21.戦闘開始
ここから魔法戦争が始まります。
流血表現等はございません…!
「あれ、リアムは?」
戦闘用の服に着替えた私は外に出てみれば、リそこにはもうリアムの姿が見当たらなかった。
そんな私の問いかけにシリルはしれっと答える。
「分かりません」
「……全く心がこもってないわよ?」
喧嘩でもしたんだろうか。 つっけんどんな言い方に私は首を傾げながらも、小さく呟いた。
「……せめてちゃんとお話をしたかったわ」
「何を言ってるのですか。
……勝ってまた、アルベルト様の婚約者になられるのでしょう? クラリス様」
「!」
シリルがそう、真っ直ぐに私を見て言った。
その力強い言葉に、私はふっと肩の力を抜き、そして満面の笑みを浮かべてシリルに言う。
「そうね! 私は悪役令嬢だもの。
絶対に、悪魔なんかに命を捧げたりなんかしてらやらないわ」
「? 悪役令嬢?」
「ふふっ、こっちの話よ。
……さて、悪魔のところに案内してもらえるかしら?」
私の言葉に、シリルはコクっと頷くと、「お任せを」と礼をしたのだった。
☆
その頃、戦場では。
(ローレンス視点)
「……っ」
「どうした、愚かな人間共よ。 お前達の力はこんなものか」
真っ黒な靄に包まれた空。 その中心には、この前の悪魔……バアルの姿がそこにあった。
こちらを見下ろす赤い大きなギョロッとした瞳。 頭には真っ黒な角が二本生えている。
(っ、本当に、こんなに強いなんて)
俺達は今、魔法を使ってバアルと戦っているのだが、防ぐのだけでも精一杯で攻撃をするどころではなかった。
時の国総出でバアルの体の時間を止めて動きを拘束する……その魔法をかけているのだが、効いている様子はない。
いくらかけてもキリがないのだ。
それは水の国も火の国も同じらしく、バアルの他にもいる悪魔を倒すのに精一杯で、なかなか攻撃が出来ないようで。
「……っ、ローレンス様! やはり、ここは私が……!」
そう口火を切ったのはミリアだった。
「っ、ダメだ! ミリアはまだ魔法を使ってはいけない!
バアルを少しでも、弱らせてからではないと……っ!」
「ふははは、そんなもので私の術が効くとでも思っているのか。 愚かなことだ」
その瞬間、バアルの体からパァっと黒い光が弾けたその瞬間。
「っ!?」
「ローレンス様っ!!」
時の国の魔法使いが一斉に倒れた。
俺も地に伏せられるように体を強く打ち付ける。
ミリアが顔を青くさせながら俺に駆け寄って来ようとする。
それを見た悪魔がニヤッと笑ったのを、俺は見過ごさなかった。
「ミリアっ!! 来るな!!」
そう言った瞬間、ミリアが立ち止まった目の前を、黒い塊が横切る。
それはバンッと弾け、ミリアを吹き飛ばした。
「っ! ミリア!!!」
「っ、ローレンス、様……私は、大丈夫です」
ミリアは同じく床に打ち付けられた痛みに顔を歪めながら、ふらふらとその場を立つ。
それを見た悪魔が、ミリアに目掛けてまた黒い塊を飛ばす……。
「ミリアーーーーー!!!」
俺は大声で叫んで鉛のような体でミリアの元めがけ走り、ミリアの体を抱きしめたその時。
ジュッと、何かが燃えるような音と、キンッと耳を刺激する金属音……“時を止める魔法”の音が聞こえてきた。
「「え……?」」
意識はあるのに、体の自由がきかない。
他の者達もそうなのか、ざわめきが大きくなっていく。 そして驚いている俺とミリアの前に現れたのは。
「……!! クラリス!?」
なんと、城に幽閉されていたクラリスが、宙に浮いてこちらを見下ろしていた。
クラリスはこちらを見ていつものように堂々と、にこりと笑って見せると口を開いた。
「遅れてごめんなさい」
そう言う彼女に、俺は言葉を荒げる。
「っ、どうして来たんだ!! この中で一番狙われているのはクラリスなんだぞ!!」
その言葉に、クラリスは少し驚いたような顔をした後、ふふっと笑った。
「なら尚更よ。 これは私の問題でもあるの。
なのに、この私に指を咥えて見ていろと?
……この戦争を終わらせられるのは、この私だけよ。 邪魔しないで」
「!!」
その彼女の強い口調が、以前の記憶と重なる。
(……ミリアの、ペンダントが奪われた時。
あの時もクラリスは、自分を悪役にしてっ……)
そして彼女はもう一度笑って見せる。
……その瞳には一瞬、温かい光を帯びたのを俺もミリアも見逃さなかった。
「クラリス、様……」
ミリアがそう小さく呟く。
そうしてクラリスは、今度はクルッと振り返ると、バアルの方に向き直って大きな声で口を開く。
「大悪魔バアル。
私はランドル王国第二王女のクラリス・ランドル。
……私は貴方に、決闘を申し込むわ……!!」
そう高らかに宣言したクラリスに気付いた他の皆に、次々とどよめきが広がっていく。 だが、皆時の魔法で体の自由を奪われているため、何もすることができない。
そんなクラリスを見たバアルは、地を這うような声で笑った後、クラリスに言った。
「ははは、随分と勇ましい姫だ。
……ランドルのその憎き血を絶やすチャンス、貰い受けよう。
何処からでも来い」
その言葉にクラリスは「そうね」と口を開いた。
「ここではなんだし、皆のいないところで戦うのはどうかしら?
ここでは私、魔法が使いづらいわ」
そう言って、下の方にいるランドル王国の王家がいる方を見てため息をつくように言った。
「ふむ、それも良いな。
お前とは、私の可愛い子分が随分と虐められたようだから、そのお前を倒せる場にここは相応しくない」
「あら、話が分かるのね。
では、場所を変えさせて頂くわ。 シリル!!」
その言葉に、シリルが同じくクラリスの隣に瞬間移動で現れる。
シリルは何も言わず、目を閉じたかと思えば、その目が開かれた時に強い光が放たれた。
あまりの強さに、皆が目を瞑って、やがてその光が瞼の裏で無くなったのを見計らって恐る恐る目を開ければ。
「!!」
そこにはもう、クラリスもバアルもシリルの姿も、無くなっていたのだった。




