26.生きる意味 *リアム視点
彼女に会ったあの日から、僕は生きる力を取り戻した。
それは何故か。
彼女にもう一度会って、お礼を言いたかったから。
あの子のお陰で、生きることの意味を取り戻したから。
僕はそれから、魔の森に戻り、一人で生きていくことを決めた。 また彼女に会える日を夢見て。
そして、名前も知らない彼女を探す日々が始まった。
それから1ヶ月後、彼女が何者なのか、手掛かりもなく探しているうちに、ふと考えた。
あの小屋へ行けば、まだ何か手掛かりがあるかもしれない。 そう思い、僕はもう一度行くことを決意する。
……もうないかも知れないが、何かしら彼女がどんな家の子かが分かるものがあるかもしれない。
そう思って、夜の闇に紛れればこの髪も目立たないかも、と、夜に街に着くように出発した。
小屋に着けば、まだ彼女が取り壊されるかも、と悲しそうに言っていた小屋は残っていて。
(よかった! まだちゃんと残ってた!!)
僕は嬉しくなる。
この時間帯なら、誰もいない。
強盗のようでちょっと抵抗があったものの、彼女が何者なのかの証拠が見つかれば、すぐ出ようと、鍵が開いていることを願いながら小屋の扉を軽く押すと、ガチャリと開く。
僕はドキッとしながら恐る恐る開ければ、1ヶ月前に招かれた部屋とは違って、置かれていた棚やベッドなどの類は、全て無くなっていた。
僕は何気なく壁にそっと触れた時、ふとここに置き手紙とブレスレットを置いて行ったことを思い出した。
(そういえばあれは、何処に行ったんだろう……)
……もう、あの子が捨てちゃったかな。
僕はいや、彼女が持っていることを願おう、と頷いて、小さな窓から見える白い月を暫く眺めていた。
☆
気が付けば、朝だった。
(……えっ、何僕、あれから寝ちゃったの……!?)
いくら落ち着いてしまったとはいえ、これはまずい。
僕は部屋から出ようとしてハッとする。
(……駄目だ、もうこの時間帯だと僕のこの髪の色が、目立ってしまう……)
僕は諦めて、もう一度夜が更けるまで待とう、そう心に決めてその部屋にとどまることにした。
誰も来ないことを、祈りながら。
☆
そして夜が更け、僕は部屋を走って飛び出した。
夜の闇に紛れてるとはいえ、誰かに見つかったら殺されて、あの子に会えなくなってしまう。
殺されることより、何よりその方が怖い、とまで考えてしまうようになった。
そうして走っている間に、ふと森に近付くにつれて、だんだん様子がおかしいことに気がつく。
(どうして、こんなに明るいの……?)
今日はお祭りではないはず。
なのに何か、燃えたような焦げ臭い匂いがする……。
胸騒ぎがした。
僕の予感が合わないでほしい、そう願いながら森に向けて足を早める。
……だけど、予感は当たっていた。
「……森が……燃えている……!?」
僕の眼前に飛び込んできたのは。
ゴォゴォと炎に包まれ、どんどん木が燃えていく、魔の森の姿だった。―――
一晩で魔の森は消し止められたものの、火の海と化した大半の木々は、燃えて無くなっていた。
だが、おかしいことに、城下の人達が見にくる様子もなく、立派な服を着た人達が一斉に元は木があった森に入っていく。
僕は何が起きているのか分からず、とりあえず人から見えないような場所を見つけて隠れていた。
でも心の中では叫んでいた。
僕達の森の中に入るな、思い出を返せ、と。
間違いなく、僕たちが住んでいた家も物も、お墓も全て、燃えて無くなっている。
僕はギュッと拳を握りながら、様子を伺っていると、次にやってきたのは翡翠色の髪と目を持つ者達……おおよそ、100人くらいだろうか。
何をするのかと見つめていれば、その人達の手から緑色の何かが発せられる。
僕は魔法だ、と初めて目のあたりにした魔法に驚いてその様子を食い入るように見つめているうちに、その人達の魔法が結集した、その時。
「!?」
僕は自分の目を疑った。
それは、その人達の魔法によってなのか、小さな芽が一斉に生え、やがてその芽が大きくなっていくのを目の当たりにしたからだ。
そして木々が成長しきったのを見て、魔法を司る者は一斉に手を下げた。
それを見てまた驚く。 そこには、今までと同じ、“魔の森”の光景が広がっていたから。
僕はただ驚いて、立ち尽くす。
(……魔の森が、復活した……?)
……いや、嘘だ。
僕達の思い出の詰まったものは全て、消えていることに間違いはない。
(……魔法で木を生やして、“元通り”にしたんだ……)
そう僕は頭の中で理解しながら様子を伺っていると、王国の者達は暫く森の中を点検した後、一斉に皆王国へ帰っていく。
僕はそれを確認した後、森の中をひたすら走った。
そして、自分の家があった場所に着いたところで、僕は絶望する。
(……やっぱり、僕の家が、皆の家が、墓が、ない……!!)
……許せない。
まるで魔の森は、外見だけは今までと同じ、燃えてなかったことのようにされている。
だけど確実に、昨夜魔の森は燃えていた。
証拠に、僕の大切なものは全て、跡形もなく消えている。
(……許せない、許せない、許せない……!!)
ギリッと歯ぎしりをする。
どんな理由であれ、魔の森を燃やし、僕の大切なものを全て、全て平然と奪っていったやつらを、許して良いわけがない……!!
すると、体の奥で何かが呼びさまされるような……感覚がしたと思ったら、頭の中で声が響く。
『お前の願いを、何でも叶えてやろう』
……そう、これが、僕と悪魔の契約の始まり。
僕の体を貸すことを条件に悪魔と契約したことで、全てを知った。
この森を燃やした犯人も、それがどうしてかも。
そしてその犯人は、僕を助けてくれた彼女……“クラリス・ランドル”という、ランドル王国の第二王女だということが判明した。
僕は嘘だと信じたかった。 だけどそれは、まぎれもない真実。
僕の心の中で、彼女は“助けてくれた恩人”から、“全てを奪った犯人”に変わり、そして僕の志も変わった。
(……彼女の大事なものを、一つずつ、奪っていってやる。
今の僕と同じ目に遭わせて、後悔させてやる……)
僕の大切なものを奪った王国ごと全て、破壊してしまえばいい。
そうして着々と準備を進めていき、数年後、クラリスが学園にいることを知った。
それを知った僕はチャンスだと思った。
今なら、黒魔法で学園に入れる。 黒魔法を使って、容姿を変えて、特質魔法を特化しさえすれば、簡単に入学できる。
僕は早速、髪を白くし、そして特質魔法を風にした。
……そう、亡くなった母さんと同じように。
(……もしこの姿で生まれていれば、母さんも僕も、傷つくことはなかったのかな……)
姿見を見てそんなことを考えてしまう僕は首を振ると、唇を噛み締めた。
(いや、もうそんなことは考えない。 僕は今まで、復讐のためだけにここまで生きてきたんだ。
……もうすぐ手が届く。 あのお姫様と王子様、王国に、知らしめてやるんだ。
全てを奪われたら、どんな気持ちになるのか……!)
☆
こして僕は、御令嬢に取り憑いて王立学園の下見をしてから、運良く王立学園に入学どころか1年飛ばして飛び入学をし、お姫様……クラリス・ランドルに嫌がらせ以外の面で初めて、僕の姿で出会うことになる。
でも彼女は何も覚えていなかった。
僕を見れば、何か思い出してくれるんじゃないか。
そんな甘い期待までしていた僕は、結局何がしたかったんだろう。
家に帰ると、ツインテールを解き、パチンと指を鳴らせば、僕の髪はどこまでも黒色に染まっていく。
「……僕は未だに、あの子の面影を追いかけていると言うのか」
……馬鹿なのか、僕は。
薄く自嘲気味に笑った僕は、拳を握って鏡に向かって振り下ろした。
亀裂が入った鏡を一瞥し、絶対復讐を、そう決めて心からあの時の淡い思い出を、心を、全て排除したはずだったのに……。
リアム視点はここまでです!
次はクラリス視点に戻ります(慌ただしくてすみません)




