11.覚悟
それから更に2日後、戦争まで後10日に迫った。
秘密裏に計画していた件について、エドガー王子からも何の音沙汰もなく、私は徐々に焦り始めていた。
(焦りは禁物だと思っていたけれど、流石にこれではまずいわ)
私が部屋の中でどうしようかと、頭を抱えていると、コンコンと誰かがノックをした。
私は慌てて身支度を整え、「どうぞ」と言えば、顔を出したのはアイリスお姉様だった。
そのお姉様の出で立ちは、容姿と相待った服が素敵で、とてもかっこよかった。
「お姉様! とてもかっこ良いです!
それは何の衣装なんですか?」
「対悪魔戦争用だよ。 クラリスにも同じものを用意したから、着てみてほしくて持ってきたんだ」
「……対、悪魔戦争用の……」
そう言って差し出されたのは、お姉様が今来ているものと同じ、赤い軍服のような服だった。
肩には金色の肩章が付いており、制服の色は赤く、ランドルの紋章が付いている。 下はスカートと、女の子用であることも分かる。
「……これは、ランドル王家用の、軍服ですか?」
「あぁ。 私達はこれを着て先導することになった」
私の言葉に、アイリスお姉様は頷く。
(……王家が、先導……)
私は軍の制服を見て、言葉を失う。
「……怖いか?」
「え……」
お姉様の言葉に顔を上げれば、真剣な表情でそう私を見つめて言った。
私は少し考えてから、首を縦に振った。
「……怖いです。 戦争は、怖いものだと思います。
……何より、自分の命を落とすより、他人の命を奪う戦争が怖い……そう、思います」
私は正直にそう言うと、アイリスお姉様は「……そうか」と私から顔をそらして言う。
「……確かに、私も怖いと思う。 ……だけど、誰かがやらなければならない。
そうでないと、誰も守れないんだ。 ……それが、戦争だと父が言っていた」
「! ……お父様が?」
「あぁ」
お姉さまは頷くと、「私達は、戦争など知らないから皆怖いさ」と呟いた。
「それでも、私達は戦わなければならない。
民を守るためにも、家族を守るためにも。
その為なら、私も手段は選ばない」
「あ……」
(……皆、同じことを考えているんだ……)
私はそのことに気付く。
(私一人がただ、戦争に反対だと思っていた。
……だけど本当は皆、守りたいものがあるから、戦争に参加しようとしているんだ……)
……だったら尚更、私の決断は間違いではなかったんだ。
「……有難うございます、アイリスお姉様」
「? ……何か、吹っ切れたようだな」
「はい、お姉様のおかげで、覚悟が決まりました」
……心の底からの覚悟が。
「そうか。 ……では、それを着て、後で見せに来てくれるか。
ニコラスの部屋で待っている」
「はい!」
私はお姉様の言葉に頷くと、お姉さまはポンッと軽く私の頭を撫で、ひらひらと手を振って部屋を出て行った。
そして、近くにいたルナを呼び、声をかける。
「……対悪魔戦争用の服を着るの、手伝ってくれるかしら?」
「はい! 畏まりました」
☆
言われた通り制服を着て、ニコラスお兄様の部屋に行って家族に服を見せたら賞賛された。
何だか気恥ずかしくなった私は、すぐにその場を後にし、服を着替え、目的の場所へと移動することにした。
向かった場所は、時の国。
今日はリアムがいない為、馬車で送り届けてもらい、シリルの魔法でエドガー王子の元へ連れて行ってもらった。
「……やっぱり、来たんだね」
「ごめんなさい、待ちきれなくて来てしまいました」
そう言えば、エドガー王子は「来なければよかったのに」と呟いた。
「え?」
私はその言葉に驚いてエドガー王子の顔を見れば、その表情はとても険しくて。
あの温厚なエドガー王子の顔が、ここまで険しくなるとは思っても見なくて、私は思わず自分の手をギュッと握る。
「……何か、方法が見つかったんですね」
その表情を見て確信した私はそう問えば、シリルは驚いたようにエドガー王子を見る。
(……そうだわ、シリルにも話していないこと、だものね……)
「……その前に、シリルには話してもいいだろうか」
口を開いたのはエドガー王子だった。
私はその問いかけに、「はい、大丈夫です」と伝えれば、エドガー王子は事の次第を掻い摘んで説明する。
その説明を聞いていくうちに、みるみるシリルの顔は青ざめていく。
そして全て話し終えた途端、私の肩を急に掴んで声を荒げた。
「貴女は何を考えているのですかっ! 死にたいのですか!?
……どうして何でも、一人で背負うと無茶ばかりするのですか……!」
「……シリル」
私はいつもは冷静で、こんなに取り乱したりしないシリルを見て、呆然としてしまう。
そのシリルを見、私を見た後、エドガー王子も頷いて口を開く。
「……本当なら、私だって反対なんだよ。 クラリス姫一人が深く首を突っ込むべきでないことは分かっている。
……ただね、シリル。 この子を見てごらん。
今まで、彼女は沢山の障害を乗り越えて来た。 重すぎるだろう宿命も、彼女は必死に乗り越えたんだ。
そうして、彼女は彼女なりの考えがあってここまで来た。 ……そうだろう?」
「……はい」
私はそう頷いて、シリルの手をそっと離しながらその手を握る。
驚いて私を見上げた彼の顔は、少し目が涙で濡れていた。
「……ごめんなさい、シリル。 勝手に、貴方やエドガー王子、それから皆の心配をよそにこんな勝手なことをして。
……でもね、私はこの考えを曲げられないの。
私は、アルも、貴方も、エドガー王子も、家族も仲間も民も、全て守りたいの。 ……その為なら、どんな手段も使おうって、そう決めたの」
「っですが!!」
私はシリルが抗議しようと口を開いたのに対して、人差し指を自分の口の前で立てる。
シリルはそれを見て、口を噤んだ。
その代わり、私は言葉を続ける。
「……例えこの身が滅びようと、私は愛する者達を守ることが出来るのなら、それで良いと思っているの。
それに、こんなに大きな魔法を持っているのよ? この大きな魔法をこういう時に使わないでいつ使うの。
……私の魔法は、“破壊”の魔法。 ならば、それを愛する者の盾という武器にしたい」
そして、と私は努めて明るく言う。
「私の願いは、ただ一つ。
この国の笑顔を守りたい。
一滴の血も流さず、この戦争を終わらせて、平和な国にすることが私と……アルの、夢なの。
今、アルは記憶を失っているけど、もう次期記憶を取り戻す。
……その時までにはその願い、私が叶えておきたいの」
「……っ、クラリス様……」
「あ、あーあーごめんなさい。 泣かないで。
泣かせるつもりはなかったのだけれど……って、エドガー王子まで泣かないで下さいませ!!」
話し合いが進まない!! と思ったのだが、私はその二人が涙を流すのを見て、自分がどれだけ思われているのかを実感して、私も耐えきれず、一粒、涙を零したのだった。
新作短編を書かせて頂きました〜!
7000字程度なので、もしお時間がおありの時にお読み頂けたら嬉しいです…!↓
『結婚式前日、置き手紙を置いて花嫁が逃亡しました。』
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