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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第1章 恋の魔法にかけられて
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8.次なる試練

 そんなことがあった次の週、私は夢を見た。

 前世の自分と、乙女ゲームの次の嫌がらせについての夢。

 私は、朝、すぐにルナに報告した。




「ルナ、私、思い出したわ」

「あ! 悪役令嬢がする次の嫌がらせの記憶ですか!?」

「それもそうだけど……私、前世でとんでもないドジっ子だったみたい」

「……は?」




 私の言葉に唖然とするルナ。

 ……少し、面白い。

「この前、何もないところで()けて(くじ)いて、その上危うく噴水に落ちるところだったでしょう? ……私どうもそれ、前世からみたいなの」

 ゲームをしている時以外の、昔の“私”は、とんでもないドジばかりしていた。

 


例えば、学校には、しっかり家でやっていた宿題を家に忘れ、結局忘れ扱いになったり、何もないところで転んだりするのもしょっちゅう。

 ……何故よりにもよってそんな記憶を思い出してしまったのか。 神様は一体何がしたいのか。




「……それでは、悪役令嬢として嫌がらせをする前に、成功するどころか、お先真っ暗ですねぇ……」

「……それを言わないで頂戴、ルナ……」

「昔のクラリス様は、そんなことなかったんですけどね。 やはり、前世の記憶を思い出したから、なんでしょうか」

「十中八九、それしかないわ……」



 ……王家として、何もないところで転ぶだなんて、あってはならないこと。 ……何としても、恥をかかないようにだけは気を付けなければ。




「それでね、次の嫌がらせのことなんだけど……」






 次の嫌がらせは、今週末に開かれる学園主催の夜会。

 この学園では、生徒同士の交友を広めるべく、毎年4月の末に、学園の広大なホールで行われるパーティがある。

 ……その時に、私がミリアさんに対してする嫌がらせは、足を出して(つまず)かせ、ミリアさんが見ていない間にジュースをドレスに垂らして汚すという、結構酷な事。




「それは随分また、古典的な……」

「古典的かは分からないけれど、酷いと思わない? ドレスなんて汚れたら、恥にも程があるし、退場せざるを得ないわ。 ……いくらなんでも、これは可哀想よ」

 そう言って溜め息をつく私に、「それもそうですね」と相槌を打つルナ。




「でも遂行しないと、クラリス様がバッドエンドなんて、私は死んでも御免ですし……とにかく、何か対策を立てましょう」

 ん〜と二人で(うな)っていると、「あ、こういうのはどうです!?」と何かを閃いたルナ。



「少しだけ足先に零して、それをクラリス様が謝ったところに私を呼んで、クラリス様のドレスを貸してあげる……なんていうのはどうでしょう!?」

「名案ね! 見た感じ、ミリアさんと私の背丈や身体のサイズは似ているから、大丈夫だと思うわ! それで行きましょう」

 さすがルナね! と笑みを浮かべると、ルナは照れたように笑いながら言った。

「では早速、ドレス選びですね! ミリアさんに似合うドレス、しっかり選びますね!」

「えぇ、私も選ぶわ。 宜しくね」

「お任せ下さい!」






 楽しそうなルナに、私はルナがいて本当に良かった、と思ったのだった。




 ☆






 ルナと作戦会議をしたその日の午後。


 私は、急にアイリスお姉様に呼ばれ、校長室の扉をノックした。



「アイリスお姉様、失礼致します」




 私はお姉様の入りなさい、という声にガチャっとドアを開ければ、校長室に座った前王である父とその隣に立つ姉がいた。 それを見て私は軽く淑女の礼をしてから部屋に入ったのだが、そこには何故か、不貞腐れたような顔をしたアルが立っていた。




「……? どうなさったのですか? アルまで呼ぶなんて、珍しいですわ」

 そう私が言うと、お姉様は、私と同じ髪と瞳の色を持つのに、私と違って色気があるその見た目に反して、あははっと豪快に笑った。



「いや、面白い面白い。 アルベルトは本当に、幼い頃から変わらないな」

「辞めて下さい、私はもう成人しているんですから」



 そう怒るアルと対照的なお姉様を交互に見て、私は話についていけずに困っていると、お父様が見兼ねて、お姉様に「アルベルトを(いじ)るのは止めてあげなさい」と(たしな)めた。

 その言葉に黙る(声を押し殺して笑っている)お姉様に苦笑してから私に視線をうつすと、実は、と口を開いた。



「今年は、私の魔力も少し弱まってきたことだし、パーティで行うランドル家総出の火の演出を、私は辞退しようと思っているんだ」

「え!? お父様が辞退!?」

 思わず、校長、と使わずにお父様と言ってしまった私は、慌てて付け加える。

「校長でいらっしゃるお父様が辞退してしまえば、演出は完成しないのではなくて?」



 “演出”とは、ランドル家が直々にパーティの最初に行う、火の魔法を使った催し物のこと。

 会場を薄暗くして、火の魔法を動物の形に象って、テーブルの上のランプに火を灯したり、最後は一家総出で大きな魔法で炎を作り、ランドルの守護神とされているドラゴンに象って舞わせ、会場にある大きなシャンデリアに灯す、そういった演出のこと。



「そんな大魔法を使って成功していたのは、お父様やお兄様、お姉様、大公様……火を司る王家の血筋を持つ方々がいらっしゃるからであって、大魔法使いのお父様がいらっしゃらなかったら、いくらなんでも無理がありますわ!」




 お父様はさっき、「魔力が弱まってきた」と言ったけど、確かに全盛期に比べたら少し体調を崩してしまった影響もあって、弱まっているというのは聞く。 ……ただ、弱まったところで、大きな魔法を何個も使えるお父様が、出来ないはずがない。

 そんな私の驚いた顔にはははっと笑った後、真面目な顔をして、机の上に手を置いた。




「そこで、相談がある。

 ……その役目を、王家の血筋であるお前に託そうと思う」

 その瞳は、間違いなく私を指している。

「わ、私が!? む、無理です! 私には、そんな力はこざいません!」




 お父様に代わる大魔法は愚か、王家の中で魔法は底辺レベルの私。

 ……その力は、普通の魔法使いの平均値より少し上、くらいの私には到底出来ないことだ。

(だって私、自慢じゃないけれど、学園内では密かに笑われ者よ)




 魔力の弱さのせいで、王国内でも異質な私。 家族だけが、そんなことはないと擁護してくれるけれど、陰で心無い侍女や執事は言いたい放題に言っていたのを、私は知っている。

 ……(もっと)も、そういうことを言った人達は皆、私の止める声を無視して、お父様が怒って全員お城から追い出してしまったけど。



「……首を振ったら、今年のパーティでは演出は無しになるよ」

「そ、そんな……!」



 辛辣なお姉さまの言葉に、私はおろおろとアルを見る。

 アルは困ったように、怒ったように眉根を寄せて、お姉様を見る。

「クラリスが困っていますよ。 その件は、今年は校長がやってもよろしいのではないですか」

「あ、アル! 校長なんだから駄目よ! そんなこと言ったら!」

 確かに、助けは求めてしまったけど……!

 アルは、私のことをチラッと見ながら、毅然と校長とお姉様を交互に見る。

 そんなアルを横目で見つつ、お父様は私を真っ直ぐと見つめる。



「……クラリス、お前はどうしたい」

「わ、私は……」




 ギュッと、スカート掴む。 ……私の魔力が弱いせいで、私だけではなく、お父様やお母様まで馬鹿にされる言葉も、聞いたことがある。

(わ、私は……)




「……やりますわ。 お父様、お姉様。

 ご指導、宜しくお願い致します」

「! クラリス、いいのか?」

 何故か、何処か青い顔をしたアルを見て、ゆっくり頷くと、大丈夫と笑ってみせて、お父様とお姉様を見る。




「……今まで私は、王家の中で魔力が弱いことを恥だと感じながら、魔力のことには耳を塞いで生きてきました。

  ……そのことで、大切な家族まで巻き込んでしまっている。 演出だって、本来在学している間からやらなければいけないところを、私は去年、免除して頂きましたわ。

 ……それに、魔力が弱いことを隠して過ごしているのは、私だけの問題ではないんだと、常々思って参りました。

 今回の演出に出るのは、私を馬鹿にした方々を見返すためということではなく、私の“大切な家族”を守るために、演出を私も参加させて頂きたいと思います。

 ……足は引っ張ることは重々承知の上で、宜しくお願い致します」




 淑女の礼はせずに、深々とお辞儀してから顔を上げた私を見て、お父様は満足そうに、お姉様もにこやかに頷きつつ、何故かボーッとして私を見つめるアルを見て、「いや、ボーッとするな」とツッコミを入れる。

 アルはハッとしたような顔をしながらも、何処か少し顔を赤くさせながら、私に向かって微笑んだ。

 そんな私とアルを見て、お父様はお姉様によく似て、豪快に笑いながら言う。



「頼んでいたのはこちらなのに、まさかクラリスから頼まれるとは。 ……分かった、総出で指導に当たろう」

「総出……ではなくて良いのですが、宜しくお願い致しますわ、お父様」

 そう言って微笑むと、お父様は、何故か泣き出した。


「え、お父様!?」

「く、クラリスが、大人になっていく……」

(えぇ!?大袈裟よ!!)

 そう思う私をよそに、お姉様とアルまで頷くと、お姉様は私に歩み寄って、「宜しくな、クラリス」と握手を求めてきた。

(お姉様は、相変わらず恰好良いわ)

 私はその手に手を差し出して握ると「こちらこそ、宜しくお願い致しますわ」と笑顔で言ってみせた。

補足ですが、アルベルトの第一人称は、“僕”を基本にしていますが、本人は人前ではなるべく、“私”というように心掛けている、という設定です。

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