24.裁判
突然現れた私とシリルに、どよめきが広がる。
長い机の一番奥に座っていたのは、ニコラスお兄様。
そして、その隣にはお父様とアルのお父様……シュワード国の現国王様と、ローレンスのお父様であるディズリー王国の現国王様が座っている。
その壮観さすら感じさせられる光景を見、ふと下に目を向ければ、床にへたり込んだまま驚いた顔で私を見上げていたのは、リアムだった。
その腕には、魔法封じの手錠がつけられている。
そして、最初に私を見て声を上げたのはお父様だった。
「……何だ、クラリス。 ここは、お前が来る場ではないぞ」
「あら、それはどうでしょう」
私の言葉に、周りにいたお偉い方々の痛い視線が私に突き刺さる。
私はそれを諸共せずにふふっと、笑う。
(生意気なのは、百も承知よ。
……それでも、私には譲れないものがあるの。 だから今回は、“悪役令嬢”の力を借りて、その願いを貫くのよ……!)
挑戦的な私の目にお父様はニヤッと笑うと、「どういう意味だ?」と威圧感たっぷりに言った。
(……ふふ、お父様、私を試しているのね)
じゃあ、それに乗らせてもらうわ。
私は履いていたローファーをわざと足音を立てながら、リアムに歩み寄る。
そして、驚いているリアムを一瞥してから、言った。
「この黒髪は、私は“悪魔憑き”と習いました。 ……確かに調べたところ、黒髪を持つ者は皆、悪魔憑きで間違いはありませんでした。
……ただ、皆様はこの“悪魔憑き”がどう生まれるかをご存知ですか?」
その私の言葉に息を呑む者と、無礼だと抗議をするものの真っ二つに分かれる。
それを制したのはお父様で。 お父様は、ゆっくりと口を開く。
「……何が言いたい」
「彼らは、本物の“悪魔憑き”でも、自ら悪魔に身を差し出した者達ではなく、母親の体の中で悪魔に魂から取り憑かれているとしたら……彼らに罪はないと、そう思いませんか」
私の言葉に、「お言葉ですが」と一人が口を開く。
「その者の罪は、貴女やアルベルト様に危害を加えたという重大な罪……それを、無罪にしようと貴女はしているのですか?」
リアムは私を見上げて目を見開く。
私は「そんなわけがないでしょう」と言うと、言葉を続ける。
「この者の犯した罪は、確かに重い。
……だけどそれは、彼がただ私利私欲のためだけにやったことだとは、私は思えません。
彼は、私の口からは言えないほどの辛い過去を持っている。 ……その過去を知った私が、もし彼の立場だったら、と考えた時、同じ行動を取るだろう、そう考えたのです。
だから、この裁判の結果は、私とアルベルト様で決めさせて頂きたいのです」
お願いします、そう頭を下げれば、驚く室内。
そのざわついた空気を一瞬で止めたのは、お父様ではなくリアムで。
「ちょっと待ってよ」
私はその言葉でリアムに視線を向ける。
するとリアムは摑みかかるような勢いで、こちらを睨んで言った。
「僕に情でも湧いたの? はっ、何処までも良い子ちゃんごっこはうんざりだ」
そう吐き捨てるようにリアムが言ったから、私はにっこりと笑って、その顔を……掌で叩いた。
「!?」
驚き静まり返る室内とリアム。
ほおを抑えることができず、ただ呆然と赤くなったほおで私を見つめるリアムに、私は「甘く見ないで」と言う。
「私はクラリス・ランドル。 この国の第二王女よ。
貴方をそう簡単に、無罪にして手放すつもりなんかさらさらないわよ。
優しく手を差し伸べたりもしないわ」
「っ、じゃあなんで! 僕を見捨てないんだ!!」
私はその言葉に、首を傾げて言う。
「そうね……強いて言うなら、夢見が悪くなるのを避けるため……あら、ごめんなさいね。 傷付いたかしら?」
そう笑って言えば、リアムはキッと睨んでくる。
私はふっと息を吐くと、リアムに向かって言った。
「……冗談よ。 ただ純粋に、貴方を放って置けなかっただけ。
……まあ、私にも矜持があるから、手助けをするつもりはない。 貴方に選択肢をただ、与えるだけ」
「選択肢……?」
今度は首を傾げたリアムに向かって2つ、と指で示しながら言った。
「2つ、選択肢があるわ。
1つは、私は貴方の言った通り貴方を見捨てて、貴方が完全に悪魔と一体化したところで、貴方の体ごと葬り去る。
もう1つは悪魔と一体化する前に、貴方から悪魔を引き剥がす。
……さあ、どっちを選ぶ?」
「!? どういう、こと……?
悪魔と、一体化? 僕は、悪魔から力は貸してもらっているけど、それはただ貸してもらっているだけで」
リアムは呆然と呟く。
私は今度は長く息を吐くと、「貴方も面倒な悪魔と契約してくれたわよね」と呟いた。
「貴方が崇めている“悪魔”っていうのは、ただ貴方を騙してその体を乗っ取ろうとする、ただの“詐欺師”よ。
……貴方の瞳、今片目が深紅色なの、知ってる?」
「……うん」
恐る恐る頷いたのを見て私は言う。
「“その瞳が、2つとも深紅色に染まる時、悪魔と一体化する”……そう本に書かれていたの。 貴方は、後もう少しで、悪魔と一体化してしまう。
だけど、今なら選ぶことができるわ」
私がリアムにそう言うと、リアムは唇をかみしめて俯いた。
その姿を見て、これでも維持を張るのか、と呆れながらも、私は最後に伝えようと思っていた話を話し始める。
「……8年前、ある少年が、暗い路地裏で蹲って泣いていた」
「……っ!?」
私がそう切り出すと、リアムが今までで一番、目を大きくして私を食い入るように見つめる。
「その少年を見て、心配になった少女は、“大丈夫?”と声を掛けた。
すると、その少年はゆっくりと顔を上げた。
……その髪の色は、“黒色”で瞳は“紫色”。
……そう、私が8年前……あの事件が起きる前、路地裏で出会ったのは、貴方だったのね。
……リアム」
ずっと思い出せなかった、過去の真実。
今日、ようやく思い出せた。
私は腕につけていたダイヤのブレスレットを見せて笑ってみせる。
すると、リアムは大きく目を見開いたかと思うと、深紅と紫色の瞳にうっすらと涙を浮かべ、私を見上げる。
私はリアムの前にしゃがむと、彼の瞳に溜まった涙をそっとハンカチで拭ってあげながら言う。
「……貴方は、私との“約束”を守って、会いに来てくれたのね。
約束したこととは形は違うし、記憶も無かったから、気付くのが遅くなってしまったけれど……ごめんなさいね」
「っ……」
拭いた色違いの瞳から、また涙が今度は幾筋も流れ、リアムの頰を伝っていくのだった。
次回リアム視点入ります。
(過去をリアム目線で語りたいため)




