20.心強い味方
途中ルナ視点、そしてクラリス視点に戻ります。
(ややこしくてすみません)
……? 冷たい……。
そう感じ、ふっと重い瞼を開けた視界の先には。
「……えっ!? ここは……!」
見覚えがある。 簡易のベッド、石畳の床、レンガの壁に小さな窓があるだけのこの部屋は……。
「……お仕置き部屋だわ」
小さい頃、良くこの部屋に入れられた。 名の通り、お仕置きのために入れられるこの部屋は、鍵が外側についているため、中から開けることは出来ない。
その上、この部屋には魔法封じがかかっている。
……つまり、この部屋からは出られない。
私は試しにドアを押してみたが、案の定鍵がかかっていて開かない。
「……っ」
何て間抜けなんだろう。
きっと、作戦に気が付かれていたんだ。
私が自ら犠牲になることで、悪魔との戦争を終わらせようとしていたことに。
それで、私が寝ている間にこの部屋に入れたんだ。 魔法を、使わせないために。
(っ、どうしよう、このままでは……)
あの魔法を使えるのは私だけ。
もしあの魔法を使わなければ、甚大な被害が出る。
……まだ外は明るいから、光が嫌いな悪魔は来ていないはず。 来る前に何としてでも、ここを出なければ。
「っ、誰か! いないの!?」
私はドアをドンドンと叩いたが、誰も返事がない。
(……っ、衛兵とかいるはずなのに、皆お父様の命令で出ないんだわ……!)
どうしよう、本当にこのままでは、皆の命が危ない。
アルも、皆も、ここにいては守ることが出来ない……。
「……この部屋の魔法封じの力の具合は大体わかる。 力を使えば、蹴破ることは可能。
……だけどそれでは、今日のために溜めておいた魔力が減ってしまう」
あの魔法を使うには、魔力は温存しておくべきだ。 だけど、それではここから出られない。
「……っ、魔力を使うしかない……!」
私は目を瞑ると、ふっとお腹に力を入れて目を見開く。
「ランドルの火よ、私に力を……!」
☆
(ルナ視点)
「……姫様……」
私はお城の方角をそっと窺い見る。
今私がいる場所は、王城から離れた場所へと向かう一本道。
周りには、武装した魔法使いが大勢いる。
その殆どが、ランドル国の騎士団。
そして、私の隣には数名のメイド仲間がいる。
クラリス様と本当は一緒にいたかったけど、王様の命令でクラリス様と引き離されてしまった。
(……私がクラリス様の近くにいれば、手引きしてしまうと分かっているから)
クラリス様が裏で何をやっていたか、私は知っている。
シリルが事前に教えてくれていたから。
それでも、クラリス様を止めようと私はしなかった。 それは何故か。
(姫様の気持ちが、痛いほど分かるから)
アルベルト様を守りたいという気持ち。
私だって、好きな人……クレイグを守りたいと思う。 女の子でこんなことを言うのは良くないのかもしれないけど、守られてばかりは嫌だ。
(……だからといって、姫様がいなくなってしまうのも嫌だ)
姫様が望んだことは、とても危険な魔法だとシリルから聞いた。
国王は何処から聞いたのか、いつから知っていたのかは分からないが、その情報を聞いていたようで、寝ているクラリス様を仕置き部屋へ移した。
この戦争の間、魔法を使わせないように。
私は何も出来なかった。
黙って国王様の言う通りに従った。
……だけど、本当にこれでいいのだろうか。
私は迷っている。 クラリス様が本当に望んだことをするべきではないか、と。
クラリス様は、いつだって無茶をしてきた。
自分のことを悪役令嬢だと言って相談してきたかと思えば、ミリア様に嫌がらせでない嫌がらせをしたり、リアム様の時は、永久的に悪魔を封じ込める、今までに例のない“悪魔祓い”をしたり。
いつだってピンチを諸共せず、皆を幸せに導いてきた。
そしてそんなクラリス様には、不思議な力を感じる。
(……クラリス様がいれば、何でも出来るような、そんな力が)
それは、最近だけのことではない。 昔からそうだった。
私を拾ってくれた姫様。
そんな私を侍女にと申して下さった姫様。
そして私にいつも笑顔を向けてくれる姫様……。
(……っ)
今姫様は、仕置き部屋にいる。
唯一、魔法が使えない部屋。
(……っ、私は、私は……!)
「っ、ルナ!? 何処に行くの!?」
気が付けば、一緒に歩いていたメイド仲間と反対の方角……お城へと足を向けていた。
その私の行動に周りが驚く中、私は振り返ると口を開いた。
「……ごめんなさい。 私は……姫様の、味方です」
「!? ルナ!!」
私の呼び止める声がしたけど、私はもう振り返らない。
走るんだ、姫様の元へ……
(この戦争を、終わらせるために……!)
ただ只管走る。
途中で転びそうになりかけたけど、踏ん張って、また走り出す。
(……っ、私も魔法を使うしかない……!)
私は魔力があまりない。 学園に入学した当時に比べれば多少は増えた気がするが、クラリス様に比べたら10分の1にも満たないだろう。
(特質魔法はないけど、私は侍女としての最低限の魔法は得意……!)
「……っ速く、姫様の元へ……!」
パァッと、足に淡い光が走る。
魔法によって足が軽くなり、速さが加速する代わり、体力の消耗は激しい。
「っ、ひ、めさま……!」
息が苦しくなる。
ランドル城は、もうすぐそこだ。
(頑張れ、私……!)
門付近まで来たところで、私は魔法を解除した瞬間、足に力が入らなくなる。
「えっ……」
頭までぐるぐるとしてきて立てなくなり、床に倒れこみそうになった時。
……トンッ
柔らかく、誰かの腕の中に収まった。
温かい、その腕の主は。
「……く、れいぐ……?」
「……っ、ルナ! 遅くなってごめん!!」
クレイグは私を抱き抱え、そのまま抱きしめてくれた。
訳がわからない私は、ハッとした。
……ここにクレイグがいるということは。
「……っ、まさか!!」
☆
(クラリス視点)
「っ、よし!」
ドーン! と、壁にポッカリと穴が空いた。
それを唖然とした表情で見ている、ランドルの騎士さん達に私は苦笑いをする。
「……ごめんなさい」
そう私が言えば、前からあはははと場違いな笑い声が聞こえてきた。
見れば、そこにいたのは私がよく知る人物で。
「! リアム……!? それに、シリルまで!」
そこには、シリルとリアムがいた。 ちなみに笑っているのはリアムで、呆れたような表情をしているのはシリルだ。
「シリル! 貴方、大丈夫なの!?」
「はい、お陰様で。 二人の王子に虐められることがなく、休ませて頂けたので、魔法はいくらでも使えます」
「またそんなこと言って倒れないでよ。
僕、こき使われて大変だったんだから」
「ふふっ、仲が良いのね」
二人のやりとりを聞いて、私は笑ってしまう。
すると、二人は何故かハッとしたように顔を見合わせ、慌ててリアムが私に、持っていた服……赤い、王家の戦闘用の服を差し出してきた。
「よ、洋服着替えて。 ……クラリス、まだ夜着だから」
「っ、そ、そうね。 ごめんなさいね。 部屋を移しましょう」
「お、お任せを」
心なしか、シリルまで少し顔を赤くしながらそう言うと、魔法が発動される。
瞬間移動魔法。
(良かった、無事に魔法が使えるようになって)
私はそう思いながら、あ、忘れていた、とランドルの騎士に声をかける。
「ごめんなさい。 後で私から、お父様に謝っておくわ」
「壁、破壊しちゃったもんね」
そんなリアムの言葉を最後に、私達はその場から消えたのだった。




