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メモリーズ・ルナ 〜Fragment of memory〜  作者: ミゼン
第1章「バード村編」
14/24

第14話「出発の時」

宴の楽しい時間も一気に過ぎ、

時刻は午後7時。まだまだ宴は

続きそうな雰囲気だが、私は今日の夜には

ユースと共にこの村を出発しなければ

ならなかった事を思い出す。


「ねぇユース、出発って何時ぐらいなの?」

「出発?えーっと……魔晶車がここに来るのが

8時くらいだから、あと少しかな……」

「……そっか……」

「出発の用意は二人共

持って来てるから大丈夫よ」


「いや……それは嬉しいん

ですけど……えーっと……」


「「……?」」

メグさんと話を聞いていたリーズちゃんが

私の顔に視線を当てる。


……


私自身、目覚めてから

ユースやリーズちゃんやメグさんなど、

色んな人と出会って、見ず知らずの私に

こんなにも良くしてもらった事に

感謝しきれないほどの感情を持っていたのだ。


「……見ず知らずの私に、ここまで良くして

頂いて、本当にありがとうございました」


私はメグさんに頭を下げる。

もしもユースに出会ってなかったら、

もしもこの村に出会って、メグさんに

1日面倒をかけてくれて貰えてなかったら。

私はもしかしたら、どこかで力尽きてしまって

いたかもしれなかった。


「……ふふっ、いいのよ。困ってる人を

助けるのは当たり前のことじゃない?」


メグさんはそう笑顔で返してくれたが、

本当に私の中ではメグさんへの

感謝の気持ちと、それだけでなく

ユースやリーズちゃんに出会えたこと

への嬉しさや、リーズちゃんを救出しに

行く時に、助太刀してくれた

ハイルさん達にも感謝の気持ちで一杯だった。


「そっか……ユースお兄ちゃんもそうだけど、

ルナお姉ちゃん、もう行っちゃうんだね……」

「リーズちゃん……」


リーズちゃんが寂しそうな表情で

私とユースに視線を当てる。

まだ昨日出会ったばかりなのに、

もう別れが来るなんて……

私もそんな気持ちだった。


「……大丈夫。また会いに来るからね」

「ほんと?」


リーズちゃんの表情が一瞬にして

明るくなった。たとえ敵国の軍に

捕らわれようが、リーズちゃんの

ポジティブな性格は変わってないようだ。


「うん。ね、ユース」

「もちろん。

また定期的に手紙も送るからさ」


「良かった……じゃあ、ルナお姉ちゃんの

記憶探しの……旅?とかもちゃんと教えてね!」

「うん、分かったよ」


とても嬉しそうな表情を

浮かべるリーズちゃん。

ユースもそれに応じてニコッと

リーズちゃんに笑顔を見せていた。


……記憶。


目覚めてから、記憶の一欠片も

持っていない状態だった私。

分からない。全然分からない。

私が一体何者なのか、それすら分からない。

そんな手がかりもない状況から、

どのようにして自分の記憶を蘇らせるのか。

これからどうなって行くのか、

正直不安なところもある。


……それでも、私は前に進む。

ユースという心強い仲間と一緒に。


「あっ……後さ……」

「「……?」」


リーズちゃんが少しニヤけ顔になり、

呟くような発言に私とユースは反応する。


「……ユースお兄ちゃんとルナお姉ちゃんの

関係状況も教えてくれたら嬉しいな、なーんて」

「か、関係状況……?」


「うん!二人共、いつになるかは分かんないけど、

もし付き合ったりとかしたら……ね、ふふっ」

「リ、リーズ……!?」


突然のリーズちゃんが私達に対しての

爆弾発言を私とユースに向けて言う。

そして昨日、「付き合う」という意味を

既にあの時、ユースが『軟派』と言われ

揶揄われていた時についでに教えてもらっていた私。

私は昨日、リーズちゃんが言っていた言葉を思い出す。


「『付き合う』ってのはね、男の人と女の人が

両思いの状態で、かつ両方とも恋愛的な好意を持っている事を既に確かめあっている事を言うんだって」


……!?


「い、いやそんな、付き合うって……!」

「ま、まだ気持ち早いんじゃない、リーズ……!」

「え?『まだ』って事はいつか……」

「え、いっ、いやそういう意味じゃない!!」


突然すぎるリーズちゃんの発言に

思わず恥ずかしくなった私とユースに、

突然更なる追撃が飛んでくる。


「まぁ、ルナちゃんとユース君……割と

相性良さそうに見えますし、いつかは

付き合う日が来てもおかしくないかも……?」


「い、いやだから違っ……!!」


少しお酒の入っている女性の先生からの追撃。私とユースは慌てふためき、ユースの顔がカアッと赤色に染まっているのが目視で分かるぐらいにまで熱を放射しているのが分かる。そして私も同様だった。


……恥ずかしい……

ユースとまだ昨日会ったばかりなのに。

そ、そんな……


つ、付き合う、って……


……


脳内で処理できない程の感情が、

防波堤を破壊しそうになる……


……


も、もしも……


わ、私とユースが……


……


……


(……って、なんで私こんな事考えてるの!?)


訳の分からない感情に飲み込まれかけた私は

正気に戻る。なんで自分自身がこんな事

考えてる事すら分からない。リーズちゃんが

変な事言ったからなのもあるかもしれないけれど、

それでも一体、今の感情はなんだったのだろう……?

身体の奥深くで、脈が少しだけ早くなるのを感じる……


「……ルナお姉ちゃん?大丈夫?」

「っふえっ!?」


困惑し、混乱していた私に突然リーズちゃんが

呼びかけてきた。その不意打ちのような声に

驚かされ、変な声が出てしまう。


「なんか、すごい独り言

言ってたよ……?」

「……えっ」


周囲を見ると、ユースが頰を人差し指で

ツーっと掻く仕草をしながら、

私を少し困惑した表情で見ていた。

その瞬間、私とユースの視線が合う。


「……う、うん……」


「……?


……えっ……えっ!?」


その瞬間、事の大きさに気づいた私は

頰だけでなく顔全体に熱を帯びるのを感じた。

私は恐る恐るリーズちゃんに聞く。


「もっ、もしかして……

私、変な事言ってた……?」


「変な事……というか、『もしも私とユースが……』

って呟いてからぼそぼそ何か呟いてた……


ルナお姉ちゃん、実はもしかして……?」


「えっ、えええっ!?!?い、いや違っ、

そんな事全然考えてないよ!!?」


心の声がだだ漏れになっていた事実と

その声の内容をもだだ漏れになっていた

事実に心底恥ずかしくなる。

頰が熱い。恥ずかしい。


「えぇー?顔真っ赤になってるよ?」


「いっ、いやっ、その……!!」


昨日、沢山の村人の人達の前で盛大に

腹の音を鳴らしてしまった時より

遥かに恥ずかしさが増していた。

私は言葉につまり、周囲の視線から

自分自身の視線を逸らそうとする。


「……ルナ、大丈夫。

別に僕は気にしてないから……」


と、視線を逸らそうとしたその時、

ユースと視線が合い、まるで此方を

気遣いしてくれるかのように私を見ていた。


……どう考えても気にしてる

感じに見えたけど……っ……


「うっ、うう……うぁあああ……!!」


私はこれ以上ないあまりの恥ずかしさに

赤面した顔を抑え嗚咽した……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……


紅い月が、漆黒の闇の中に浮かんでいる。


その月の下に、あまり整備が行き届いていない

一本の道が真っ直ぐと伸びている。


その道の横には、濃い紫の色をした、

毒々しい木々がずらっと立ち並んでいた。


物静かで、とても

不気味な感情を醸し出している。


……


ザッ、ザッ……


その道を、怪我をおった一体のモンスターが

一歩一歩進んでいる。そのモンスターの

背中には、同じく怪我を負った、

一人の魔族の男が背負られていた。

顔に血の色が流れている。


「……奴は一体何者なんだ」


呟くように、手に持っていたものを

暗闇の中まじまじと見る。

彼の手に持っていたもの、それは写真だった。


それも、彼と戦い、そして彼を打ち倒した。

あの少女の姿が、写真の中に収められていた。


「……よくよく考えれば、私が見た事もない

魔法を使っていた……もしや、『神器』の持主……


……いや、それにしては弱すぎる。仮に奴が

『神器』の持主だとしてはあまりにも弱い……

それに加え、私が見たこともないような

属性の系統の魔法だった……『他』属性だと

すれば納得はいくのだが、矛盾する点が多い……」


彼……アデルポスは、自分自身を打ち負かしたルナ

の持っていた力について考えていた。一体あの力は

何なのだろうか、と。


「……まぁ、とにかくあのお方に

報告しなければ……」


そう呟くと、写真を衣嚢の中にしまう。

道の遠く向こうに、開けた場所があり、

そこに屋敷がポツンと建っている方向に

アデルポスのゴブリンは目線を向ける。


その場所に向かう、アデルポスを背負っている

ゴブリンの足音が、夜の森の中でこだましていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……


時刻は8時前。

遂に、出発の時が来てしまった。

私とユースの見送りの為に、

一時的に宴も中断された。

少し宴の会場から離れた、村の門の前。

門の両端には、長い棒の上に正八面体の

ガラスの箱が付けられ、その箱の中に

光り輝く魔晶石が入れられている。

そしてその棒の隣には、『バード村』と

書かれた看板と、地面に棒が刺さっており、

その棒の先端にも「バード村』

という看板が付いていた。


ガタガタ……


門の向こうの道から、

ガタガタと音が聞こえだす。


「あっ、来た!」


リーズちゃんが向こうを指差すと……


大きな塊のような……いや、塊じゃない。

何かが此方に向かってくる。

見たこともないような、少なくとも

私より縦長で巨大な何かが此方に。


(……なに、あれ……?)


私はその正体を知るまでは、

少し身構えようかと考えていた。


しかし、「それ」が人工物で

あると分かった。それは門の前の開けた場所で

方向転換するように一回転する。その形状から、

どう見ても魔族やモンスターではないことは分かった。

縦長な形状をしていて、窓が色んな場所に付いている。


そういえば、いつ出発するか聞いた時に

ユースの発言の中に「魔晶車」という言葉が

入っていたことを思い出す。


「……あれが『魔晶車』?」

「うん、そうだよ」


すると、その魔晶車の中から

誰かが降りて来た。


「バード村発、アステール都行きでございます。

ご乗車される方はおられますか?」

「あっ、はい!」


私達が来ている服とは少し違う服を

来た人の呼びかけに、ユースがいち早く応える。


「ルナお姉ちゃん」

「……ん?」


すると、リーズちゃんが私に呼びかける。

少し寂しそうな表情だった。


「……またいつか、帰って来てね?」

「……うん、必ず」


そう笑顔で返すと、集まっていた民衆の中から

「あの」二人組……メヤちゃんとフムちゃん、

ハイルさん達が出て来た。


「ユースさん、ルナさん!

またいつか帰って来てください!」

「私達、ずっと待ってますから!」


メヤちゃんとフムちゃんの声。

彼女達はリーズちゃんの友達で、

リーズちゃんを救出した後にリーズちゃんを

思いっきり抱きしめていたことを思い出す。


「うん、勿論!」


彼女達二人組の声に、ユースが笑顔で答えた。


すると、ハイルさんが私に呼びかける。


「ルナさん、もしも記憶が戻ったら……

その時は、私達に聞かせてくれませんか?」

「……記憶ですか?」

「ええ。貴女の持つ神器が貴女の記憶に

関係しているとなると、相当凄い人じゃない

かと、私は予測しているんです」

「……ええ、分かりました。ただ、

いつになるか分かりませんけど……」

「大丈夫です、構いませんよ。

そう簡単に死ぬような

年齢じゃありませんし……」


ハイルさんがそう言うと、ユースが私に呼びかける。


「ねぇ、ルナ」

「ん?」

「そろそろ出発しないと……」

「……そっか」


ユースの呼びかけに応えると、彼は

集まっていた民衆に視線を当てた。

私もそれに続くように民衆に視線を当てる。


「……それじゃ、またいつか!」


そうユースが言うと、大勢の民衆がわあっと盛り上がり、

「じゃあね」「また帰って来てね」などという声が

沢山此方に飛ばしてきていた。


「……皆さん、二日間だけでしたけど……

今までありがとうございました!」


私もユースに続き民衆の皆に

別れの挨拶を言い、

ユースと一緒に魔晶車に向かう。


すると、リーズちゃんが私達の元に駆け寄って来た。

「……じゃあね、ルナお姉ちゃん、ユースお兄ちゃん」


「うん……じゃあね、リーズちゃん」

「ばいばい、リーズ」


リーズちゃんの最後の見送りの言葉を受け取り、

私達は荷物を持って魔晶車に乗り込んだ。

その後すぐに先程魔晶車から降りて来た人も

乗り込んできた。そして、一番前の席に座る。

席の前には輪状の何かが魔晶車に

取り付けられており、椅子の下には

黒いペダルのような物に紅く光り輝く魔晶石と

金糸雀色に輝く『魔晶石』が取り付けられてあった。

魔晶車の中に私達以外に人は居らず、

席が十数個空いているだけであった。

私達は一番奥の席に座る。


「バード村発、アステール都行き。

まもなく発車いたします」


そう運転手が言うと、

魔晶車はガタガタと動き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・記憶を失う前に何があったのか、なぜ記憶がないのか、いまの自分は誰なのか…など、謎がたくさんあって気になりますね! ・魔法の展開シーンがかっこいいです! [気になる点] ゴブリンは村を襲っ…
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