19.夢の中の過去は
*少しだけシリアスめです。
「……ラリス様、クラリス様!」
「ん……?」
目を開けると、視界に飛び込んできたのはミリアさんの顔で。
私はハッと一気に目が冴えると、辺りを見回した。
牢屋か何かに入れられていると思ったら、何故か普通の部屋の室内にいた。
そして、最近寒くなってきたこともあってか、部屋の中では暖炉がパチパチと燃えていた。
(……え、これ、リアム君がやったの……?)
違和感があるといえば、魔力封じがされているのか魔法が使えないことと、足枷と手錠が重いことくらいで。
「……驚いたわ、もう少し酷い環境にいるのかと」
「えぇ、私もびっくりしました。
まさか、クラリス様まで連れて来られるなんて……」
見たところ、ミリアさんに怪我や魔法らしきものはかかっていないようで、ホッとしていると、カツンカツンと足音がした。
ハッとしてその足音の方を見れば、連れて来られた時と同じように薄く不気味に笑う、リアム君の姿で。
私はミリアさんを背に庇うと、リアム君はははっと笑った。
「うん、クラリスは流石、僕が見込んだだけの姫様だね。 立派だよ」
「貴方に褒められたって、嬉しくなんかないわ。 それより、ちゃんと無事にあの子達を帰してくれたんでしょうね?」
「あの子たち? ……あぁ、君の侍女のこと?
勿論、約束は約束だからね。 ちゃんと城に転移魔法で送ってあげたよ。 感謝して欲しいくらいだ」
そう言ってのけるリアム君に、私は驚いて目を見開く。
「貴方、転移魔法も使えるの……?」
「んー、半分正解で、半分不正解かな。
僕が契約しているのは、“黒魔法”だからね」
「契約……? それに、黒魔法って……っ、まさか! 貴方、自ら悪魔と契約しているっていうの!?」
私の叫びにミリアさんも驚いて目を見開く。
そんな私達を見てリアム君は「ふふっ、ご名答」と拍手をする。
「そうだよ。 僕は自ら体の中にいた悪魔と契約した。
……全ては、復讐のため」
「復、讐……?」
私の呟きに、「忘れたとは言わせないよ」と言うと、パチンッと指を鳴らす。
すると、私達の体が浮かび上がる。
悲鳴をあげるミリアさんに寄り添うようにすると、リアム君は「安心しなよ。 過去に遡ってるだけだから」と言った。
「!? 過去!? 時の魔法も使えるの!?」
「……はぁ、だから何度も言わせないでくれる?
黒魔法だから、何でも使えるの」
そう呆れたように言うリアム君の視線を辿れば、確かに、時がグルグルと遡っている感覚。
……だけど、様子がおかしい。
(……ローレンスとは違って、白黒だわ)
ローレンスの時の魔法では映る世界は過去そのもの。 ただ、リアム君が今遡っている“過去”の世界は、全てモノクロで。
私は黙って見つめていると、あるところで時が止まって、ゆっくりと動き出した。
その光景を見て、私はあっと声を上げる。
「……これは、魔の森……?」
魔の森。
それは、普段立ち入り禁止となっている、ランドル王国とディズリー王国の間にある深い森のこと。
一回立ち入ると、二度と出て来られなくなる、とそう教えられた。
「……僕達は、“悪魔憑き”と呼ばれ、黒髪は忌み嫌われた。 幼い僕は、その意味が分からず、ただ、母親に手を引かれて逃げるように連れて行かれた場所。
それが、“魔の森”だった」
「! ……貴方は、魔の森に住んでいるの?」
「そうだよ。 それが唯一の、“悪魔憑き”の人々の住処だったから」
唯一……悪魔憑きと呼ばれた彼等は、生まれてきた黒髪を嘆きながら、魔の森に住んでいたということか。
「そうして僕と母親がたどり着いた魔の森で、多くの悪魔憑きと出会った。
楽しかったんだ。 森の中はまるで、天国のようだった」
リアム君は森を上から見上げ、楽しそうに笑う。 ところが、そこからすっと笑みを消した。
「……でも、8年前のある日。
僕の母親も周りの悪魔憑きも皆、病に倒れた。
流行りの伝染病だったらしい。
街では薬が飛び交っていたというのに、お金が無くて黒髪だった僕等は、為す術もなく、皆苦しみながら死んでいった」
「そんな……」
黒髪故に、薬を買うことも買うお金もなかったなんて……。
「……憎かった。 王族や、王都の住人達が。
迫害してきた奴らが、のさぼって生きるこの世界に、吐き気を覚えた。
……それだけじゃないさ。 クラリス、君も僕の生活を全て、破壊した」
「え……っ!?」
白黒の世界が、切り替わる。
すると、そこに現れたのは幼い私とアルで。
「っ、こ、これは……」
手が震えだす。
……そう、これは、私が間違いなく、夢で見ていた“過去”の記憶で。
私は幼いアルと私を凝視する。
そのうちに頭がガンガンとしてきて、あの時の光景と声が、同時に蘇ってきた。
☆
私が8歳、アルが9歳の時のこと。
アルと私は、いつものようにランドル国内で遊んでいた。
「アル〜!! 見てみて! このお花、とっても綺麗よ!!」
「ふふ、本当だ。 貸して、付けてあげる」
アルは私が持っていたお花を一輪取ると、私の耳にかけた。
そして、「ふふ、可愛い。 似合ってるよ、クラリス」と大好きな笑顔を浮かべて言ってくれるアル。
「有難う! アル!」
私がそう言えば、アルは「じゃあ僕も、綺麗なお花を探してみるね」とどんどんお花畑の奥を歩いていく。
そんなアルに負けじと、私もお花を探すのに夢中になっていると、ふとアルの姿が見えないこと気がつく。
「……アル?」
私は不安になってアルを探していると、視線の先に、アルが横たわっている。
「! アル!!」
駆け寄ろうとすれば、アルの周りにフードを目深に被っている大人の男の人達がいることに気がつく。
幼いながらもそれが人攫いだ、と気付く。
どうしよう、と一瞬ためらいながらも、駆け寄ろうとすれば、アルが「来ちゃダメ!!」と私に気が付いて制す。
すると、そのアルの首を男の人が叩いて、アルはぐったりと首を下げた。
「っ、アル!! ……よくも!! アルに、ひどいことを!!」
それを見た私は怒りと同時に、何かが体の中を駆け巡る感覚を覚える。
それが魔法だと気が付いたと同時に、私の体の芯から放たれた火が、まるで火柱のように、私の周りを囲って、やがて私の姿が周りから見えないほどに、私の体を覆い尽くした。




