第13話「宴と''神器''」
夕方4時。
私達が主役、だという宴の準備は着々と
進んでいた。ただ、Aランク団員のパーティの
人達は「討伐クエスト」という物がある為
宴に参加することはなく、別れを告げた後
巨大な鳥でどこかに飛んで行ってしまった。
既に私達が戻って来る前に
一応準備してくれていたこともあり、
そこまで手間取らなく済んでいるようだった。
場所は朝に市場が開かれていた村の中心部に
建てられている開放的な大きな木の建物の中で
机やテーブルが並べられ、たまたま近くに大きな
調理場が設置していたので、
そこで様々な人が料理を作っていた。
私達は主役ということで、一番目立つ
ような場所に、私とユースが真ん中に、
リーズちゃん、メグさん、ハイルさん達が
その場所に座らさせられていた。
しばらく待っていると、魚介が沢山入ったパスタや、
ローストビーフ、様々な蕈や魚介が乗せられたピザ
など、数多くの料理が机の上に並べられた。
「おぉ……」
私はその料理の多さに圧倒される。これら全てが
私達の食べる料理、という訳ではないのだが、それでも
かなり多い量の料理がどんどん机の上に運ばれて
いき、宴の風景が創り出されている光景を見て、
視線をその光景から反らせなくなってしまっていた。
「すごいな……この量」
「うん……」
ユースとリーズちゃんも同じく圧倒されていた。
そして、全ての料理が出揃い、村の人達が
全員、それぞれの席に座り始める。
座り終わった後、村長が「乾杯」の合図をあげる。
すると、その場にいた全員が、
飲み物が注がれていたグラスを手に取り上にあげ、
他の人のグラスに音を立てるように当てた。
私は一瞬だけ動揺したが、ユースとリーズちゃん
がグラスを私のグラスに当ててくれた。
グラスの中には近くの村の葡萄の飲み物が
入っていた。村長や一部の人は酒を飲んでいた。
「……!美味しい……!」
私達はお腹が空いていることもあり、目の前に
ある沢山の料理をかなりのスピードで食べる。
種類が多すぎて一瞬どれがどの料理なのか見間違える
程多かったのだが、料理の味は最高だった。
ユースやリーズちゃん、そしてメグさんやハイルさん達も
食事を口に入れ、その瞬間「美味しい」の一言しか
出なくなっていた。メグさんに至っては
「この料理を作った人のレシピを知りたい」と
言ったぐらいだった。
様々な雑談も兼ね、
宴も盛り上がってきた、午後6時。
酔いが回ってきた村長の歌などが
宴の会場を盛り上げていく。その光景を見て
何気なく宴を楽しんでいると。
「ルナさん、ちょっといいですかね?」
「……はい?」
突然、ハイルさんが背後から話しかける。
ユースはトイレに行っているため今は居ない。
「突入した際に、私が『不思議な力をお持ちで』
って言ってたの、覚えてますか?」
「……ええ、そういえば……」
頭の中に残っている、ごく僅かな
記憶からそれを思いだす。
「その事について、ちょっと話が
あるんですけど……とりあえず、
あちらの方に一緒に来て
もらってもいいですか?」
「ええ……分かりました」
私は席を外し、私とハイルさんは
騒がしい宴の会場から少し遠く
あまり騒がしくない場所に移動する。
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少し離れ、だいぶ静かな場所に
移動した私達。私達は近くのベンチに座る。
「……で、『不思議な力』って
一体どういう事なんですか……?」
私は直球でハイルさんに質問する。
右腕に付けている腕輪の持つ力なのか、
はたまた自分自身が持つ力なのか。
疑問に思っていることは多かった。
「ええ……今から話すことは、
もしかしたら、貴方の消えた
記憶に関係する可能性が
あるかもしれません」
「私の記憶……?」
すると、ハイルさんが私の右腕の方に
視線を向ける。それにつられ私も
腕輪の方を見る。
「ルナさんが使う魔法……実は、
普通の人が使えるような魔法じゃ
ないのかもしれない……いや、
普通の人は絶対使えないんですよ」
「えっ?」
「単刀直入に言うと……
その腕輪、もしかしたら
『神器』なのかも知れません」
「『神器』……?」
突然放たれた『神器』という言葉。
私は初めて聞いたその言葉に
理解があまりできなかった。
「順に説明しますね。
『神器』という物、それは……
この世界に散らばる『神の遺跡』
で、儀式を行い神を降臨させ、神の前で
『神器』を手にできる程の力を見せ、
神に認められる事で神器を手にすることができる
物なんです。神器を装備すれば、魔法自体の
属性は一緒でも、普通の人じゃ使いこなせない
ような、魔力を消費する魔法を使う事が可能に
なります。基本的にそれを持つ人は、
『魔導ギルド』のそれぞれ五人の団長と
一部の人間だけ、なんです」
と、『神器』について説明を丁寧に
私にしてくれているハイルさん。
「……そうなんですか……
じゃあ、この腕輪は」
「ただ」
「……はい?」
「……貴女が使う魔法、実は私、
全く見たことも聞いたこともない
魔法だったんですよ」
「……?」
ハイルさんの言葉に、私は思わず理解が
追いつかなかった。先程『魔法自体の属性は同じ』
と、ハイルさんが言ったばかりなのに、
見たこともないし聞いたこともない魔法とは。
「まぁ、なんていうんでしょうね……
五人の団長が使う魔法は、『紅』属性だったり
『蒼』属性だったり、はっきりと属性が
分かれているのに対し、貴女の魔法は
『他』属性のように、特殊な魔法なんだと
私は思っているわけなんです。『他』属性
の神器の存在は知っていましたが、
その属性の神器を実際に使う人は
殆ど居なくて……もしかしたら、
貴女の記憶もその特殊な『神器』に
大きく関係するんじゃないかな、と」
「……なる、ほど……?」
私は右腕に付けられている『神器』に
視線を当てる。確かに思い出してみると、
最初にこの神器に出会った時に
頭が割れるような痛みが走ったり、
窮地に陥った時に何かを
思い出していたりしていた。
それも、私の失った記憶と
何か関係があるのだろうか……?
「まぁ、今私が言った事は
可能性の話、なんですけどね……」
「……いえ、それでも私にとっては
大きな情報ですよ。最初に目覚めた時
なんかは、何も思い出せなくて
本当に困ってたんですから……」
ハイルさんにとっては可能性だとしても、
その情報は私にとっては大きな物だ。
「それに、
私の持っている『神器』が私の記憶と
関係している、というのも案外
間違ってないかも知れませんし……」
「……そうですか?なら、
お役に立てて嬉しいです」
「いえ、そんな……私こそ、
ありがとうございます……」
ハイルさんから重要な情報を得た私。
すると、少し遠くから私の知る声が
聞こえてきた。しかし、その声は
あまり聞き取りづらかった。
私は遠目で宴の会場の方に視線を
向けると、ユースとリーズちゃんが
私を呼ぶように声をかけているように聞こえた。
「あ……呼ばれてるかも……」
「そうみたいですね……
とりあえず、宴の方に
戻りましょうか」
「ええ、そうですね」
私とハイルさんは、宴の会場へと戻った。