32.切なる願いを魔法に秘め
側にいたアルと私は話をするために、場所を自分の部屋に移した。
「アル、少し屈んで」
「うん」
私はアルに少し屈んでもらうと、私はアルの唇に軽くキスを落とす。
「……こ、これでいい?」
リアムと二人で行くことに反対していたアルに言ったこと。
それは、帰ってきたら私からアルにキスをする、という条件だった。
(いや、それで条件を飲む私も私だし、アルもそれで許すってどうなのよ……)
と半ばやけになってキスすると、アルはアクアブルーの瞳を怪しく光らせた。
(……い、嫌な予感……)
「あ、アル、も、もう戻りましょ……んっ!?」
アルは私を話さないと言わんばかりに、きつく抱きしめながら、私の唇を奪う。
酸素が回らなくてくらくらして倒れそうになったときに、ようやく解放してくれた。
「……アル、嫌い」
「……ごめん。 我慢出来なかった」
「っ!? が、我慢出来なかったとか、ストレートに言わないで!!」
恥ずかしいことを平気で言ってのけるアルに、私は今度こそ恥ずかしさのあまり眩暈がする。
「……だって、寂しかったんだよ? ここ最近、クラリスはリアムの話ばっかりだし、すぐリアムに構うんだもの」
「あ、アルも忙しかったんじゃない。
……それに、寂しいのはアルだけじゃないって、分かっているでしょう?」
私がそう呟くように言えば、アルはふふふと笑って、私の頰にキスをする。
「そうだね」
「んもう! ……でもやっぱり私、今日改めて思ったわ。
私はこの魔法を持って、こうして王女として過ごして、将来はアルの国の王妃として、国の民を皆、幸せにできる国を作ろうって。
差別とかそういうのをなくして、皆が笑顔で平和に暮らせる、そんな国を作りたいって」
「うん、僕もそう思う」
私とアルは、顔を見合わせてふふっと笑う。
アルは窓の外に広がる星空を見上げながら、私の肩に手を置いて言った。
「僕達は、民を導く存在にならなきゃいけない。 ……そのために出来ることを、今から、一緒に考えていこう」
「えぇ!」
私はアルの言葉に力強く頷いて見せれば、アルは「頼もしいな」と笑いながら、今度は私を見つめて真剣な顔で言う。
「……でもね、クラリス。 君には、危険なことはさせたくない。
だからお願い。 無茶はしないで……って言っても、クラリスは無茶するよね」
「ふふっ、そうね」
私がいたずらっぽく笑えば、「困った子だ」と肩を竦めてアルは言う。
「だから、君が無茶をしそうになったときは、僕も無茶をすることにした」
「え!」
「ふふっ、クラリス面白い顔になってるよ?」
「ちょっと! それはどう言う意味!?」
私が怒れば、「嘘可愛い」とアルは微笑む。
そうすれば恥ずかしさで簡単に黙ってしまう私を見て、アルは私の頰に手を添える。
「……まあ、無茶はしないでほしいけど、するんだったら僕を呼んでってこと。
……そうすればほら、二人なら無敵だと思わない?」
「! 本当ね!」
私はぴょんっとアルの首に抱きつけば、アルはよろめくことなく、私を腕の中に閉じ込めた。
「……クラリス。 僕は、君の隣に立てることがとても嬉しいよ。 だからずっと、ずっと一緒にいようね」
「アル、今更よ。 ……私はこの手を一生、離すつもりなんてないんだから」
私がそうおどけて言って見せれば、アルは「そうだね」と幸せそうに、噛みしめるように言うと、そっと瞼を閉じる。
私も瞼を閉じて、アルのおでこに自分のおでこを合わせて、心の中で誓う。
(……愛しい人の隣で、私はシュワード国の次期王妃として、ランドル家の一員として、国のすべての人が笑顔になれることを、心から願います。
だからどうか、この先ずっと、アルの隣で、二人で幸せな国へ導いていけますように)
☆
それから、数日が過ぎ、ランドル学園は冬休みを迎えた。
何事もなく、平和な日常が訪れたと、誰もが思っていた冬休み最初の日、それは唐突に、何の前触れもなく起こった――
その日の夜、私は不吉な夢を見た。
何の夢だったのかはよく分からない。
だけど、心が痛くて、辛くて、暗くて……気がつけば、声を出して泣いていた。
手元の時計を見れば、まだ午前4時。
(……嫌な夢)
涙をそっとぬぐってから、心を落ち着かせようと水を飲む。
落ち着いたところでもう一度寝よう、そう思った矢先、耳が異常に冷たくなる。
「……!? アルの魔法!!」
どうやら、アルと夜遅くまで話していたからか、通信用のピアスをつけっぱなしで寝ていたらしい。
だけど、こんな時間に何故アルの魔法が……?
そんな私の疑問をよそに、アルの声が途切れ途切れに聞こえてきた。
『クラ、リス……っ〜〜〜』
『え、何!? アル、何かあったの!?』
アルの声からは、余裕を感じさせない、非常事態を促すような声が聞こえてきて、私は慌てて飛び起きてアルに応答する。
だけど、アルが何を言っているのか分からない。
ただ最後、アルの魔法が消える寸前に告げられた言葉だけが、耳に残った。
『クラリス、ごめん。 君を、守れ、なかった……だけど、僕は、君の、味方、だから……』
それだけは、忘れないで。
途切れ途切れに聞こえてきた言葉に、私は息がつまる。
そして、背筋が凍りつく。
……嫌な予感がする。
私は夜着のまま、部屋を飛び出した。
(……っ、アル! どうか、どうか無事でいて……!!)
そうピアスを握りしめて祈りながら、私は真っ暗な廊下をただひたすら、走り続けた。
……その暗闇が、私達のこれからの未来を暗示しているかのようで、とても怖かった。
第2章 『切なる願いを魔法に秘め』 END
これにて第2章、終了です!いかがだったでしょうか??
すみません、3章のフラグを立てたままですが、閑話を入れます。
ルナとクレイグの仮面舞踏会編、ミリアとローレンスの誕生日編を入れます。
その後、3章に入る前に、数日のお時間を頂けたらと思います。忙しさに日々忙殺されていまして…(泣)
誤字報告やブクマ登録、とても嬉しいです!!有難うございます♡
引き続きお読み頂けたら嬉しいです♪




