20.過去と真実
アルベルト視点が途中からあります。
熱い……体が熱い……!!
燃えるような、体の感覚。
熱さと熱風で思うように息ができず、荒い呼吸を繰り返す。
意識が遠のきながらも、私の体からは魔法が放出し続け、止まる気配はない。
もう駄目だ、そう思った時、急に前方が開け、幼いアルが私に向かって手を伸ばしているのが見える。
「クラリス……!!」
「アルッ!!」
私は叫んでその手を伸ばすと、アルは自分の服の裾が焦げるのも気にもとめず、涙を浮かべる私の肩を抱きしめて言った。
「もう、大丈夫だから。
後は、僕に任せて」
そう薄れた意識の中で言われ、体の中に巡ったひんやりとした魔法。
アルの魔力だ、と朦朧とした意識の中で思ったのと同時に、唇に冷たい感触と直接体内を巡る冷たい感覚。
頭の芯まで熱かった熱を冷ますように、急激に冷えていく中で、それがアルの唇だ、と感じたと同時に、私を囲っていた火柱が消え……私は意識を手放した。
☆
「……っ、わ、私、私……」
(……アルが、ファーストキスのことを言えなかったのは、このことを隠していたから、なんだわ……)
あの時は、アルが助けてくれたから何とかなった。
……だけど、私の目の前に広がっているリアム君が戻した過去の景色には、目を疑うような光景が浮かんでいた。
「……魔の森が、燃えてる……」
そう、私の魔法は消えたものの、森の木に引火した火が、魔の森全体を侵食するように燃えていく。
「ようやく思い出した!? 僕の大切な場所を、君が根こそぎ奪っていったんだ。
……大切な思い出も何もかも、灰になったのさ。
家も、亡くなった友達や母親の墓も全部……っ!!!」
リアム君の瞳には、涙と苛立ちが募っていた。
私の目からも、涙が溢れて止まらない。
(……この魔力のせいで、リアム君の大切なものを、魔の森ごと、全部……)
リアム君はそんな私に、「君が泣いたって罪滅ぼしなんかにならないんだから」と言うと、足のかかとで空中を軽く蹴った。
すると、燃えていた魔の森の光景は霞のように消え、元の小屋の中に戻っていた。
ミリアさんは黙って俯いている。
「これが、君達が必死で隠していた過去だよ。
君のその変な無駄に強い魔力も、魔の森に起きたことも全て、無かったことのようにされた」
「……どうやって……」
「無かったことにしたのかって?
簡単だよ。 魔の森を、癒しの力とかいう魔法を持つそこにいるミリアの母親の一族が、燃え切った森に木を植えて、種を蒔いて魔法を使って元どおりにしたのさ。
……一瞬だったよ。 だけど」
リアム君はそこで切って、唇を噛みしめる。
「……どんなに元どおりにしたって、一度消えたものは元どおりになんてならない。
たとえ森が戻ったとしても、僕の家も、墓も、形見も、全て消えたままだ」
私とミリアさんは息を飲んだ。
リアム君が怒るのも当然のことだから。
息を飲んだ私とミリアさんを見て鼻で笑うと、「残酷なことをしてくれるよね」と冷え切った目で言った。 そして、拳を握りしめて言葉を続ける。
「……僕は一体、何を頼りにして生きれば良いのか、いっそ同じ病気にかかって死んでしまおうか、などと考えていたある日、僕の目の前に悪魔が現れた」
リアム君の目が恍惚な色を帯びる。
「悪魔は僕にとって救世主だった。
“君の望みを叶えてあげよう”。 ……それは、魔法の言葉だった。
ただ体を貸すだけで、魔法を使わせてくれる。 母親と同じ魔法……風の魔法を使うことができる。
こんなに嬉しいことはなかった。
それに、これで“復讐”をすることができるなんて、僕にとっては夢のようだった」
ただ、とリアム君は私の目を見てぞくりとする笑みを浮かべる。
「ただそれだけじゃつまらない。
どうせなら、王族の大切にしている、記憶を封じてまでも守られている“お姫様”と一緒に、王国を滅ぼしたらどうなるんだろう、そう考えただけで心が踊ったんだ」
「っ……!?」
私は凍りつく。
「……ふふ、その君の顔もとてもそそられる。
そうだね、滅ぼすのが嫌だったら……僕の花嫁ってことで、どう?」
そう言って私の前でしゃがみこむと、私の頰をグイッと掴む。
紫色の瞳が間近にあって私は思わず息を呑むと、リアム君の体がよろめいた。
見れば、ミリアさんが震えながらリアム君に体当たりをしていて。
「クラリス様には、触らせません。
この方は、アルベルト様の、大切なお方なんですから!」
そう強い口調で言ったミリアさんに私は驚いていると、リアム君の瞳がポワッと深紅色に染まった。
(!? 瞳が変色してる!!)
片目だけ、深紅の瞳になったリアム君に驚いていたのも束の間、ミリアさんがうっと呻きながら倒れこむ。
「!? ミリアさん!! リアム、何をしたのっ!?」
私は声を荒げると、リアムは「煩かったから、ちょっと黙らせただけ」と自分の手首を捻りながらだるそうに言った。
「嘘よ、ミリアさんが苦しそうじゃない!
早く魔術を解いて! 私の魔力ならいくらでも、貴方に貸すから!!」
私がそう言えば、リアム君は「そう」と嬉しそうに言うと、パチンッと指を鳴らした。
ミリアさんは浅い呼吸を繰り返す。
「ミリアさん、大丈夫? ごめんね、苦しかったでしょう?」
ミリアさんは苦しくて答えられないようで、黙って首を横に振った。
その痛々しい姿に、私はただ大人しくしているだけの自分に腹が立ってくる。
キッとリアムを睨めば、少し動揺したような顔をしたと思ったら、一瞬でその表情を消して笑い出す。
「ふふ、本当にクラリスって楽しませてくれるよね。
……じゃあ、お望み通り、君には囮になってもらおう」
「囮? そんなの聞いてな……」
ふっと、視界が揺らぐ。
揺らいだ視界の中で、私に向かって叫んでいるミリアさんと、笑っているリアムの姿が映って……私はもう一度、深い闇の中に呑み込まれていった。
☆
(アルベルト視点)
その頃、寮内の一室では。
「クラリスはまだ見つからないのか!?」
僕はドンッと机を叩いた。
その姿を見て、クレイグは「すみません」とただ一言謝った。
側には、泣きじゃくるルナの姿もある。
「っ、僕は、探しに行けないなんて……!」
王子だからと、国王からの命令で助けに行くことを禁止された僕は、ピアスを握りしめて寮の自室にこもっていた。
(クラリスが誘拐されて5日も経っているというのに……!)
あの時、“アル、助けて”と叫んだクラリスの声が、耳にこびりついて離れず、僕は拳を握り締めて唇を噛む。
「出て行けば退学? ふんっ、そんなもの、退学にでもなんでもなればいいさ。
僕はクラリスを探しに行く」
「お、お待ちください、アルベルト様! 攻めて、悪魔が何であるかを調べてから」
「そのことについてはもう調査済みだよ」
クレイグの言葉を遮るように、そういって現れた人の姿に、僕は驚いて目を見開く。
「どうして、貴方がここに!?」
それは、普段は外に出られない、自分のことを“鳥籠の中の鳥”と呼んでいるエドガー様と、それからローレンスとシリルも後ろから顔を出した。
驚いている僕達を見て、エドガー王子はふふっと笑う。
「まあ、驚くのも無理はないけれど、今は事態が一刻を争っているから、急がなくては。
……悪魔について、いや、“リアム”について、分かったことがあるんだ。
これを聞いたら、クラリス姫を探し出して伝えて欲しい。 ……きっと、彼女がこの結末を握ることになるだろうから」
そういったエドガー様の口から語られた真実と過去は、僕等にはあまりにも衝撃的だった。




