番外編SS-その頃、彼等は①
仮面舞踏会編の別視点です。
①はルナとクレイグで、時系列はクラリスが会場の最終確認をしているところから始まります。
姫様がホールの最終点検を行っている最中、私は王家の待機部屋にいるよう言われ、クラリス様の部屋の中で立っていた。
(……“座ってていい”と姫様に言われたけど、流石に姫様がいない時に豪華な椅子に一人で座っているのは気が引けるよね……)
と思い、とりあえずすることがなく、ただぼーっと鏡台に映る自分を見た。
(……お姫様になった気分……)
姫様がわたしにも、と恐縮ながら姫様と似たようなデザインの淡いピンク色のドレスに身を包んだ私は、自分で言うのもなんだけど化けたものだと思う。
(……クレイグは、どう思うかな)
可愛い、と思ってくれるかな。
それとも、似合わないって思われるかな……。
ふとそんなことを考えて、私は首を振る。
(いや、今はそれより姫さまの方が心配。 最近ボーッとしていらっしゃるし……アルベルト様がらみかな? アルベルト様が来たらそれとなく聞いてみようかな)
「ルナ? どうした?」
「っ!?」
私は驚いてバッと振り向けば、そこにいたのはアルベルト様とクレイグで。
「わっ、す、すみません! いらっしゃっていたことに気が付かず……」
「あぁ、大丈夫。 今来たばかりだしね。
それより、クラリスは何処?」
「あ、はい! 姫様なら、今会場にいらっしゃいます」
そう言った瞬間、アルベルト様は「有難う」と言うと、さっさと部屋を出て行こうとする。
(……うん、アルベルト様はいつも通りクラリス様にご執心ですね)
……んー、クラリス様が元気がないのって何が原因なんだろう?
「あー、忘れてた。 クレイグから言いたいことがあるって」
「え?」
「なっ……!?」
アルベルト様が振り向きざまにそう言ったから、私は反射的に顔を上げると、こちらを見ているクレイグと目が合う。
……心なしか、その顔は赤い。
アルベルト様は「じゃあごゆっくり」と謎の言葉を言い残し、部屋を出て行ってしまう。
「「……」」
私とクレイグの間に流れる沈黙。
クレイグをそっと見れば、顔をそらされる。
逸らしても分かるほど耳まで赤くなっているクレイグに、私は少し笑ってしまう。
(意識してくれてるのかな)
そう思いながら、私は逆にクレイグの貴重な正装姿がかっこいいな、と見惚れていると、クレイグは私をもう一度見て口元を手で押さえながらボソボソと何か言った。
「? ごめん、もう1回言って」
「〜〜〜だから!」
今度はクレイグが怒ったように(でも顔は赤いまま)ツカツカと私に歩み寄ってきて、目の前で止まると言った。
「予想以上に可愛くてなんて言えばいいか分からなくて、だから……」
「! ふふ、照れてるの?」
最初啖呵を切るように口を開いた、と思ったら、徐々に弱気発言になっていくクレイグに、私は嬉しくてそう問えば、更に顔を赤くして怒った表情をするクレイグ。 私は慌てて「怒らせたかったわけじゃないのよ」と言ってからクレイグに笑いかけながら服の裾をつまむ。
「クラリス様が私にと作って下さって、それを着たらクラリス様だけでなく、クレイグも褒めてくれて、とても夢みたいに嬉しくて。
……でも、そういうクレイグもとても素敵よ。
今日は、アルベルト様の護衛だけでなく、私の“恋人”として、エスコートしてくれる?」
私がそう言えば、クレイグは驚いたように目を見開いた後、ふっと笑って「やっぱりお前には敵わないな」と言いながら、一礼して言った。
「勿論。 俺でよければ、是非」
☆
そして、クラリス様がリーダーとして、装飾などを考えた舞踏会は、とても好評だった。
私自身も、クラリス様の様子を見ながらも、軽く美味しい食べ物に舌鼓を打ったり、クレイグと談笑したりととても楽しかった。
……ただ、今は頭が混乱しているけど。
「「……」」
本日二度目の沈黙。
クレイグと二人で、静かな廊下を歩く靴の音だけが、やけに響いて聞こえる。
(……うぅっ、どんな顔をしていれば良いのよ……)
クラリス様がお酒を飲んで倒れられ、アルベルト様が介抱するから良いと言われ、任せていたのだが、心配になってクレイグと見に行けば、何と二人一緒にベッドで横になっているという……。
「……心臓が止まるかと思った……」
「……俺も、思わず殴ってしまった……」
クレイグは、自分の右手を見た後、「俺の主人がすまない」と申し訳なさそうに言った。
「い、いやクレイグが謝ることじゃないよ! ……多分」
保健室に向かったのが私達で本当に良かったと思う。
……もし、他の方……それが王家の方々だったとしたら、と思うと、私達の首が飛ぶどころの騒ぎではない。
最悪二人の婚約破棄も有り得たのだ。
何せ暗がりの中、未婚の男女二人で同じベッドとは、御法度である。 何もなかったとは言え、もし見つかっていれば言い逃れは出来ないのは確かで。
「……アルベルト様には、もう少し気を付けて頂きましょう。 でないと、私達の寿命は縮む一方よ……」
「……あぁ、それは同感……でも、アルベルト様の気持ちは分からなくもないけど」
「!?」
それは、どういう意味!?
「……えっ、えぇ!?」
クレイグの最後の爆弾発言に、今度は私が顔を赤くする番で。
クレイグはそんな私を見て吹き出した後、何処か妖艶に笑うのだった。
☆
会場に戻ると、ニコラス王に報告した。
「クラリス様は目を覚まして、今は落ち着いていらっしゃるところです」
と。 ……勿論、クラリス様とアルベルト様が同じベッドで寝ていたことは伏せて。
背中を冷や汗が流れて止まらなかったけど、それはクレイグも一緒だと思う。
ニコラス王はニコニコとしながら、終いには「アルベルト王子が一緒だったら大丈夫だろう」で片付けたので、これにはクレイグの笑顔が一瞬……ほんの一瞬、引きつったのを私は見逃さなかった。
(バレてはいない……はず)
私とクレイグは礼をしてからテラスへ出ると、はぁ〜っと長く溜め息をついた。
「……本当に寿命が縮まった気がする」
「……私も」
クレイグの言葉に心から賛同して、私達は苦笑する。
「俺達の主人を見守るのって大変だな」
「ふふ、毎日楽しいけれど、確かに大変ね」
そう言って夜闇の中でキラキラと輝いている星々を仰ぎ見ながら思う。
私はクラリス様とアルベルト様が幸せになればそれでいい。
……クラリス様の願いが、私の一番の願いだから、と。
「……でも今日は、我儘になってもいいかな」
「え?」
“幸せになってね、ルナ”
舞踏会の前に、姫様に言われた言葉。
……今日は、そのお言葉に甘えてみようと思う。
私は驚くクレイグの瞳に映り込むと、にっこりと笑う。
「今日は仮面舞踏会。 ……だから、私も本物のお姫様みたいに踊りたいな」
「! ……あぁ、俺も」
クレイグはそう言って笑うと、私に恭しく手を差し出して言った。
「……私と踊って頂けますか? ルナ……いや、ルナ姫」
「! ……ふふっ、喜んで、クレイグ様」
私達は微笑み合うと、ゆっくりと、ホールに足を向けたのだった……―――
素敵なドレスに身を包んで、私の王子様のエスコートでダンスまで踊って。
その日はまるで、本の世界にいるような、とても素敵な一日だった。
……無論、色々な意味で寿命が縮む思いはしたけれど。
でも、その後のクラリス様のお顔がとても幸せそうだったから、やっぱり、今日は素敵な一日だったと、心からそう思えたのだった。




