23.仲間
少し短めです。
……誰かが、泣いている。
……いや、私はこの子のことを知っている。
パァッと暗かった視界が明るくなる。
そして、蹲る男の子の髪の色がはっきりと現れる。
(……黒髪)
私はその子に向かってしっかりとした足取りで駆け寄ると、声を掛ける。
「大丈夫?」
ビクッと肩を震わせて、恐る恐る顔を上げた少年の瞳の色と、その顔は……
(……あぁ、やっぱり貴方だったの)――――
目を開ければ、自分の部屋の天井だった。
手には、包帯が巻かれている。
周りを見れば、誰もいなかった。
あれ、と思いつつ、私は机の引き出しを開け、ダイヤのブレスレットを手首に嵌めてから、誰か呼ぼうと部屋の扉を開けたその時、丁度扉が開く。
そこにいたのは、目を見開いているルナの姿で。
「あっ……ルナ」
そういえば、この子とは1週間以上は会っていなかった気がする。
ルナは目に涙を浮かべると、うわーん!と私にしがみつくように抱きつきながら、大声で泣き出した。
驚きながらも、ルナの震える肩を見て、私も目頭が熱くなる。
あぁ、無事に帰ってこれたんだと。
そして、ルナにはとても心配させてしまったんだと。
「……ただいま、ルナ」
「お、おがえり、なさい、ませぇぇぇ」
大泣きのルナを私は落ち着かせようと、ポンポンと背中を軽く叩いていると、部屋の外で咳払いと共に「泣くのは後にして頂けますか」とシリルの声がする。
「あら、シリル。 ごめんなさい。
今起きたばかりで、まだ外に出られないの。
……もしかしてずっと、待っていてくれたの?」
私の問いかけに、シリルは「まあ、そうですね」と言うと、時計をチェックしたのか、少し黙ってから私に言った。
「後20分で着替えて頂けますか。
貴女には見て頂きたいものがあるんです。
その後……1時間後に、リアム様の裁判があります」
「!? リアムの裁判!?」
私は驚いて目を見開く。
「っ、駄目よ! あの子は、無実だわ!!
私が、その裁判を止めないと……!」
「お待ちを。 裁判はランドル国、シュワード国、ディズリー国の三カ国が集合することになっています。
……貴女だけの力では、止められませんよ」
「っ……私には、何もできないって言うの」
シリルが悪いんじゃない。 シリルは正しいことを言っているだけ。
分かってる。 ……だけど、リアムを裁判にかけたくない。だって私は……。
ギュッと手を握り締めた私に、シリルは「いや」と私の言葉を否定した。
「不可能ではないと思いますよ。
……そのために、動いている方々がいるのですから。
貴女がそれを知った上で、どう動くか、それが問題ですが」
私はシリルの言葉に驚いた後、ルナをそっと離して言う。
「……分かったわ。 後10分くらいで支度を整える。
そうしたら、私を連れて行って」
「分かりました」
一言シリルはそう言うと、扉を閉めた。
それを確認した後、ルナの顔を見、側にあったハンカチを手にしてルナに差し出しながら、微笑んだ。
「……ルナ、もう少しだけ私の手伝いをしてくれるかしら?」
ルナは差し出したハンカチを手に取り、涙を素早く拭いた後、「勿論です!」と笑顔を浮かべて言った。
☆
支度を整え終わり、シリルの魔法を使って連れて来られた場所はお兄様の部屋だった。
だけど、そこにはお兄様の姿はない。
……ただ、部屋の机に一冊の本が置かれていることに気がつく。
見たことのない表紙に私は駆け寄ると、分厚く古めかしい本だった。
そこには、“禁書”の文字が。
……でもこんなに分厚かったら、1時間が切っている今ではとてもじゃないけど読みきれない。
そう思った私は、“魔法”が書かれた部分だけ探し出そうとパラパラとめくっているうちに、何かが挟まっていることに気がつく。
そこには走り書きで文字が書かれており、又そのページには丁度、魔法のことについて書かれていた。
その文字を見て、私は涙が溢れそうになる。
「……っ“家族はいつも、君の味方だからね”……お兄様……」
私は目元に溜まった涙を拭いて、そのページをしっかりと、脳裏に焼き付けるように字を追っていったのだった。
☆
魔法のページだけでも文字量が多く、思った以上に読み終えるのに時間がかかってしまった。
ハッとして時計を見れば、とっくにリアムの裁判が始まっている時間帯で。
私は慌てて部屋を飛び出すと、シリルが壁に寄りかかって待っていた。
「……っ、シリル、待たせてごめんなさい」
「……何か、収穫はあったのですか」
シリルの言葉に私はふふっと笑う。
「えぇ、とっても。 お陰様で、私のこの魔力の意味が十分に分かったわ。
シリル、有難う。 ……貴方には最近甘えてばかりね」
私の言葉に、シリルは軽く瞠目した後、そっぽを向く。
「……いえ、私の主とアルベルト様に比べたらこれくらい、平気です。
クラリス様はお優しいですから」
「あ、シリル、今貴方微笑んだわよね!?」
私はいつもクールなシリルから垣間見えた微笑んだ顔を見て、そう声を上げると、シリルは慌てたように「はい!?」と素っ頓狂な声を上げたかと思ったら、クルッと背を向けて言った。
「む、無駄口を叩いていないで、行きますよ!」
とシリルが言ったと同時に、私とシリルの足元を青白い光が包む。
「あら、残念。 もう少し、貴方の希少な微笑みを拝みたかったわ」
そう言った私の一言に驚いて、シリルが振り向いた、と同時に、私達の体は裁判室へと飛んでいたのだった。




