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メモリーズ・ルナ 〜Fragment of memory〜  作者: ミゼン
第2章「アステール都編」
16/24

第16話「星空」


森の夜道を進む、たった一台の魔晶車。

まだ道の両側には木々が立ち並び、

木に一定間隔で吊られている

光り輝く魔晶石が入ったガラス瓶の

おかげで辺りは少しばかり薄明るい。


午後10時。

バード村で起こった事を思い出しながら

話をしたり、「トランプ」という

この世界での娯楽用の道具で二人で

少し遊んでたりしていた。

途中、別の村に停車し誰かが乗り、

魔晶車に乗っている人は少し増えていた。


「………」

「………」


今、私とユースはトランプを手に、

真剣勝負をしていた。私の手札には

「Q」と書かれ、クイーンの絵が描かれて

ているカードが1枚。対してユースは

2枚のカードを手に持っていて、

両方裏向きで同じ模様が描かれている。


先程ユースから「オールドメイド」という

トランプゲームを教えてもらった。

ルールは始めに同数のカードを

人数分配り、一枚ずつ他者から

抜き取り同じ札があれば捨て、

最後にジョーカーというカードを

持っている人が負け、だという。

ジョーカーには悪魔のような

絵が描かれているらしいが、

今私の手札にはジョーカーはない。

つまりユースの方にジョーカーが

ある、ということになる。そして

私が欲しい「Q」のカードも。


「……悩んでる?」


少し私の心情を突いてくるような

ユースの少し悪そうな笑みを

浮かべた表情。まるでこちらの

心の中を見透かしてくるかの

ような感覚を感じる。


……いや、惑わされちゃだめ。


きっとそういう風に思わせて、

心情的に余裕を無くさせてこようと

しているのかもしれない。

さっきから何回かこのゲームを

やっているが、まだ1回も勝ててなくて、

敗因も大体これだった。


「うん……案外難しいね、これ」


私は惑わされないように、

笑みを返しながら軽く聞き流し

ユースの表情を見ながら、ユースの

手札を取ろうとする仕草をする。

どちらにしようか、迷うような仕草を。


(……どっちだろう)


しかし、あまりユースの表情は変わらず、

まだどちらに目当てのカードがあるか

分からない状態だった。ルールを聞いた時は

割と単純なゲームなのかと思ったが、

実はそうではなく、かなり心理的要素が

入ったゲームだった。


(……っ)


心優しい性格を持つユースの、

私を惑わしてくるような

少し悪そうな笑み。出来るだけ

動揺しないようにしているが、

やっぱり彼の性格から出てくるとは

思わなかった、ギャップとも言える

その表情に大体惑わされ、負ける。

ユースはこういうゲームは結構得意

なんだ、と既に思い知らされていた。


でも、流石に何回か場数を踏み、

ユースの表情にも慣れてきた感じがした。


後は、どちらのカードを選ぶか……

ただそれだけだったのだが、

そこが一番の難関だった。僅かな

ユースの表情の変化から欲しいカードを

引き当てる事自体が難しい。


「………」


……しかし、もうこれ以上

ユースを待たせるわけにもいかない。

だいぶ考えたが、私はユースの手札の

左の方にあるカードを手に……


(……!いや、でも……!)


しようとしたが、一歩手前で私の中の

何かが私の手を止めた。本当に

こっちのカードでいいのか。

もしジョーカーを手にしたら、

次はユースの惑わし攻撃に遭うだろう。

ジョーカーじゃない方を選ばれたら

負ける、という動揺を隠しきれずに、

ジョーカーを手札に残されたまま負ける。


さっきもそういう風にして負けた。


(うぅ……ん……)


右か、左か。

どちらに私の目当てのカードが

あるのか。ユースの表情も見ながら、

どちらにあるのかを考える。

どっちだ、どっちにあるんだ、と。


(……!)


その時、一筋の光が見えた。

右のカードを選ぼうとした瞬間、

ユースの顔の口角が少し上がったのだ。


「……こっち!」


私は一瞬の隙を見逃さなかった。

右のカードにはジョーカーがあるんだ、

と思い、左のカードを選び、取る。

そして目を瞑った状態で、無言のまま

私の目の前に引いたカードの表面を

持ってくる。そして、開眼する。


「……!」


そのカードは。


私の目当てのカード、「Q」のカードだった。


「あぁー……遂に負けたかー」


「やった、勝てた……!」


少し悔しそうな表情になったユース。

私は遂にユースを打ち破ったんだ、と喜んだ。


「どうして分かったの?」

「一瞬口角が上がったから……それで分かったの」

「あぁ……すごいよ、よく分かったね」


ふふっ、と喜びの色の笑みを浮かべる。

するとユースが初めて負けた悔しさから

もう一度勝負を仕掛けて、

こようとしたその時だった。


「あっ……!」

「……!」


道の左側を中心に、両側に

立ち並んでいた木が、カードゲームに

夢中になっている間にどこかに消えて、

外の景色が見えるようになっていた。

木々で囲まれた、広々とした平原が

広がり、幾つかの村の光が見えていた。


すると、魔晶車が小さな停車駅に止まる。


「フイ平原、フイ平原です。

次の発車時刻は20分後です、

お手洗いが設備されている駅は

ここを過ぎますとしばらく

ございませんのでご注意ください。

降りられる場合は乗車券を

提示されてから降りて下さい」


と、運転手が車内に呼びかける。

乗車券は本来乗る前に運転手に

行きたいところまでの運賃を払い

証明書として渡されるもの、らしい。

そういえば魔晶車に乗る際にユースが

乗車券らしきものを二枚、運転手に

見せていたような気がする。


乗っていた数少ない乗客達が次々と

降りていくのを見て、私達も

お手洗いの為に一旦降りる。


………


お手洗いを済ました私とユース。

停車駅に設備されているお手洗いから

出る。お手洗いの少し近くに停車駅の看板、

雨除けが付いたベンチが設備されていた。

ここから少しだけ近くに村の光も見える。


「すごい広いね……」

「うん、リスラル大陸でも

トップ争いになるぐらいの

大平原らしいんだ」

「へぇ……」


ここまで平原が広く、村が幾つもあると

魔晶車の待ち時間が長くなるのも納得できた。

近くの村では何か騒がしく、宴会か祭か

何かやっているのか、という雰囲気だった。


「……あっ」

「……?」


すると、ユースが何かに気づき

夜空を見上げる。私もそれに続き頭を上げる。


「わあっ……」


夜空を彩る、沢山の光粒。

その圧倒的な光景に私は思わず

感嘆の声を上げ、息を呑む。

まるで川の如く流れる光粒の数々。


「綺麗だね……」

「うん……」


その光景を二人で見ていた私達。


ずっとこの星空を見上げていたい。


と我儘っぽい事を考えていた。


……


そんな時だった。


(……ん……?)


何だろうか。


この、美しい星空に

何か見覚えがあるような。


星空に見惚れていくごとに、

何かが頭の中を駆け巡ろうとする。


「……ルナ?どうかした?」


……何だろう。

星空を見上げていると、

凄く不思議な感情に陥る……


……


……すると。


突然だった。


「……ル、ルナ……?」

「……あっ、ううん、なん……っうぐっっ!?」


突然、頭の中に電流が流れたかのような

衝撃が走る。そしてその瞬間あの時と同じような

激しい痛みが私の脳内を襲った。その瞬間、

右腕に付けていた腕輪に嵌められている宝石から

神々しい純白色の光が放出される。


あの時ほどでは無いが、それでも頭を何かで

叩かれているような感覚を感じる。


痛い。頭が痛い。


私は頭を抑えその場でうずくまった。


「るっ、ルナっ!?」

「ううっ……うぐっっ、痛い……!!」


ユースは驚き、うずくまった私の表情に

目線を向けてくる。私はあまりの痛みに

対応を返す余裕すらなかった。


「……っああっ……!!っ、

っがぁあっ、あああああっ!!」


すると。痛みにうずくまっていた私は、

突然視界がぼやけ始め、世界が暗転する。


ユースの姿は私の視界から消えた。


……


脳裏に、何かが焼き付いてくる。


元々の記憶なのか、何なのか。


全くもって分からない。


……


『……綺麗な、星空……

……もそう思うでしょ?』


微かながら、声と姿は判る。口の上からは

分からないが、笑みを浮かべているのは判る。


誰にも、聞いたことないような女性の声。

上を見ると、本当に綺麗な星空が広がっていた。


(……誰……?)


一体その女性は誰なのか。

私は何を見ているのだろうか。

これが自分の元々ある「記憶」ならば……


……


「……ナ……!!ルナ……!!」


気がつくと、私は元々居た草原の上に

横たわっていた。私の名前を呼ぶ

ユースの声が聞こえる。


「……ん……?」


まだ、意識が朦朧とする。脳内を襲っていた

痛みは既に消えており、私は微かな視界を

元に戻す為に目を擦る。腕輪の宝石から

発される光は既に収まっていた。


「ルナっ……!!大丈夫……!?」


ユースは突然私の様子がおかしくなった事に

どうすれば良いのか分からないような様子

だった。私は私の背中に彼の手がさするように

置かれている事に気づく。


「……う、うん……何だろう、今の……」

「な、何があったの、ルナ……?」


私は今まさに起こったことを

ユースに話した。突然脳裏に焼き付いた

女性の姿、そしてあの星空の事を。


「……そうなんだ……」

「よくわかんないけど……

もしかしたら……私の記憶の一つなのかも」


そう呟くように言うと、運転手の人がこちらに

向かって小走りでこちらに向かってくる。


「だ、大丈夫ですか!?」


凄く心配そうな表情をして、こちらに視線を当てる。

運転手の近くには、同じ魔晶車に乗車していた

乗客達がこちらを見ていた。


「え、ええ……大丈夫、です……」


私は無理矢理笑顔を作り、何とか

心配を掛けられないように振る舞う。


「そ、そうですか……もうすぐ発車時間に

なりますので、早めにご乗車下さいね」


そう言うと、運転手の人は魔晶車へと戻った。

乗客達もそれに続き戻ろうとする。


「大丈夫?立てる?」

「うん……大丈夫」


私はユースの手を取り、

その場から立ち上がる。

そして私達は他の乗客達に続き、

魔晶車へと戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回は17話ではありません

ちょっと区切りが悪いので

16.5話(!?)になると思います


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