14.辛い立場 *リアム視点
リアム視点での一人語りを挟みます。
途中、アルベルト、クレイグとの三人の会話が出てきます。
(リアム視点)
(……はぁあ、本当、世話がやける……)
僕はクラリスを送り届けた後、風に乗りながら一人ため息を吐いた。
「……何でそこまで、お人好しなのさ」
……いや、そんなことを言っても、しょうがないことを僕は知っている。
昔の僕も今の僕も、そんなクラリスに助けられたから、今ここにいられている。
(突拍子もない考えを思いついて、それを実行しようとする。
その姿勢はカッコ良いし、人の上に立つのには十分すぎるくらいの度胸もある。 ……ただ、そこまで自分を犠牲にしてまで与えられた幸せを、アルベルト様や僕達が受け取って、それが幸せだとでも思っているの?)
「……本っ当、とんだお人好しお姫様に僕も出会っちゃったよね、全く」
そんなことを言いながらも、こうして放って置けないでいる僕に呆れて笑い、空を見上げて呟く。
「……これも、“惚れた弱み”なのかな……」
☆
ストンッと降り立った場所は、さっきも来た場所。
「お邪魔しまーす」
僕がそう言って目的の人物に会うべく、許可なく入れば。
「!? リアム!? クラリスと一緒にいたんじゃなかったのか」
「何で貴方方はいつもバルコニーから来るんですか!」
「ごめんごめん。
まあまあ、そんなに怒らないでよ、アルベルト様、クレイグ」
そう、アルベルト様……とまあ、クレイグに会いに来たんだけど、僕を見たそれぞれの第一声に怒気を孕んでいるのを感じ、僕は謝りつつそんな二人を宥める。
そんな僕を見てため息をついた後、気を取り直したようにアルベルト様は口を開いた。
「……クラリスの様子はどうだ」
「勇敢なお姫様は一人、落ち込んでましたよ。
……貴方が意地悪をするから」
「っ、あれは、どうしようもなかったんだ!」
アルベルト様は、質問に対して僕が答えたのを聞き、そう言って唇を噛む。
そんなアルベルト様を見ながら、ぼくは壁にもたれかかって腕を組みながら言った。
「……正直に、言ったら良いじゃないですか。
全部、貴方の口から。
……もう分かっているんでしょう? “彼の方達”がこれからしようとしていることも、自分自身……アルベルト様の気持ちも。
……それに、まだ隠してることもあるみたいですし」
僕がそう言えば、アルベルト様は驚いたように目を見開いた後、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「……ははっ、お見通しってわけか。
……僕だって、話せることならそうしたい。
クラリスに嘘をついてまで隠し事なんて、したくないよ。 ……ただ、あの子を危険に合わせたくないだけなんだ。
それなのに、僕の気も知らないであの子はすぐ、自ら犠牲にして危ないことに足を突っ込もうとする」
アルベルト様はギュッと拳を握りしめ、机の上の物を見た。
そこには、婚約破棄を促す内容の紙と、クラリスが嵌めていた婚約指輪が置かれている。
(……あー、クラリスは、よりにもよってそれもアルベルト様に返しちゃったわけね……)
クラリス、そこはアルベルト様を思うんだったら、穏便に婚約破棄状だけにしてよ……。
白い目でその婚約指輪を見ている僕をよそに、アルベルト様は言葉を続ける。
「……僕だって色々考えて行動しているというのに、あの子は僕の予想の斜め上を行く。
……お前達も、そう思うだろう?」
「……そうですね、俺からしたら姫様に救われた身なのであまり言えませんが、そこは同感です」
「僕もクレイグと同じ。
……全く、一番振り回されるこっちの身になってほしいよ。 王族二人の間に挟まれてるんだから」
僕がそう愚痴れば、クレイグが「そこは俺も同じだ」とため息混じりに呟く。
当のアルベルト様はその言葉に開き直った。
「そこは仕方がないだろう。
それがお前達の仕事なんだから」
「「開き直らないで下さい!!」」
思わず二人でそうハモれば、全く反省していないアルベルト様は「はは、仲が良いな」なんて言うものだから、クレイグと二人、呆れて言葉も出ない。
アルベルト様は「でも」と言葉を紡ぐ。
「二人の協力があってこそ、俺もクラリスも感謝してるんだ。
礼を言う」
その言葉に、すかさずクレイグが口を開く。
「! ……アルベルト様が、礼を言った……! って、わわわ! ちょっと、その拳は何ですかっ!!」
「? 失礼なことを言われたことへの報いだが? ……それとも、拳じゃないほうがいいか?」
「暴力反対!」
僕はそんな二人のやりとりを白い目で見届け、傍観者を気取っていると、アルベルト様は振り上げていた拳を下ろして、はぁっとため息をついた。
「……急にどうしたんです?」
僕はため息をついたアルベルト様にそう問えば、「……クラリスは、もう来てくれない……」と力なくうな垂れた。
「……全く、“全て”素直に言わないからこんなことになるんじゃないですか。
僕は知りませんよ。 ……クラリスが何を考えているのか聞き出そうとしましたけど、頑固として口を割らないから、僕は勝手にさせて貰うと言って自ら離れたし」
「〜〜〜クラリス……」
「諦めて下さい、クラリス様が作ったお菓子に甘えて浮かれていたせいです」
僕とクレイグの容赦ない言葉に、アルベルト様は「裏切り者……」と呟く。
僕は組んでいた腕をほどき伸びをすると、ヒョイッとバルコニーの手すりに飛び乗る。
「ま、アルベルト様がそんなにうじうじしているんだったら、僕がクラリスを奪……わないです、やめて下さい、物騒だなもう」
アルベルト様の気が逆立ったのを感じ取り、僕は両手をあげて降参する。 アルベルト様はにっこりと黒い笑みを浮かべた。
「僕をからかおうだなんて、お前も良い度胸してるじゃないか、リアム。
いつでも相手になるぞ」
「……はあ、本当、クラリスのことになるとムキになるんだから。
僕は、貴方が羨ましいですよ。
……そうやって、クラリスに真っ直ぐに想いを伝えようと思えば、伝えられるんだから」
僕のその呟きに、アルベルト様は黙る。
「……だからってやめて下さいよ、中途半端に同情しようとするの。
まあ、変なことを言った僕も僕ですけど。
僕の気持ちなんて、もう過去のことなんですから。 アルベルト様は今すべきことだけに集中して下さい。
……それがクラリスの、幸せに繋がるんだから」
僕はアルベルト様が何か言いかけた言葉から逃げるように、その場を後にする。
ひらりとバルコニーから風に乗れば、僕の体は宙に浮く。
(……さて、僕はこれからどうしようか)
自分で切ってしまったからには、クラリスの力にはもうなれないだろうし……。
(……そういえば今日、すっかり忘れてたけど学校だったな。
いいや、休もう)
空はもうとっくに明るい。
仕度をして今更学校に行ったところで目立つだけだろうし、クラリスにも今はどんな顔をして会えば良いか分からないから、と心の中でズル休みの言い訳をする。
こうして、何もすることがなくなった僕は、そのまま暫く空を散歩し続けたのだった。




