21.悪魔憑きとの戦い *アルベルト視点
いよいよ、悪魔憑きであるリアムと対峙します。
(アルベルト視点)
リアムのことについて全て聴き終えた途端、僕達は戸惑った。
そんな僕を見て、「君達は本当に良い子だよね」とエドガー王子は呟く。
「これを聞いて、君達が迷うのも無理はないよ。
ここまで聞いた上で、リアムを倒さなければならないのだから。 ……だけど、クラリスとミリア嬢は誘拐されたんだ。
それも事実。 ……助けに行かないと、あの子達は今頃」
「シリル、魔の森まで移動出来るか」
エドガー王子のその先を聞いて想像したくなくて、僕は言葉を遮るようにシリルにそう聞いた。
するとシリルは、「魔の森の前までなら」と頷く。
「十分だ。 ……ここから先は、僕とローレンスで行く」
僕の言葉に、今度は執事達が目を見開く。
「っ、そんな! 無茶です!!
お二人でだけなんてっ……!」
「……クレイグ。 僕がそう簡単にやられると思っているのか? 僕の魔力を知っていても?」
「っそれは……だけど」
クレイグが何か言おうとしたけど、僕はふっと笑って言う。
「そんなに心配なら、あの堅物校長と父さんを説得して応援を呼べばいい」
「うわ、相当不機嫌」
「校長を堅物扱いするなんて、アルにしかできない」
なんて言う言葉が、エドガー王子とローレンスの口から飛び出たけど気にしない。
僕の言葉に、クレイグは廊下を出て行った。
(……クレイグ、ごめん。 後は、頼む)
僕は息を吐くと、「シリル、頼んだ」と言うと、シリルはパチンッと指を鳴らす。
足元が青白く光っていくのを確認してからふと視線を感じて見れば、ルナは涙ぐんでいた。
そんなルナに僕は笑ってみせる。
「大丈夫だ。 クラリスは、必ず僕が助けてみせる。
……だからルナは、ここで、クレイグのサポートを頼む」
「っ、はい! お任せを!
……お二人が無事でお帰りになることを、祈っております」
ルナの言葉に僕はしっかりと頷くと、パッと視界が白く染まり……昔の記憶と同じ、深い森が何処までも続いている“魔の森”の前に降り立った。
「ここからは森が深くなる。 歩いて行こう」
「でも、闇雲に探しても俺達の体力が減るだけじゃないか?」
僕が言った言葉にローレンスがそう返したから、僕は笑って言ってみせる。
「大丈夫だ。 僕はクラリスが何処にいても、魔力を辿れば分かるからね」
そう言って、森に向かって迷うことなく歩き始める。
後ろで、うわっとドン引きしたような声を出したローレンスのことは、後でシメよう、そう心に決めて。
☆
森を暫く突き進んだところで、人影があることに気付いて立ち止まった。
ここに人なんているわけがない。
……あいつと、連れ攫われた二人以外は。
「……やぁ、遅かったね」
僕の言葉に木に寄りかかっていた人物は、こちらに向かって歩いてくる。
ギリッと歯軋りをして、僕はその名前を呟く。
「……リアム」
髪の毛は黒色に染まり、元の紫色の瞳は……片目だけが深紅色。
その姿に、後ろにいたローレンスとシリルが息を呑んだのが分かった。
「アルベルト王子、随分と遅かったね。
偉そうな王様達に阻まれてこれなかった、とかそんなところ?」
「あぁ、そうだな。 堅物達に阻止されたのは本当だ。 ……だが、そんなことよりクラリスを返せ。 お前に渡す義理はない」
後ろでちょっとアル、とローレンスの言葉が聞こえた気がしたけど無視する。
リアムはあははっと高笑いしたかと思えば狂ったような目で僕を見て言った。
「物語の英雄は、こうでなくちゃね。
お姫様を助けに来る王子様。 ……ふふ、君は何処まで僕を楽しませてくれるんだろう。
……ねぇ、クラリス?」
「なっ……!?」
リアムの後ろから現れた、真っ白いドレスを着た女の子。
……それは間違いなく、クラリスで。
……ただ、様子がおかしい。
目が虚ろだ。
「っ、お前っ!! クラリスに何をした!!」
「あぁ、ちょっと、僕の操り人形になってもらっただけだよ。
ね、クラリス?」
そう言って、クラリスの腰に手を回す。
僕はその手を狙って、水の魔法を氷に変えてその腕に目掛けて攻撃すると、リアムはその氷を全て跡形もなく消した。
「……チッ」
「はは、本当に面白いね。 そんなにこの子を取られて怒ってるの?
……まあ、そんなこと知ったことじゃないけど。
だって僕は、それら全てを、お前に、クラリスに、王国中に奪われてきたんだからな……!!」
カッと、片目だけの深紅の瞳が怪しく揺れた、と思ったら、クラリスが瞬間、地面を蹴って僕の前に立ちはだかった。
「っ、クラリス……!?」
クラリスは、手に持っていた剣を、僕目掛けて振り下ろしてきた。
それをすんでのところで、僕は剣を出して受け止める。
クラリスの剣は、とても重かった。
クラリス自身にこんなに力があるわけがない、本当に操られているんだと悟る。
その証拠に、瞳は全く僕を映していなかった。
怪しく光る瞳は、何も映していない。
僕達は一進一退の攻防を続ける。
「ローレンスっ、シリル!! お前達は後ろに下がってろ!!」
僕の言葉に頷くと、二人は下がる。
多分、今ローレンスに時の魔法を使ったところで、リアムにもクラリスにも効かないだろう。
それに、時で解決する問題じゃない。
……これは、クラリス自身と、僕と、リアムの問題だから。
「っ、クラリス、聞いて。
君と僕には、やるべきことがまだたくさんある……!」
僕はクラリスの剣を薙ぎ払うと、すぐに態勢を立て直したクラリスの剣を受け止めながら言葉を続ける。
「……リアムを、助けられるかもしれない」
その言葉に、僅かにクラリスの手が怯んだ。
それを見て僕は剣を引くと、今度はクラリスを抱き寄せて……
「!?」
驚いて身を捩ろうとしたクラリスに、僕は力でギュッと抑え込む。
クラリスの肩が震えたと思ったら、手から剣が離れ、地面に落ちたのを確認して、綺麗な金色の髪を撫でる。
「……クラリス、遅くなってごめん。
怖い思いをしたね」
そう言えば、再度ビクッと肩を震わせるクラリス。
そして、クラリスの手が僕の背に回った、その時。
リアムを視界の隅で捉える。
光る一筋のものが、こちらに向かってきているのが見えて、抱いていたクラリスを床に伏せる。
それと同時に、肩に鋭い痛みが走った。
「……うっ」
僕は肩を抑えて膝をつくと、見ればリアムが蔑んだような目で見ていて口を開いた。
「あーあ、つまんない。 どうして君達はすぐ、そうやって仲間ごっこ……いや、仲良しごっこを始めるわけ。
僕から全て奪っておいて、随分と甘い考えだね」
リアムの言葉に僕は唇を噛み締めた。
……油断していた。
クラリスに怪我を負わせないように必死で、リアムのことを監視していなかった。
あいつは、黒魔法を使えるのに。
肩に力が入らない。 ……魔力封じを仕込まれたか。
このままでは、魔力コントロールが上手く効かないかもしれない。
……やられた、そう思ってどうにかしようと考えていた、その時。
ゆらっと、僕の前に人影が立ち上がる。
「……クラリス?」
それは、白いワンピースを着たクラリスで。
クラリスは、僕を悲しそうに見て、今度はリアムを見ると、赤い綺麗な瞳に怒りの色が走った。
その瞳を見てハッとする。
「クラリス、駄目だ!! あの魔法が……っく!!」
僕が止めようと、魔法を発動させようとしたが痛みと魔力封じで使えない。
そんな僕を見て、「ごめんね」と、そうクラリスが謝ったかと思えば、クラリスの周りが、柱状の炎となって燃え上がる。
……その光景を見て、僕は脳裏にあの時のことが蘇る。
(……っ、駄目だ、クラリス! その魔法を使っても、また同じことを繰り返すだけだっ!!)
そんな僕の想いは届かず、火の勢いは、クラリス自身の身を焼く勢いで周りを、音を立てて燃えていく。
「クラリスーーーーー!!!!!」
僕の叫びも虚しく、魔の森は瞬く間に、焦げ臭い匂いと火の海で燃え広がっていくのだった……。




