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メモリーズ・ルナ 〜Fragment of memory〜  作者: ミゼン
第2章「アステール都編」
15/24

第15話「魔晶車に揺られて」

リーズちゃんやメグさん、色んな人と

バード村で別れ、魔晶車に乗り、

夜の森の中の道を進んでいる。

道の両側には一定間隔で木に、

光り輝く魔晶石が入ったガラス瓶が

吊られているが、少しばかり薄暗い。

道幅はそこそこ広いが、あまり整備が

行き届いておらず、偶に大きな段差に

ぶつかり魔晶車が揺れた。


「……ねぇ、ユース」

「ん?」

「アステール都にはいつ着くの?」


私はふと浮かんだ疑問を

解消しようとユースに聞く。


「えーっと……大体13時間はかかるかな」

「えっ、そんなに?」

「うん。明るい時間帯なら、ルスーとかの

あの鳥でもう少し早く行けるけどね。

あっ、でもずっと飛び続けられる訳じゃ

無いからそんなに変わらないかな……?」


その時間の長さに少し驚く私。

ただ、ユースの実家で地図を見た際に

右上の森林地帯の上の部分あたりに

バード村があった事を考えると、

割とその時間の長さに納得できた。


「そっか……長いね……」


納得できたはいいが、やはり「13時間」

という時間の長さの圧倒力が強く、

やっぱり長いと感じていた私。すると、

ユースが荷物から何かを取り出した。


「……ん?それなに?」

「まだリーズが産まれる

前に撮った家族写真だよ」


その小さな額縁の中に入った

写真を見ると、まだ幼いユースの姿と

少し若々しいメグさんの姿と、

見知らぬ男性が写っていた。

恐らく、今は亡きユースの父親の姿だろう。


「……この人がユースのお父さん?」

「うん、そうだよ。……まぁ、実は

いつも本部の方で働いてたりしてたから

あんまり顔を合わせた事はないんだけどね」

「えっ……そうだったんだ」

「……まぁ、凄く優しい人だったよ」


意外にも顔を合わせた事が

ないというユースに少し驚く。


すると、突然段差にでも当たったのか

魔晶車がガタッと揺れた。


「……わっ」

「おっ……と」


私とユースは座っていた

態勢から少し崩れかける。

ユースは右手に持っていた写真を

落としかけるが、左手で受け止める。


「……よく揺れるね」


「道の整備があんまり行き届いて

ないからね……国もこんな道まで

整備するお金無いのかもね」


この魔晶車に乗っている長い時間を

たわいも無い雑談をして暇をしのいでいる。

それにしても、窓から見える景色には

未だに木々しか見えていなかった。

もう少し、広々しい景色が見えても

いいのにな、と我儘っぽい事を考える。


「……ねぇ、ルナ」

「……ん?」

すると、今度はユースが私に話しかけた。


「まぁ、一応聞きたくて……

ルナが、なんか宴の終わりの頃……

あの時独り言をぶつぶつ言ってたじゃん?」


「……!?あっ、あれは……その……」


突然あの時の事を話題に出され、

身体がびくっと震えた。

それだけでも頰が熱くなり始める。

私は少し視線をずらしどうにか

誤魔化そうと考える。


「……あれ、リーズに変な事言われて

ちょっとおかしくなったんだよ……ね?」


「……!うっ、うん!ちょっと自分でも

何を考えてるのかわかんなくなっちゃって……」


頰に帯びている熱は消えないし、少し焦って

噛んでしまった部分もありかなり説得力には

欠けてしまっているが、それでも無理矢理弁解する。


「……だよね、まさか……」

「……?」

「……いや、なんでもない」


その後、十数秒間の沈黙が続く。

顔の火照りは消えず、恥ずかしさから

ユースの視線から自分の視線をずらす。


「まさか」の後を聞きたかったが……


聞いたら聞いたで話がぐちゃぐちゃに

なりそうな気がしたのでやめておいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


漆黒の闇に浮かぶ、紅き月の下。


濃い紫色の毒々しい木々が囲む、大きな屋敷。


不気味な空間の中、ゴシック風の建造物が

一軒だけ立っていて、余計に不気味な表情を

醸し出しているように見える。


「………」


屋敷の門の前に立つ、一体のゴブリン。

そのモンスターに背負われた、一人の魔族の男。


すると、鉄製の門の上に留まっていた蝙蝠が

門の前に現れた魔族とモンスターを見る。

その姿を見た瞬間、何かを合図する

素振りを見せる。十数秒後、門の先にある

屋敷の扉から、メイド服を着た若い小悪魔が

二人飛び出してきた。黒い羽も生えており、

バサバサと飛びながら門の近くまで向かう。


「アデルポス様っ!!」

「一体何があったんですか!?」


凄く慌てた表情で背負われた魔族の男、

アデルポスに視線を当てる。彼は大怪我をし、

顔から血の色が流れていた。


「事情は後で話す……門を開けろ」

「「はっ、はい!」」


そういうと彼女らは門の鍵を開け、

門の重い鉄扉を一生懸命開ける。

アデルポスとそれを背負ったゴブリンは

開けられた門を通り、通行を確認した後

また彼女らは一生懸命扉を閉め、施錠する。

その後、屋敷の扉が彼女らの手によって

開けられ、アデルポス達を中に入れ……

ようとするが、ゴブリンの身体が大きすぎて

入れず、仕方なくゴブリンは一旦外に放置し、

アデルポスは二人のメイドに

支えられながら屋敷の中に入る。


「まっ、まずは治療しないと……」

「いや、後で良い」

「でっ、でも!」

「あのお方への報告が先だ。

私の身体など後回しで構わん」


先に報告を済ませなければならないという

忠誠心を持つアデルポスと、それよりも

彼の身を案じ心配するメイドの二人。

二人は「あのお方」に仕える小悪魔メイドで

そのお方の部下であるアデルポスも

実質的には主人同然の扱いとなっている。


玄関のすぐ向こうにある階段を上り、

最上階の3階に上る。少し歩き、

「あのお方」の部屋の前に立つ。

メイドの一人が、扉をノックする。


「ご主人様、アデルポス様が

お戻りになられました」


すると、扉の中から、

若々しい女性の声が聞こえてきた。


『入っていいよ』


その声が聞こえてきた後、「失礼します」

というメイドの声と同時に扉の中に入る。


少し広々としている部屋の中のソファーに、

赤色のフリルがアクセントとなっている、

膝下までの黒色のドレスを着こなし、

まるで血塗られたような色のハイヒールを

履いている、白髪のロングヘアーの

若い女性が座っていた。アデルポス達の

方に視線を向けると、彼の姿を見て

少し驚き、立ち上がる。背中には『吸血鬼』

と思われる黒い羽根が生えていた。


「あれ、どうしたの?そんな怪我して」


「……『ラミア・リリィ』様、

重要なご報告が御座います」


そう言った後、何が起きたのか、全てを

ラミア・リリィと呼ばれた女性に話す。


……


「ふーん……つまりその『写真』に

写ってる娘にあの地帯のゴブリン軍を

壊滅させられた、ってこと?」

「そういう事です……申し訳御座いません」

「……まぁ、そういう事もあるよね。

被害はそれだけなんでしょ?

それに、ちゃんと新しい情報も

手に入って良かったじゃない」

「リリィ様……」


アデルポスは自身の力不足と

それに対しての申し訳なさを感じるが、

それに対してリリィは一切責めることはなく、

むしろ微笑み、僅かな成果を褒めていた。


「とりあえず、早く怪我治しておいで」

「……はい、分かりました」


そう言うと、アデルポスはメイドの二人に

支えられながら部屋を後にしていった。


……


「とはいえね……神器を持った人間が

また増えたなんて、厄介よね……

聞いた限りじゃ、まだそこまで神器を

使いこなせてないのかもしれないけど、

放置してると大変なことになりそう……

後であっちの方に通信を送っておかないと」


アデルポスが部屋を後にした、その後。

部屋の中で、写真を手に取り

独り言をぶつぶつと呟いていたリリィ。


すると。


『また新しい役者が増えましたね……』


突然、彼女の耳元に男性の声が聞こえてきた。

「きゃあっ!?」


誰もいなかったはずの自分の部屋の中で、

突然自分以外の声が中で聞こえ、

リリィは驚き見た目の美麗な姿からは

想像できないような可愛らしい悲鳴をあげ、

声のした方向に視線を向けながら

背後にたじろいでいた。


「あれ、驚かせちゃいました?」


そこにいたのは、ピエロの格好をし、

顔にもピエロの仮面を被った姿の、

リリィより一回り身体が大きい男性が

そこに立っていた。扉や窓も閉まっているのに、

どこから入ってきたのかわからなかった。


「……ねぇ、わざとでしょ今の」


が、しかしその後のリリィの反応から、

彼は彼女の知り合いだと判明する。

可愛らしい悲鳴を上げてしまい、

少し顔を赤らめ腕を組みムッとする。


「まぁまぁ、それよりその写真の

中に写ってる娘、割と面白そうですよね。

ショーを盛り上げてくれるような方が

最近あまり少ないから、割と良さそうですね」

「ショー……ね」

「そうです、ショーです!最近は少し

盛り上がりに欠けてるのですよ!

戦争などで無意味に血を流し合うより、

ショーの中で血が流れた方が

余程合理的じゃありませんか?」


と、饒舌にピエロが話したてる。

リリィはその勢いに少し困惑の表情を浮かべるが、

彼の性格をよく知っている彼女にとっては

別にどうした事ではなかった。


「昔からずっとその性格は変わらないわね……

で?つまりこの娘をショーに出したい訳?」

「まぁそういう事です、が……」

「……?」


「いきなりショーに出すのはマナー違反でしょう。

先ずは挨拶から入らなければなりません」


と言うと、彼の性格をよく知っていたとしても

偶に理解できず困惑するリリィに背を向ける。


「今回は私がこの娘への接触に行きます。

その娘の情報と共に通信で送っておいて下さい」

「えっ、ちょっ……」


そう言うと、リリィの反応にも目をくれず、

一瞬にしてピエロの周辺にボンッと煙が舞い、

煙が収まると、その場からピエロは消えていた。


「はぁ……紳士ぶってる癖に身勝手なんだから」


彼女は溜息をつき、部屋の扉を開け

自分の部屋を後にし、どこかへ向かった。

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