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第1話「目覚め」

「………っ、んっ……?」


目を覚ますと、私は赤青黄と色取り取りの花々が咲き乱れた広大な草原の真ん中で寝ていた。


私の目の前を光輝く蝶々が飛び、

空には澄んだ青空が広がっている。


「ここは……?」


ここはどこだろう。

一体私はなんでここにいるんだろう。

そもそも私は誰なんだろう。

それ以前に私の名前は……?


どれだけ頭を抱えて思い出そうとしても、

何も思い出せなかった。


「……っ、よいしょ」


私は寝起きの身体を起こし目を擦りながら立ち上がり辺りを見渡すと、少し近くに大きな大樹が立っている事に気がついた。


よく見るとその大樹の下で何かが光り輝いている。


「何だろう、あれ……」


私はその光り輝いているものを見て、

無意識に歩き出した。

何もわからない以上、その光が何なのかを確認しなければならなかった。もしかしたらその光が、私の正体を示す指標なのかもしれない。

気がつくと私の横を蝶々が通り、光り輝いている場所へまるで磁石のように引き寄せられていった。



「……?これは……?」


堂々と立っている大樹の目の前に着いた私は、足元に石製のタイルが円状に敷き詰められ、そのタイルに光を放っている魔方陣らしきものが描かれているのを発見する。これが、私が最初に見た光なんだろう。蝶々が魔方陣の上で舞うように飛んでいる。


「……!?」


突然だった。

その蝶々が魔方陣の上に止まった次の瞬間、突如として魔方陣から光が爆発的に放出された。私は突然の事に驚き目を腕で隠す。眩しくて目が開けられない。

光は数秒程放出され、その後光は少しずつ消えていった。光が収まった後、やっと視界が元に戻ったと思った瞬間ある事に気がつく。


「あの蝶々、どこにいったの……?」


先程まで居た蝶々が、消えた。

まるで神隠しが起こったかのようだった。

魔方陣に触れたら蝶々のように何処かに消えてしまうのだろうか。そう考えると、恐怖心で身体が震えてくる。


しかし、この魔方陣以外に

他に手がかりなんて無かった。


「……行かなきゃ」


私は覚悟を決め、魔方陣の上に足を踏み入れた。

一瞬で私は光の中に包まれ、眩しさで何も見えなくなる。昇っているのか、落ちているのか。

はたまた浮いているのか。よくわからない感覚が私を襲ってくる。


このまま私は何処へ行ってしまうんだろうか。

私は光に身体を委ねるしかなかった。


………


光に包まれて、しばらくしてから。

私の視界から光が少しずつ消え去っていく。

やっと光が私の身体を離してくれて、

白い光の世界から私は解放されたのだ。


「ここは……?」


気がつくと私は、洞窟のような場所にいた。

近くの土の壁に光輝く大きな木の根のような物が少し土から露出している。もしかしたらここは大樹の真下なのかもしれない。私を円状に囲むかのように、様々な色の花々が咲いている。


水が流れ落ちる音に気がつき横を見ると、滝が流れていた。喉の渇きを潤す為に私は滝下へと向かう。


「……んっ、ごっくん……」


滝下の池の前で身体を屈み水を手で掬い、口に含み、喉へと通す。渇いた口と喉の中が砂漠に雨が降ったかのように潤っていく。


「……!」

喉の渇きを潤した後、

水面に誰かの姿が映っている事に気がつく。


……いや、「誰か」じゃない。

これは「自分」の姿だった。

肩に掛かった月のような月白色の髪と夜空を連想させる瑠璃紺色の眼、そして白と茶色のノーブルドレスを着た自分の姿が鏡代わりとなった水面に映っていた。

これが「自分」の姿なの……?

そう思っていた時、私の姿を映した水面の近くに蝶々が映る。光輝く鱗粉を散らしながら飛んでいる姿に見惚れるが、しばらくしてから私の肩に乗ってきた。まるで一緒に行きたがっているかのようだった。


「……一緒に行く?」


勿論、返事が返ってくるわけがない。

しかし無意識ながら蝶々に声をかけてしまった。

でも、返事が返らないとはいえ蝶々が自らの行動で

蝶々自分自身の意思を私へと伝えていたのだろう。

そしてその意思はしっかりと私の心へと伝わっていた。私は滝下の池を後にし、蝶々と共に次の手掛かりを探し始めるとした。


辺りを見渡すと、中央の大きな円型の台の上にグランドピアノが一際存在感を放っているのに気がついた。

私はピアノの台に近づき、台へ登る為の階段を登る。

まるで観客を囲んだコンサートの演奏者になった気分だ。台の上まで来た私は、台の上の床に何か書かれているのを発見した。


「『"楽譜"が汝を導くであろう』……?」


謎の文章が書かれていて、一瞬私は困惑した。

ピアノを見た感じ、楽譜が置かれている様にも見えない。つまりは何処かで楽譜を見つけ、

その楽譜通りにピアノを演奏すればいいのだろうか。


「あっ……!」


すると突然、肩に乗っていた蝶々が私から離れ何処か違う場所へ飛んでいった。

私は蝶々を追いかけた。一体何処に行くんだろうか。


ピアノから少し離れた場所まで蝶々を追いかけると、蝶々が急に地面に止まった。蝶々に追いついた私が蝶々の止まった所を見ると、床に円状の鉄製の扉が設置されていた。見た目からかなり重そうな雰囲気を感じさせる。


「っうぅっ、重い……!!」


私は取ってを掴み扉を開けようとした。が、余りにも重すぎて開かない。というか、何かに引っかかって一ミリたりとも動いてない様な気がした。

梃子の原理を使って無理矢理開けようとしても、これは開かないのではないか。

そもそも開け方が間違っているのではないのか。


「……!」


扉をよく調べると、何かを

嵌めるような穴があるのに気がつく。

見た感じ、宝石のような形をしているようだ。

もし仮に何らかの宝石を嵌めると扉が開く様な仕組みなら、何処かに宝石があるはずだろう。そう考えた私は宝石を探し始めた。


………


暫くの間蝶々と共に宝石がありそうな場所を探していると、近くの壁に扉が設置されているのを発見する。

今度は鉄製ではなく木製で、鍵もかかっておらず直ぐに開けることが出来た。


「わあっ……」


扉の先の部屋では、この世に有ると思えない程の美しさを放った青白い宝石が台の上のガラスの箱の中に入れられていた。あまりの美しさに感嘆の声を漏らしてしまう。その宝石に見惚れ、本来の目的も忘れてしまいそうな勢いだった。私はガラスの箱を開け、小さなクッションに乗せられた宝石を手に取り元の扉の場所に戻った。


手に入れた宝石を扉の穴に嵌めると、自動的に扉が九十度の向きに開き始める。扉が完全に開き終わった後、扉の中を覗くと梯子が壁に設置されていた。

私は扉の中に入り、梯子を使って下へ降りていく。

何十段か梯子を降りていると、一番下の通路に辿り着いた。通路は一つの部屋に繋がっているだけのようだ。私は通路を直進し、部屋の扉を開ける。そこには沢山の本棚と、机と椅子が規則正しく並んでいた。


「……あっ」


机の上を見ると、手提げ鞄が一つ置いてあった。

その鞄の中身を見ると、

探していた楽譜が入ってあった。


「やっと見つけた……」


私は安堵の溜息をついた。

楽譜を鞄の中に戻し、鞄を蝶々が乗っていない肩の方に掛け通路を通り、梯子を登ってピアノがあった場所に戻る。


楽譜をピアノの楽譜乗せに置き、楽譜通りにピアノを弾き始める。


一つ一つの音の粒が混ざり合い旋律となり、一つの音楽として紡がれていく。


紡がれた音楽は、観客の居ないコンサートの中で昇華されていった。


「……!?」


全てを演奏し終えた、その時。

地面が大きく揺らぎ、今迄何も無かった壁が突然崩壊し巨大な扉が出現した。

遠くから見ても分かる程の大きさの扉。


「……あっ!」


すると又蝶々が私を離れ扉へと飛んでいった。私は蝶々を追いかけるように扉へ向かって走っていく。


「なに、これ……!」


扉の目の前に来た私はその扉の大きさに圧倒される。

すると、何もしていないのに突然扉がゆっくりと開き始めた。


中は強い光に包まれ、何も見えなかった。


「うわっ……!?」


全て開き終わった瞬間、突然強い風が吹き私の身体は扉の中の光に吸い込まれていってしまった。



………



気がつくと、私は白色の空間の中にいた。


さっきまで私の肩にいた蝶々は何処かに消えてしまっていた。


その代わり、私の目の前に神々しい純白色の光を放った宝石が埋め込まれた腕輪が置かれてあった。


「……わあっ……」


私はその腕輪に見惚れるかのように、

腕輪を手に取ろうとした。


……その時だった。


「……!?っ、うぐっっ!?」


腕輪に触れた瞬間、突然頭に激しい痛みを感じた。


私は思わず頭を抑えたが、

頭が割れるような痛みは続いた。


何回も鈍器で頭を殴られているかのような痛み。


「っ、頭があっ、っあぁあああっ!!」


余りの痛みに意識までもが遠のいていく。


痛い。痛すぎて何も考えられない。


耐えきれない痛みに悶絶していると、

目の前が黒色に染まり始めた。



………



黒色に呑まれていく。


目の前に広がる映像が、

どす黒い濡羽色に呑まれていく。


闇とも呼べない、それ以上の黒に。


……何だろう。この感情は。


哀しみか、恐怖か、絶望か。


少なくとも快い物ではなかった。


………


私は涙を零していた。


負の感情が混ざり合い、

最早どんな理由で涙を零しているのか。


自分自身でも全く理解できなかった。


………



「……!」


気がつくと、元の白色の空間に戻されていた。

腕輪の宝石の神々しい純白色の光と共に痛みは消え去っていた。一体何が起こったのか、未だに理解出来ていない。


目の前にあるのは、腕輪だけだった。

光はもう既に収まり、弱い光しか発していなかったが、私の中ではまだ腕輪に対して恐怖で怯えていた。しかし、白色の空間の中には腕輪しかなく、どうする事も出来なかった。


「っ、うぅ……」


この腕輪に触れたら、またあの痛みが私の頭を襲うのではないか。恐怖に怯えながらも、ゆっくりと腕輪に近づき、触れる。


……


何も起きなかった。

私は安堵の溜息をつく。

その腕輪を手に取り、右腕に付けてみた。


「きれい……」


弱々しい純白色の光を放った宝石の美しさにもう一度見惚れてしまう。


「……!」


ガタンッと背後で物音がし、思わず後ろを向くと扉が出現していた。


私はそれを見て、何故だか分からないが無意識に「行かなきゃ」と呟いた。


扉を開けると、その中は青白い光で包まれていた。

私はその光の中に引き寄せられるかのように足を踏み入れた。すると、自分の身体も青白い光に包まれ始める。身体の全てが青白い光に包まれた、その瞬間。


……どこからか、途切れ途切れに声が聞こえてきた。


『汝…………与え…………力……………

止する……………であろう……』


誰の声なのか、何を喋っているのか。


「……っ」


分からないまま、

私は一瞬にして意識を失ってしまった。

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