8.真相と古の歴史
少し長めです。
ややこしめですが、噛み砕いて次話以降でも説明させて頂こうと思います。
「まず、私がアルと話して分かったこと。
……それは、アルの夢が教えてくれた」
「夢?」
皆その言葉に首をかしげる。
「えぇ。 私が行った時、アルが夢を見て魘されていたから、それが気になって聞いてみたの。
そうしたら、彼が言っていた。
“何処かで見たことのあるような感じがした悪魔に襲われた”ようなことをね」
「何処かで見たような、ということは、やっぱり……」
エドガー王子の言葉に、私は頷く。
「多分、私達が消滅させた“悪魔祓い”の悪魔のことだと思う」
その言葉に、皆が息を飲む。
その中で口を開いたのは、ミリアさんだった。
「でも、その悪魔は、私とクラリス様とアルベルト様で消したはずでは……」
「……えぇ。 それが問題なのよ。
私も気になっていることだけど、確かにあの時、あの悪魔は魂ごと消滅したはずだわ。 間違いなく私達はその目で確認したんだもの。
……だけど、彼等は“悪魔”。 だから、黒魔法を使うことも十分に考えられる……」
私の言葉に、リアムは頷いた。
「黒魔法で記憶を消すことは出来ないと思うけれど、記憶を封印したりすることは可能なはず。
それに、悪魔自身が呪いをかけることも可能だよ。 ……ほら、彼等にとって“用済み”になった人間を呪い殺したりしていたでしょう?
あんな感じで」
その言葉に、皆の目が一斉にリアムに向く。
リアムはギュッと膝の上で拳を握って言った。
「……悪魔祓いで消えた、僕に取り憑いていた悪魔のことなら、僕のこの体の中にいたから、多少のことならどんな魔法が使えるか分かる。
……確か昔、悪魔本人から少しだけ教えてもらったことがあるんだ。 人も悪魔も、例え魂が消えても、“怨念”になって人を呪うことが出来るって」
「それでは……」
私はある過程を思いついて口にする。
「……もしかしたら、アルの前に、その“怨念”となった悪魔祓いで消したはずの悪魔が現れて、アルに黒魔法を使った呪いをかけた、ということ……?」
「僕は、そう考えた」
リアムはそう言って頷く。
私も、悪魔祓いの時から引っかかっていた言葉を思い出す。
「……そういえば、あの時あの悪魔はこうも言っていたわ。
『クラリス・ランドルよ、後悔するといい。
……もうすぐ、彼の方がお目覚めになる。
最早お前でも、彼の方には勝てるまい。 これでお前も、おしまいだ』って。
……ただの戯言かと思ってあまり深く考えていなかったけれど、“彼の方”のことがバアルで間違い無いとしたら……」
「……バアルを倒すための手助けとなるであろうアルベルト王子をターゲットにして、魔法を使えないようにした……」
エドガー様の言葉に皆が静まり返る。
(そんなことで、アルの記憶も魔法も奪うなんて……!)
私は唇を噛み締めれば、ミリアさんが心配そうに私を見ているのが目に入って、慌てて噛むのをやめて微笑んで見せる。
そんな私とミリアさんのやりとりを見た後、ローレンスが疑問に思ったように口を開いた。
「でも何故、そこでアルの魔法を消すの? どちらかといえば、ミリアかクラリスを狙った方が、早いと思うけれど」
「それは同感だわ」
私が頷くと、エドガー王子は「いや」と否定する。
「それはどうかな。 二人は対悪魔用に強い魔力を持っている。
そんな相手に真っ向から向かおうとはしないと思うよ。
どちらかといえば、アルのようにクラリス姫のサポートに回っている者を狙った方が、クラリス姫の足を掬える、そう考えたのでは無いかな?」
「……確かに、それもそうですね」
エドガー王子の言葉に納得する。
……さすが、博識なエドガー王子だなと感心していると、エドガー王子は努めて明るく振る舞う。
「じゃあ犯人が分かったところで、その線をもう一度辿って、アルベルト王子の記憶に入り込むか時間を遡れるか試しててもらうよ。
ターゲットの詳細がわかれば、かなり魔法も効きやすくなると思うし。
……それについてはローレンス、お願い出来るかな?」
「うん、その件は任せて。
……次は、俺が話しても良い?」
その言葉に、私とエドガー王子が頷くと、今度はローレンスが話し始める。
「俺とミリアで探したのは、過去に“悪魔絡みの戦争”が起きているかどうか。
……そうしたら、見つかったんだ。 約1000年前に、この地でね」
「1000年も前……!?」
ローレンスとミリアさん以外の全員が驚く。
悪魔絡みの戦争があるだけでも驚いたのに、そんなに昔の話だとは思わなかった。
私達に向かってローレンスは頷くと、「本当に昔すぎて、禁書の中でも埋もれていたんだ。 最近起きなかったせいで、あまり重要視されていないみたいで」と、ローレンスは言う。
(……でもさすが、時の国ね。 そんなに昔の歴史も全て、記録として残してあるんだもの……)
そんなことを考えているうちにも、ローレンスの話は進む。
「その時も、悪魔祓いと同じように、火を司るランドル家、水を司るシュワード、時を司るディズリー家のそれぞれの魔法使い、そして“光”の魔法使い……これは、今でいうミリアの“浄化”の魔法に当たるんだけど、その中でも国を代表として、4人の戦士を先頭に、人間と悪魔とで戦いが起きたようなんだ」
「悪魔祓いと似ている、ということね……」
私が呟けば、ローレンスは頷く。
「この頃から、対悪魔に対しての三カ国の同盟もあったようだし、この三カ国は最古の歴史から悪魔のことは深く認識されていたみたいだ」
「確かに、悪魔に関しての本は矢鱈と多いのは、きっとそのせいなんだね」
エドガー王子の言葉に、リアムも賛同するように頷いた。
その二人を見て、「そうだと思う」とローレンスは言って頷く。 そして軽く咳払いをした後言った。
「……話を戻して、その1000年前の記録では、多くの犠牲者も出ているみたいなんだ。
詳しくは書かれていないけど、悪魔側にも人側にも甚大な被害が出ている。
亡くなった人達の大半は、戦っていた魔法使いのようだけどね」
「……戦争といえど、残酷だね」
しみじみと言うエドガー王子の言葉に、私は俯いた。
(……私は、血を流すような戦い方はしたくない。 そのために、私も何か考えないと……)
「その犠牲者も多くてキリがないと思った各国の戦士3人と“光”の魔法使いが名乗りを上げた。
その4人で力を合わせて、一番強い悪魔……きっとこれは、バアルのことだと思うのだけど、そのバアルを封印した……というのが、事の顛末らしい」
「……悪魔祓いの行程と、似ているのかしら?」
私の呟きに、ローレンスは「多分」と頷いた。
「……あまり詳細には書かれていないんだ。
きっとこれは、時の魔法使いもこの時、一緒に加勢しているから。
しかも多分、4人の戦士本人にしかそのやり方はきっと、分からないやり方なんだと思う」
「……そうなのね」
私はその言葉にふーっと長く息をついた。
(……まだまだやることは多そう。 1000年前のことも勿論気になるけれど、こちらは今はアルベルトは魔法を使えない状態だし、その上1000年前と同じやり方でやろうとしたら、また1000年後、同じことを繰り返さなければならない。
……私が今出来ることは、何だろう)
「……俺は、1000年前と同じやり方でやるのが一番ベストだと思う。 新しい可能性を探すより、昔と同じやり方でやった方がかなりの確率でバアルも封印しやすいと思うから。 その方法が何処かに書かれていないか、詳しく探してみることにするよ。
それにそのためには、アルに何が何でも記憶を取り戻して魔法を使えるようにしてもらわないと。
……クラリス、お願い出来る?」
「……えぇ、アルのことは任せて。
何とかするから」
私は“1000年前と同じやり方”というのは敢えて肯定せず、アルのことだけを肯定して頷いた。
そんな私の意図には気付いたのか気付いていないのかは分からないけど、ローレンスはそのまま他の人にも指示を出していく。
その中で私はただ一人、沈黙を貫くのだった。
☆
皆がこれからのことを話し終え、帰ろうとした時、私はそれまで貫いていた沈黙を破った。
「エドガー王子とお話をしたいから、皆は先に帰ってて」
「え……? うん、分かった」
皆はどうして? と言う顔をしていたけど、深く聞くようなことはせずに先に瞬間移動魔法で帰ってもらった。
リアムにも、今日はシリルに送ってもらうから、と言って先に帰ってもらった。
(そう言ったら少し拗ねていたけど)
シリルも瞬間移動魔法で皆を送り届けるためいなくなり、部屋には私とエドガー王子の二人だけになる。
先に口を開いたのはエドガー王子だった。
紅茶を一口飲んだ後、手を組んで穏やかに聞いてきた。
「……で、話って?」
「すみません、我儘を言ってしまって……」
私が居座っているのが申し訳なくてそういえば、「いや、私は全然構わないんだけどね」と慌てて首を振ると、「それで?」と話を進めるよう促した。
私は少し手元の中の紅茶を見つめると、意を決して、口を開いた。
「……私は、ローレンスの意見には反対で、1000年前とは違う戦い方で、戦いたいのです」
「……うん」
「! 否定しないのですか?」
私の言葉に、エドガー王子は「君なら、そう言うと思ってたから」と小さく笑って言う。
「君は、戦争とかそういうものが嫌いでしょう?」
そう言葉を続けたエドガー王子に、私は素直に頷いた。
「皆、誰だって戦争は嫌いだと思います。 ……私は、一滴も血を流したくない。
……それは無理なことかもしれないけれど、それでも、出来ることならば大事な人を、この国の民を傷付けるようなことも、一切させたくないし、したくない。
そのために、私はここにいるんだと思います」
私がそう言えば、エドガー王子は驚いたように目を丸くした後、ふっとその目を細めてにこやかに言った。
「……ふふ、君は国の頂に立つべき鏡だね」
「……エドガー王子にそう言って頂けると光栄です。
私は、私のやり方で血を流さずに済む手段を、探したいと思います。 そのために、貴方の力が必要なんです。
……ご協力、頂けませんか」
お願いします、そう言えば、エドガー王子はふっと真剣な目をして言った。
「……覚悟は、出来ているの?」
「え……」
驚いてエドガー王子に目を向ければ、じっと私の目を見つめて言葉を待っているエドガー王子。
(……そんなの、もうここにいる時点で決まっているわ)
「……はい。 もとより、覚悟は出来ています」
私が真っ直ぐその目を見返してそう言えば、エドガー王子はやがてふっと短く息をついて言った。
「……分かった。 こちらも出来る限りのことは尽力しよう。
ただし、君はこの件を内密に遂行したい。
だから、皆を返した。 ……そう捉えていいんだね?」
「……はい、私の独断ですので、この件は他言無用でお願い致します」
「……分かった」
私の言葉を飲み、エドガー王子と内密に交わした約束は、これから先、皆には内緒で行うことにした。
(……たとえ私一人が犠牲になろうとも、それで皆を守れるのなら、私は手段は選ばない)
私の願いは、ただ一つ。
愛するアルベルトを、仲間を、国を守ること。
それだけなのだから……―――




