第16.5話「月の寝顔」
今回はユース君視点です。
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午後11時。
フイ草原を出発して、暫く魔晶車は
また森の中の木々が両端に立ち並ぶ、
特に味気のない道を走っていた。
魔晶車にはお手洗いなどの水洗設備は
無いため、先にフイ草原のお手洗いの近くに
設備されていた別の水洗設備を利用し
先に歯を磨いておいたため、もういつでも
寝る準備は出来ていた。フイ草原を出発してからも、トランプゲームをしたり、ルナが右腕に付けている腕輪が神器なのかもしれない、という事とアステール都について話したりしていた。アステール都はリスラル大陸で人間が作った都市の中では一番発展している都市で、様々な貿易路の中心となり、市場などはいつも賑わっていて、それだけじゃなく魔晶石を原材料とした様々な装置の主な製造地となっている、という事などを話していた。
「へぇ……そうなんだ」
一通り話し終わると、ルナが
少し眠そうな表情で答える。
「うん……ちょっと眠い?」
「うーん……
なんだろ……疲れてもう眠い……」
そう言うと、ルナはふわぁ、と
口を隠し欠伸をした後、眼を擦る。
まあ、彼女はリーズを救出する時、
一番活躍してくれたから、もう
疲労感が彼女の表情から見てとれた。
ルナは一度は負けそうになったものの、
それでもアデルポスとの戦闘を制し、
リーズちゃんの救出に一番活躍してくれた。
その為、
ルナが一番疲労が溜まっているのだろう。
「毛布、いる?」
と、言うと僕は荷物から一人用の毛布を
二枚ほど取り出し、一枚をルナに手渡す。
「うん……ありがとう」
そう言うとルナは毛布を身体に
巻くように毛布を自分自身に包まさせる。
それに続き自分も身体に毛布を包まさせる。
………
今日。
今日は物凄く濃い一日だった。
朝からバード村がゴブリン軍に襲撃され、
リーズは攫われ、救出に向かった所
あのアデルポスが居た。
ルナが居てくれたおかげでなんとか
リーズを救出することができたが、
もしルナが居なかったら、リーズを
救う事なんて不可能だっただろう。
ルナには心から感謝しないと。
「……今日はありがとう、ルナ」
そう感謝の言葉を言った後、
ルナに目線を向ける。
……が、しかし。
「……zzz」
「……え」
気づいた時には、もうルナは寝てしまっていた。
一番後ろの席は真ん中に区切りのような柱が
埋め込まれていて、窓側で無くとも、
その柱にもたれかかれば
寝れるようにはなっていた。
ルナはその柱にもたれかかり、
すー、すー、と寝息を立てていた。
(……本当に疲れてたんだなぁ)
彼女は昨日、記憶を無くした状態で
目覚めたらしく、今日まで色々な事に
巻き込まれて、すごく大変そうだった。
僕はルナの寝顔に少しだけ視線を当てる。
すー、すー、と可愛らしい寝息を立て、
寝顔も……可愛らしく、月白色の髪が
その可愛らしさにアクセントをつけている。
(……かわいい)
僕はその寝顔にちょっとだけ視線をずらせなく
なってしまう。こう見ると、ルナも異性の一人
だった事を思い出す。まぁ、別に男勝りな性格
だからとか、そういう理由ではない。
……なんだろうか。
ルナはいつも落ち着いてて
クールな感じなのだが、
偶に可愛い反応を見せる。例えば、
宴の最後の方で変な事を言っていて、
彼女も自覚があまりないらしく、
リーズに弄られて物凄く恥ずかしがっていた。
その姿がとても可愛く、自分も恥ずかしがって
なければ自分もルナの事を弄ってたかも知れない。
(まあ、あの状況じゃ無理なんだけどね……)
そう思った瞬間だった。
「……わっ」
突然、魔晶車が段差か
何かにぶつかり揺れる。
……その瞬間だった。
「……!?」
その揺れた勢いで、ルナが僕の身体に
寄りかかってきた。揺れにも気付かず
既に眠っていて、僕の方に寄りかかっている
事にも気づいていない。
(えっ、ちょ……!)
毛布越しとはいえ、密着した僕とルナの身体。
突然の事に、僕は少し混乱した。
ルナの寝顔がすぐ横にあり、寝息が
はっきりと聞こえる。毛布越しとはいえ、
ルナの身体の暖かさや柔らかさが
身にしめて伝わってくる。
それと同時に自分の心臓の鼓動が、
どんどん速くなるのを感じる……
(……寝れない……)
魔晶車の中、ただ一人僕だけ、
「寝れない」という危機に直面していた。