15.最善の結論
「「「え!? 婚約破棄!?」」」
「しーっ、声が大きいわ!」
私は慌てて口の前に人差し指を立てながら、三人を静かにさせる。
「……朝いらっしゃらないと思ったら、どうしてそんなことになってるのですか〜!」
「アル、今頃不機嫌だろうなぁ……」
「そ、それって本当なんですか?」
最初の言葉がルナ、それに続いてローレンス、ミリアさんが口々に言った。
今はお昼休み。 三人に話があると言って呼び出した私は皆に、アルに今日、婚約破棄をしてきた、と告げた。
「……えぇ、本当よ。 お父様にもお話したわ」
私は一口紅茶を飲んでから、そうミリアさんに返すと、信じられない、とローレンスは呟いた。
「よくアルが許したね、そんなこと」
そのローレンスの言葉に、私は危うくカップを落としそうになる。
それを見たローレンスは、「あぁ、そりゃ許さないよね」と頷いた。
私はため息をつきながら、カップをそっと皿の上に置く。
「……アルには混乱させてしまったけれど、私自身迷って出した最善の結論だわ。
アルが納得しないと思って、寝ている間に婚約破棄を申し出る紙と指輪を置いて行こうとしたら、アルが起きてしまって。
それが誤算だったけれど……」
「え!? 紙だけならともかく、指輪まで置いてきちゃったの!?
……信じられない、それはアルも怒るよ」
「? どうして?」
私がそう聞けば、ローレンスは「いや、だってそりゃそうでしょ」と頭を抱えて言った。
「紙だけならまだしも、指輪まで置いてきたってことは、この先“寄りを戻すつもりはありません”って言っているようなものだよ? 分かってるの?」
「! ……そうよね」
「っ、だったら!!」
ローレンスがその言葉の続きを言う前に、私は首を振って遮った。
「そういう意味にとられるのだとしたら尚更、私は指輪を置いてきたわ」
私の言葉に、三人は息を飲む。
私は三人から視線を外しながらゆっくりと口を開いた。
「……アルは今、魔法が使えない。
そして、私は後1週間後の戦争で、王家の者として先陣に立たなければならない。 ましてや私の火の魔法は攻撃魔法。
アルは私がいなくても、もう少しで記憶を思い出すだろうし、魔法も使えるようになると思うから大丈夫」
だけど、と私は言葉を切ってギュッとドレスを握る。
「……私は、その戦争で生き延びられるかどうか分からない。 先頭に立って、戦わなければならないから。
仮にもし、私がいなくなったとしても、代わりはいる。 ……だけど、アルの代わりはいない。
アルはシュワード国唯一の王位継承者であり、シュワードの名を背負っていくだけの器が彼にはあるから」
私は黙って聞いている三人を今度はしっかりと見て言った。
「……だから、わざとアルの手を離した。
好きだから、愛してるからこそ、自ら選んで決めたことなの。
……この命が例え消えたとしても、私はアルを、皆を守りたいの。
私の願いは、それだけだから」
私の言葉に、皆何も言わなかった。
……いや、言えなかったんだと思う。
愛する者を守りたいと言う気持ちを、痛いほど知っているから。
(……こんな顔にさせたくなかったけれど、もう決めたことなの。
だから、この決断をした。
そして、後悔はしていないわ)
その後もあまり話す言葉もなく、私達の時間は沈黙のまま、刻々と戦いまでの時間は迫っていくのだった。
☆
そして、戦いは一週間後に迫る。
アルとは婚約破棄を申し出たあの日から、一度も会っていない。
それに寂しいと思う反面、仕方がないという諦めがあった。
(……私はどちらにせよ、アルと幸せになれる未来は、限りなく0に近いのだから)
と。
日増しに緊張感は増していく、学園内や城内、そして王国内。
作戦会議も毎日開かれていた。
今のところ、私が知っている範囲では、火を司るランドル王家が先陣を務め、その後ろに騎士団に紛れ、攻撃魔法を司る魔法使いたちが並ぶことになっている。
私はそれくらいしかあまり知らない。
何故か、作戦を含めた話が、耳に入ってこないからだ。
(きっとお兄様達は、悪魔が私に強い恨みを持っていることを知っているからこそ、巻き込みたくないという思いもあって、私にあまり詳細を教えようとしないんだわ)
そして、私の魔法も使わせたくないと思っているに違いない。
(……っ、それでも、この力を使うしか、皆を守ることは出来ないの……)
「……ごめんなさい、皆。 私は貴方達を、騙すことになるわ」
当日になるまで皆には教えない。
見つかってバレたらきっと……いや物凄く、止められるだろうし、怒られるだろうから。
(それでも、私は)
学校の制服に着替え、赤いローブを羽織る。
わざと目立つような格好をし、そのまま王城の馬車乗り場へ向かう。
ルナも幸い、何処かに行ってしまっていなかった。
私はごめんなさい、と呟いてから馬車に乗り、時の国へと向かうのだった。
☆
時の国も戦争の準備で慌ただしかった。
私は門をくぐり、ローレンスとシリルの姿を探す。
二人を見つけた私は、二人に駆け寄ると姿勢を正して言った。
「国王様に会わせて欲しいの。
……大事な用があるからって、そう伝えて」
「え、何急に、どうしたの改まって。
……時間が遅くなってしまうけど、それでもいい? 父さんは今、凄く忙しいから」
「えぇ、いくらでも待つわ」
私の言葉に首を傾げながらも、ローレンスはシリルに頼み、王様の元へ行ってもらう。
そんなシリルを見送ってから、ローレンスは口を開いた。
「大事な話? 俺も聞いていいの?」
「……ええ、貴方にも関わることだと思うから、聞いて欲しいわ」
少し迷った後、私はそう言って頷けば、尚も疑問に思っているような表情をしながらも、ローレンスは、曖昧に頷いたのだった。
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このお話は、本編後15話程を予定しております。
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2019.6.7.




