『ジャンヌ・ガルディエーヌ』団長。
今日もお美しいですな……」
「いや、まぁ確かにそうだけど……
用件は彼女の方じゃないだろ」
「あぁ、そうだったな」
そう言うと魔導士達は彼女の方ではなく、先程まで
彼女と話していた若い男性の方に視線を当てる。
「『アラン・カルヴァード』副団長、
間もなくあのお方がアステール都に到着します」
アラン・カルヴァード。
フォス国の副団長を務めている、ジャンヌより少しだけ年下の若い魔導剣士だ。ジャンヌと同じく鎧を着用し、剣を腰に差している。顔立ちやスタイルは誰もが振り返る程の美青年であり、国民からの人気も高く、特に女性からの人気が高い。魔導剣士は魔導士とは少し違い、鎧や魔導士の服よりも動きやすい魔導剣士用の制服を着用し魔法を駆使しながら剣で戦う戦闘形式で戦う。実際に魔導剣士という称号は存在するが、あまり所持している者は少なく、団長、副団長共に魔導剣士というパターンは珍しい。
「分かった。そろそろ出迎えに向かうか。
……それにしても、突然現れてあのアデルポスを
打ち倒し、ゴブリン軍の一角を壊滅させるとは……
……あのお方、ルナさんは一体何者なんだ……?」
「我々も最初は耳を疑いました。噂によると、
神器を所持しているとか、記憶喪失だとか……」
「まあ、とりあえず先ずは俺達で出迎えよう。
ではジャンヌさん、行ってきますね」
アランはジャンヌのいる方向に
目線を向け、笑顔でそう言った。
「ええ、行ってらっしゃいませ」
彼女も可愛らしい笑顔で返すと、扉から出て行く
アラン達を見ながら筆を走らせるのを再開した。