31.報告と願い
「本当に本っ当に行かなくて平気?」
「え、えぇ大丈夫よ。 すぐに帰ってくるから」
「ねえ、いつまでやれば気が済むの。 こんなことしてたら日が暮れちゃうでしょ」
アルと私のやりとりに、リアムは呆れたように言って溜め息を吐く。
昨日約束した通り、翌日、私とリアムは二人で風の魔法を使ってお墓参りに魔の森へ行くことになった。
すぐに戻ってくる予定なんだけど、二人で行くことに猛反対のアルが、私にさっきから同じ質問を繰り返している。
「ごめんね、アル。 これは私とリアムの問題でもあるから、今日は二人で行かせてほしい。
すぐに帰ってくるから、ね?」
それでもまだ不服そうなアルは、ふと何かを思いついたようで、私の耳元で囁いた。
「!?」
それは、私とリアムを二人で魔の森に行っても良い代わりに、アルに“あること”をする条件で。
私は驚いてアルを見れば、アルはにっこり笑って「行ってらっしゃい」と言う。
(……何その条件……! 色々突っ込みたいんだけど……!)
でもそれを飲まないと、行かせてくれなさそうだし……。
私は恥ずかしくなって黙って小さく頷くと、アルは嬉しそうに笑う。
そしてすっかりご機嫌になったアルに見送られ、ようやく私とリアムは魔の森に向けて出発した。
「ねえ、アルベルト様は何を言っていたの? あんなに」
「わぁ! 凄いわぁ!! 空中散歩なんて初めて!!」
リアムの言葉を遮って燥ぐ私に、「はぐらかされた」と呟いた後、リアムは指を指して言う。
「箒に乗れるともう少しスピードが出せたりするんだけど、慣れるのにきっと時間がかかると思って、ゆっくり進んでるんだ。
まあ、とはいっても走っている時よりも速くは進んでるから、後20分くらいで魔の森のお墓があった場所には着くんじゃないかな」
「えっ!? そんなに早く!?」
驚く私に、リアムは得意げに笑ってみせる。
「まあ、シリル様に比べたら遅いかもしれないけど」
「でも、シリルの魔法は、行ったことがあるところにしか行けないって、シリルがいつもぼやいているわ。 その点、リアムの魔法は何処へでも行けるっていうから素敵ね」
私の言葉に、リアムは顔を赤くてしそっぽを向く。
「やめて、あんまり褒められられてないから何かこそばゆい」
「ふふっ」
そんなやりとりをしていると、あっという間に魔の森のお墓があった場所に到着する。
ストンッと降り立った場所は、小さな丘のようになった場所で。
「ここが、皆のお墓なんだ」
「……そう、なのね」
私はギュッと拳を握った。
(……私が、燃やしてしまった場所……)
跡形もなくなってしまった。 私は言葉が見つからなくて俯いていると、リアムが私の腕を優しく掴んで引っ張る。
「そんなに暗い顔しないで。
今日はお墓参り、とは言ったけど、皆に報告に来ただけだから」
「報告……?」
「そう。 この髪も、この魔法も、全て元通りにしてくれたのが、ここにいるクラリスなんだよってこと」
「! ……そう、だったの?」
「うん」
リアムは私が持ってきたお花をそっと持って、地面に置いた。
「僕はいつも、こうしてここに来て報告してたんだ。 お墓参り、といっても、一方的にこっちの近況を教えるって感じでね。
だから、クラリスに初めて会った時のことも、その後のことも、全部報告してた」
「初めて会った時のことも……そうだったのね」
……私は、亡くなった黒髪の方達に、どう思われているのかな。
リアムを確かに、街で助けたことになるのかもしれないけど、その後は、彼らの大切な思い出の詰まった魔の森を燃やしてしまって、その記憶を全て捨てて生きてきた私を、彼らは、どう思っているのだろうか……。
「……僕の仲間達は、君を好きになっていると思うよ」
「え……?」
声に出してしまっていたのだろうか。
しゃがみこんで手を合わせていたリアムは、驚く私を見上げて、笑顔で言った。
「僕の仲間達は、皆明るいんだ。 例え髪が黒くて差別されても、罵られても、人を傷つけたり、呪ったりしようとはしなかった。
……結果的に、きっとそんな心では器に相応しくないと判断した悪魔達が、彼らを殺してしまったんだと僕は思っている。
……それくらい、彼らはお人好しだし、それに、クラリスだってお人好しだよ」
「……私が?」
私もリアムの隣にしゃがむと、目線を合わせる。
「そうだよ。 だって、考えてみなよ。
まず僕を助けた日は、無一文の僕の傷の手当てをして、服をくれて、家に上がらせてくれたでしょ、それで魔の森の件については、悪魔達にわざと魔法を使わせるように仕向けられて使っちゃったのにもかかわらず、僕にはずっと謝ってくるし、こっちが居たたまれなくなるくらい。
……それだけじゃなく、僕に酷いことをされても、僕を将来アルベルト様の従者にするだけで許すなんて、クラリスもアルベルト様もお人好しすぎ」
そんなんじゃ、将来シュワード王国が成り立たなくなっちゃうよ、なんて冗談めかして言うものだから、私は思わず笑ってしまう。
「私は、お人好し、とかそういうのはよく分からないけれど、皆に幸せになって欲しいの。 この国や大陸に住んでいる民全てが、笑顔で暮らせる国を作りたい。
……ここに生まれてきた意味をね、私はずっと考えて暮らしているの。 王女として、次期シュワード国の王妃になる者として、何が出来るか。
そのためなら何でもしたいわ。 私が出来ることなら、何でも」
「クラリス……」
リアムはふふっと笑うと、少しだけ、と私の手に自分の手を重ねた。
「! リアム?」
「ごめんね、今だけ。 ……君なら、出来るよ。 笑顔が溢れる国を作ることが。
僕はね、これからはその君の夢を、応援することにするよ。 アルベルト様の横に立つ君を、僕は応援する。 僕は、君と……アルベルト様の、味方で居続けるよ」
「リアム……」
私がリアムの、アメジストのような綺麗な瞳を見つめると、リアムはふいっと顔をそらしてスッと立ち上がった。
「はぁ〜そろそろ帰らないと、アルベルト様に叱られる」
行こう、クラリス。
そう手を差し伸べてくれる彼に、私は「ちょっと待って!」と言うと、慌てて自分の手を胸の前で合わせた。
(……これからは私が、リアムを、この国を守っていきます。 だからどうか、私達のことを見守っていて下さい)
「……よし! リアム、終わったから帰りましょう」
「クラリスは何を報告したの?」
私はリアムに差し伸べられた手を取りながら、ふふっと笑って答えた。
「秘密」
☆
「じゃあ、皆集まったところで! これから、悪魔祓いお疲れ様会とリアムが風の使い手になったことを祝して! かんぱーい!!」
「「「かんぱーい」」」
ローレンスの声に、私達はジュースの入ったグラスを各々掲げる。
その声に、リアムは少し顔を赤くしながら言う。
「え、何、僕の魔法の復活も兼ねてくれてるの……?」
「そうよ! 前々から企画してたの。 皆で集まって、やろうって」
リアムの言葉に、私は笑顔で頷いてみせる。
そう、ローレンスの言葉通り、これは無事に悪魔祓いを成功させ、リアムが悪魔から解放されて本来の自分の魔法を取り戻せたことに対してのお祝い。
そのために、今日は私とアル、リアム、ローレンスにミリアさん、クレイグやルナ、シリルやエドガー様まで集まって、城内で小さくパーティを開いている。
「姫様はやっぱり、素晴らしいお方です! 私の自慢のお嬢様です!!」
「ふふ、褒めても何も出ないわよ、ルナ。 ……でも有難う。 貴女にも、沢山迷惑をかけてしまったわね」
「いえ! そんな!! 姫様のお役に立てることが、私の生きがいなんですから!!」
「あら、それは嬉しいけれど、それだけじゃ駄目よ。 ほら、隣に貴女の恋人がいるんだから、それも生きがいでしょう?」
「え、ええ、えぇっ!?」
分かりやすく顔を真っ赤にさせるルナと、巻き添えを食らった彼女の恋人……クレイグも、つられて顔を赤くさせる。
「ふふっ。 ……あ、そういえば、まだ二人の仮面舞踏会の時の話を聞けていないわ。 ね、どうだったの?」
「っ! そ、それは、その……ひ、秘密です!!」
「えー……」
クレイグの明らかな動揺に、私は教えてくれないのを残念に思いつつ、幸せそうな二人の表情を見て笑みをこぼすと、クレイグは顔を赤くしたまま「そ、それより!」と慌てて口を開く。
「アルベルト様が、後でお話したいことがあると言っておりました」
「……アル……」
……十中八九、さっきの言葉を実行しなければいけないのね。
「……分かったわ。 有難う。 アルと少し、お話ししてくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
ルナの言葉に頷くと、私はリアムに「楽しんでね」と告げてから、アルの元に歩き出したのだった。
次回、最終話です!




