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6.それでも貴方が

「……とまあ、こんなことがあって」




 帰ってから大体のことをルナに話すと、「ひ、姫さま、本当に無茶をされますね……」と半分驚きつつ、半分呆れながらそう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。




「……私も、そう思ったわよ。 でも、そうでもしなければ怒りが収まらなくて、また危うく大惨事だわ」

「あー……姫様ならあり得ますね」

「ちょっと、それはどう言う意味よ」




 ルナの言葉に私はムッとして言えば、「何でもありません」と平然と言葉を返してくるルナ。



「それで、一ヶ月後の決戦とアルベルト様の魔法を呼び戻すことに、何か出来ることは見つかりましたか?」

「……いいえ、それが全然。

 情報網では時の国には敵わないし、私に出来ることは、アルから、彼の身に起きた夜のことを思い出してもらうしか方法はないのよね……」




 ……ただ、どんな言葉をかけても、アルの記憶に繋がっているとは今までのことからして皆無に等しい。

(……薄々、私に興味を持ってきていることには気が付いてはいるのだけれど、それ自体が私を思い出してのことだとは思えないし……)



「……暫くは、粘ってみるしかありませんね。

 幸い、アルベルト様はクラリス様に関して好印象を持っておられるようですし。

 クレイグも、たまにこちらに来て状況を報告してくれるのですが、いつもクラリス様のことばかりでうんざりだ、と申しておりましたし」

「!?」




 私はその言葉を聞いて恥ずかしくなる。

「……っ、何よ、アル。 人の気も知らないで。 だったら早く、記憶を思い出して欲しいくらいだわ……」

「……ふふ、そう言いながらも嬉しそうで何よりです、クラリス様」

「ルナまでやめて頂戴。

 全く、皆して人を何だと思っているのかしら!?」



 ルナはまたクスクスと笑うと、「そろそろ夕食のお時間ですね」とそういって、逃げるように準備のために立ち去って行ってしまう。



「……はぁ、もう、心臓に悪いわ……」





 高鳴った鼓動と、火照った顔を冷ますように、私は深く深呼吸すると、窓から夜空を見上げる。





「……絶対に、悪魔なんかに負けたりしないんだから」





 ……だからアルも、絶対に、悪魔に負けないで。





 私は祈るように、そうポツリと呟いた。












 ☆







(アルベルト視点)





 ……得体の知れない、不快な気持ちに襲われて目を覚ますと、真っ暗な部屋の中だった。




 その視線の先には、ギョロリとした目を持つ黒い塊のようなものがいる。





 何故か、声を出せない僕の目の前に、その黒い塊は、僕に向かって手を伸ばしてきて……――









「っ!!」




 ハッと目を覚ましたら、赤くて綺麗な、ルビー色の瞳が戸惑ったように揺れていた。



 僕の髪をそっと撫でながら、金色の髪を持つその少女は、容姿と相まって綺麗な声で柔らかい声色で言った。




「大丈夫? 随分と魘されていたみたいだったけど……」



 そう言って、彼女は、ハンカチを片手に持って僕の額についた汗を拭った。



「……くら、りす……?」

 そう目の前にいる彼女の名を呼べば、微笑みながら「えぇ、そうよ」と頷いて、そのまま汗を拭ってくれた。






 まだボーッとはしているが、彼女の顔を見て僕は何故だか、とても安心した。






「……今日は、来てくれたんだね」

 そう言えば、彼女は眉尻を寄せて申し訳なさそうに言う。




「昨日は来れなくてごめんなさい。

 少し用事が出来てしまって、学校から帰るのが遅くなってしまったの。 だから、貴方の元に行けなくて……」

「……そっか、良かった。 嫌われたわけではないんだね」




 僕がそう呟けば、「どうして私が貴方を嫌うの?」と唖然としたように言う彼女。

 心底驚いたような声音に、僕はどうしてか、嬉しくなる。




「……ふふ、その口ぶりだと、君は僕のことを随分と好きなように聞こえるね」

「? 当然よ。 だって私は、貴女のことを好き……いえ、愛してるもの……きゃっ!?」




 その言葉に嬉しさが爆発して、思わず彼女の華奢な体を抱き寄せてしまった。





(……あぁ、この匂い、この感触。

 やっぱり何処か、懐かしい気がする……)






 そんなことを思いつつ、戸惑ったように体を硬直させるクラリスが可愛くて、彼女の耳元で呟く。




「本当に君は、僕のことを嬉しくさせる天才だね。 ……愛してるだなんて、言ってくれるとは思わなかったよ」

「!? そ、それはその……ほ、本当なのよ?

 重かったら、ごめんなさい、だけど……」





 クラリスの言葉に、僕はより一層抱きしめる腕を強くする。





「あーあ、君はどうして本当に可愛いんだろう。 ますます、君のことが好きになるばかりだ。 どうしてくれるの?」

「!? 私のことを、好き……なの?」

「え、逆に聞くけど、2日前キスしたこと、僕が君を好きでないなんて思ってたの?」




 驚いた僕は体を離してクラリスの顔を正面から見れば、彼女はほんのりと赤らめた顔を隠すように顔を背けながら、「そ、そういうわけ、でもないけれど……」と言葉を濁した。




 その曖昧な返事に、僕は不服になって声を上げる。




「酷いな、クラリス。

 僕を、女の子になら誰でもキスをする、そんな不誠実な男だとでも思っているの?」

「ち、違うわ! そうではなくて……でも、貴方が好きと言ってくれるとは思わなかったというか、同じ思いだとは思わなかったというか……」



 慌てたように、しどろもどろになりながら答える彼女は、本当に可愛い。

 何処までも甘やかしたくなってしまう。



 ……その感情は昔から知っていたものだと、心の何処かで冷静に判断している自分がいることに、一先ずそのことは後で考えよう、と思いを巡らせ、今は目の前にいるクラリスのことだけを考えることにした。





「……クラリス、君はやっぱり、僕の可愛い婚約者だ。

 こんな魔法を使えない、どうしようもない男でも、変わらず好きだと言ってくれる。 その言葉に、どれだけ救われているか、君は分かる?」

「“どうしようもない男”だなんて言わないで。

 ……私ははっきり言って、貴方がどんな魔法を持っていても関係なく、貴方のことが好きなのよ。 ……貴方のことが好きだから、こうしてほぼ毎日、貴方のところに会いにくるの」




 そう言うと、今度は何をするかと思えば、僕の唇に彼女の唇が触れる。




 一瞬の出来事に驚けば、今度こそ真っ赤な顔をして僕の目の前に人差し指を突きつける。





「い、いい!? これで少しは伝わったかしら!?

 私が“アルなんか”ではなく、“アルが”好きだってこと!! だからこれからは、自嘲気味た発言は控えなさい!!」





 そう強い口調とは裏腹に、真っ赤な顔をして訴える彼女を見て、ふふっと思わず笑ってしまうと、再度怒り出した彼女の唇を、今度は僕が奪ったのだった。



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