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16.作戦会議

 それから二、三時間後、時の国の王様との謁見が出来た。



 そこには、エドガー王子とローレンス、それからシリルも一緒にいる。

 人払いをしてもらってそれを確認した後、私は口を開いた。



「一週間後の戦争、私は皆を戦わせない方法……一滴の血も流さない方法を考えました」

「! そんなことが可能なのか!?」



 口を開いたのはローレンスだった。 私はその言葉に頷く。

 エドガー王子を見れば、あまり気乗りしていないのか、迷った顔をしていた。




「……エドガー王子、それについて説明して頂けますか」

「……貴女がそれを望むのなら」



 それだけ言うと、私とエドガー王子、それからシリルで考えた“例の魔法”と作戦を、一から説明し始めた。






 ☆






「……と、こんな感じです」




 私がそう話を締めくくると、皆の表情は険しかった。

 特にローレンスは、拳を握りしめて言った。



「俺は反対だ。 クラリスだけに全て背負ってもらう、そんなことは俺もアルも許さない。

 第一、クラリスの身があまりにも危険すぎる。 そんな案は反対だ」

「……私も反対だ。 クラリス姫は、アルベルト王子の横に立つべき人。

 ……何故そんな貴女がアルベルト王子との婚約を解消したのか疑問に思っていたが、まさかこの為だったとは。

 このことが知れたら、ランドルの王家が大騒ぎになるぞ」




 ローレンスと王様の言葉に、私はギュッと拳を握りしめ言う。




「だからこうして、内密にお話をさせて頂いているんです。

 勿論、反対されることを覚悟で、尚且つこの身を滅ぼすことを承知の上で、ここに立っております」

「っ、なら!」

「でもね、ローレンス。 この前、学校でも言ったでしょう。

 私は、アルも国もこの三カ国も守りたいんだって。 誰かの血を流すくらいなら、私一人が犠牲になった方が絶対に良いのよ」

「駄目だ!!」





 ローレンスはより一層、強く声を荒げる。

 私はその剣幕に驚くけど、微笑みながら言う。



「……私は、大丈夫だから。 この国を守れるのは、他者に比べて強大な魔力を持つ王家しかいないの。

 そんな王家が倒れれば、国は滅びてしまう。 そうすれば、私達は皆殺されてしまうわ。

 ……悪魔は強い。 私達がいくら強くても、到底勝てる相手でない。

 ……その点、私が提案する“魔法”を使えば、少なくともバアルは倒せる。 リスクがあったとしても、そっちの方が断然良いでしょう?」

「っ、他の方法は」



 ローレンスの言葉に、私は首を横に振る。



「勿論、探したわよ。 だけど、無理だった。

 この方法しかもうないの。

 ……千年に一度の力、この力を持つ私にしか出来ないことだわ。

 国民の命と私の命、天秤にかけるとしたら私の命一つで解決するなら、私は」

「だから、そうやって命を無下にするようなことは言うな!! ……頼むから」



 その言葉に、皆無言で俯いた。

 ローレンスの言いたいことはよく分かる。

 私のことを思ってくれている。 ……私達は長い付き合いだから、私だってローレンスがそんなことを言い出したら怒ると思う。

 ……けど。



「……なら、そうね、あの魔法を使っても、バアルのためなんかにそう簡単に死んでやったりしないわ」

「っえ」

「ふふ、命をかけなければ良いんでしょう?

 なら、生きて帰ってくるわ。

 ……それなら、良いでしょう?」

「……! はは、クラリスは、強いなぁ」

「あら、それどう言う意味よ?」




 私が怒ると、「褒めてるんだよ」とローレンスは少し涙交じりに言った。



「あら、ローレンス、王家なんだから涙は流しちゃダメよ」

「泣いてない」



 その返答に、私はクスッと笑ってから、さて、と王様に向き直る。




「……私は今、ローレンスと約束した通り、必ず生きて戻ってきます。

 だから、お力を貸して頂けますか?」

「……そこまでの覚悟があるのなら、私は反対しない。

 エドガーからも、聞いていたからな」

「まあ! エドガー王子、私のことをもうおっしゃっていたのですか!?」



 私がエドガー王子に少し怒った風に言えば、エドガー王子は肩を竦める。



「あの古代魔法の本を持っていたところを偶然見つかってしまってね。 仕方なく。

 ごめん」

「……まあしょうがないですね。 私も無理を言って頼んでしまいましたから。

 でもこれは、時の国だけで内密にお願い致します。

 ランドルやシュワードに伝わったら、私、どうなってしまうか……」




 それだけは勘弁だ。

 あの二人……私のお父様とアルのお父様に知れたら、もう、考えただけでも恐ろしい。



(……元々過保護なのよ……)




「……分かった。 これは、クラリス・ランドル……貴女と、時の国だけの秘密にしておこう。

 あぁ、これで私もこれからランドル家とシュワード家を敵に回すことになる……」

「それについては、私が何とか致します。

 私の一存、私の我儘で脅すようにこの約束を取り付けた、とそういうことにしておいて下さいませ」

「! ははは、確かに、クラリスは頼もしいと言うか強い女性だな、ローレンス」

「はい、私もそう思います」




 王様とローレンスはそう言って笑う。


(……もう! 本当、皆して人をなんだと思っているのかしら!?)



「……まあ、今の言葉はさておいて。

 これからもう一度、作戦会議を致します。

 先程のは、私とエドガー王子、シリルが考えた仮の作戦なので、時の国の王としての意見をお聞かせ下さい」

「……そうだな」




 王様はゆっくりと、口を開いた。







 ☆







 時の国での話し合いは長く続いた。

 綿密に計画を練り、私もそれを頭に叩き込んだ。




「時の国の方々には多大なご迷惑をお掛け致しますが、宜しくお願い致します」




 最後にそう言って頭を下げれば、王様は微笑を浮かべる。



「そのことなら大丈夫だ。

 ……でも本当に、それで良いのだな?」

「……先ほども言った通り、私は必ず生きて帰ってきます。

 バアルなんかに負けませんから」




 その言葉に、王様は目を細める。




「……其方の瞳は、ランドルの血そのものだな。 その頑固さも、何処かランドル王の血を感じさせる。

 ……大きくなったな、クラリス」

「! ……皆して、私のことをまだ子供扱いしていらっしゃったのですか?

 それに、そのお言葉は褒めていらっしゃるのか貶していらっしゃるのか分かりませんわ」



 私が少し口を尖らせてそう言えば、そこにいた皆が笑う。

 私は少し頬を膨らませて怒ってみせると、ローレンスが「まあまあ」と私を宥める。



「……でもクラリス。 本当に、無茶はしないでね」

「えぇ。 貴方方も、無理はしないでね。

 ピンチだったら、私がすぐバアルをとっちめてそちらに行くわ」

「はは、頼もしい。 でもバアルをとっちめられれば、そもそも戦争終わるよね?」

「あぁ、それもそうだったわ」



 敵の頭であるバアルを倒せば、それ以下の悪魔達は私達を攻めてきたりはしないわよね。




(……殺されたかったら、別だけれど)




「あ、そろそろ時間だよ。 帰らないと、流石にランドルの方々に不審に思われてしまうからね」

「本当だわ。 もうこんな時間なのね」




 時刻は6時を過ぎていた。

 私は慌てて淑女の礼をする。



「今日はこれでお暇させて頂きます。

 もし、何か変わったことがあればお伝え下さい」

「あぁ、分かった」




 王様が頷いたのを見て、私は立ち上がると、シリルに目を向ける。

 シリルも立ち上がった時、ローレンスが私を呼び止めた。



「待って、クラリス」

「? 何?」




 私がそう振り返れば、ローレンスは何かを言いかけ……口を閉ざした。



「? もう行くわよ?」

「っ、あぁ、気を付けて」



 ローレンスは何を言おうとしたのか。

 気になったが、今は時間が無いからと、私はすぐにシリルの魔法でその場を後にするのだった。







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