18.サプライズ
夜。
シリルは言葉通り、少し遅い時間になってから私の部屋を尋ねてきた。
「シリル、夜遅くにごめんなさいね……って、貴方、凄く疲れてるじゃない。
大丈夫?」
現れた彼の表情は、目の下に隈がうっすらと出来ており、完全な疲れた表情をしている。
いつでも完璧な彼は、あまり人にそういう姿を見せないため、私は驚いてしまう。
そんな私の心配をよそに、彼は「大丈夫です」の一点張りだった。
「それより、何処に行けば良いですか?」
「それは……」
私はそんな彼に少し戸惑いながらも口を開いた。
☆
(リアム視点)
(……あー、今日も色々あったな……)
僕に取り憑いた悪魔のボス……バアル、という悪魔が来るまで残り6日。
そのためにやるべきことが山のようにあり、今日も随分と遅くまで作業をして大変だった。
(……風の魔法を頼られるのは嬉しいけど、頼られすぎるのもちょっとな……)
今なら、シリルの気持ちが分かる気がする……と遠い目になりかけていると、コンコンとドアを控えめにノックする音が聞こえる。
(!? こ、こんな夜遅くに誰……)
寮の消灯時間はとっくのとうに過ぎているはず。
なのに、この時間にまさか誰か来るとは思わず、少しだけびっくりしてしまう。
恐る恐る扉を開けば、そこにいたのは……。
「!? クラリ」
「しーっ!! 静かにして。 少しだけ中に入れさせて」
「え、ちょ……」
僕の言葉も聞かず、勝手に上り込むクラリス。
……そうしたら何故か、シリルも入ってきた。
僕はバタン、とドアを閉めると……二人に詰め寄った。
「こんな時間に何考えてるの!? 特にクラリス!
男の部屋に入るなんて言語道断だから!!
アルベルト様知ったら卒倒するから!!」
「……そ、それは……ごめんなさい。
アルは、今は私には関係ないけれど……」
ボソッと呟いたクラリスの言葉に、僕ははぁ〜っと長くため息をつく。
(……本当、この子は何を考えてるのか……)
シリルを一緒に連れて来ただけまだ良いとするけど……いや、二人で来てる時点でそれもアウトか。
(絶対に、アルベルト様には知られないようにしよ……)
クラリスが例えどう思っていようが、アルベルト様がそう簡単にクラリスを手放すわけがない。
……そうでなきゃ、とっくに僕が横取りしてるっての。
「? リアム? 何か考え事?」
そう言って首を傾げて僕を見上げる彼女に、少しはぁっとため息をついてから、冷たいお茶をコップに入れ、喉に流し込む。
「……いや、こっちの話というか、色々苦労するなぁって。
で、こんな時間に僕に何か用なの?」
そう聞くと、クラリスが待っていました!と言わんばかりに目を輝かせる。
そして、僕の方に近寄ってくると……。
「!? く、クラリス!?」
突然、僕の両手を、クラリスの両手が包み込んだ。
驚く僕に、彼女は綺麗な瞳を細めながら、笑みを浮かべて言った。
「お誕生日おめでとう、リアム」
「えっ……し、知ってたの……?」
そう、僕は今日、16歳の誕生日を迎えた。
……といっても誕生日なんて、特に楽しい思い出もないから今年もあまり期待してなかった。
皆忙しいし、まず誕生日を知らないだろうから、誰も祝ってはくれないだろうって。
……バートン伯爵……お父様は、戸籍で知っているから泣きながら祝ってくれたけど。
友達には正直、期待してなかった。
だけど、彼女は……
「……有難う、クラリス」
……いつも、僕が一番欲しい言葉を言ってくれる。
「どういたしまして」
それを当たり前のように、言ってのけたりやったりする。
(……そんな彼女だから、僕は……)
そんなことを僕が考えている間に、クラリスは両手で抱えて持っていた、とても長い筒状のものを僕に渡して来た。
「え、まさか、誕生日プレゼント……?」
驚いて目を見開く僕をみて、彼女は笑いながら開けるよう促す。
「ふふ、開けてみて」
心なしか、瞳がキラキラと輝いている彼女に疑問を感じながらも、恐る恐るその包みを開けてみれば。
「……! 何これ、すごい……」
それは、人二人が優に乗れる箒だった。
「その箒を見た瞬間、あ、これならリアムが喜んでくれるかもって思ったの。
……いつも箒を使ったり、風を自由に操る貴方を見て、これから自由に空を飛んで欲しいと、そう思ったの」
彼女はそう言うと、柔らかな笑みをたたえながら言った。
「生まれて来てくれて、私と出会ってくれてありがとう、リアム。
……貴方がいてくれたから、今の私がある。
そして助けられたの。
……だから貴方は、これからは運命に縛られることなく、自由に生きていいのよ」
「……! 本当に、クラリスは……」
(……ずるいよ)
僕は耐えきれなくなって、クラリスの手を取ると、その手に口づけを落とした。
「!?」
これにはクラリスも唖然としていて。
僕はクスッと笑うと、クラリスのその手を取ったまま言った。
「……こちらこそ、有難う。
クラリスには驚かされたばかりだよ。
僕もアルベルト様も」
「え、でもアルは……」
「アルベルト様がそう簡単に、君を離すと思う?」
「!」
その言葉に、クラリスの瞳が戸惑ったように揺れる。
僕はそれを見て確信すると、ボソッと呟いた。
「 ……君を見ていると、君を思うアルベルト様の気持ちが、本当によく分かる気がするよ」
「え……」
クラリスが何か口を開こうとした、その時。
……ドサッ
何かが倒れる音が部屋に響く。
「「え……」」
その先を見れば。
「……っシリル!?」
クラリスの、悲鳴に似た声が響く。
僕達の視線の先にいたのは、力なく倒れているシリルの姿で。
真っ青になるクラリスの表情を見て、ハッとしてシリルに駆け寄ると、風を使ってその体を慎重に持ち上げる。
「クラリス! 寮長にお医者様を呼ぶよう言って!
後ディズリー王国に報告もお願い!!」
「っ! わかったわ!!」
クラリスもすぐに冷静さを取り戻すと、廊下を走って行った。
(……っ、次から次へと、問題が発生するなんて……)
僕はそんな怪しい雲行きを、ただこれ以上悪くならないようにと、祈るばかりだった。




