16.禁書の存在
放課後。
「ねぇねぇ、今日は一緒に帰れる?」
私とミリアさんとルナが話していると、声を掛けてきたのはリアム君だった。
たまにリアム君とは、馬車までだけれど一緒に帰る時がある。
でも今日は一緒には帰れない。
アルと約束しているから。
「ごめんなさい、今日はアルに呼ばれているの。 だから先に帰ってもらえるかしら?」
ミリアさんが困ったように私を見ていたから、私はリアム君にそう伝えると、彼は「そっかぁ」とつまらなそうに笑う。
「今日は昨日のドレスの話とか色々聞かせてもらいたかったんだけれど、仕方ないよね。
もし今度よかったら、聞かせて」
「えぇ、約束するわ。 ね、ミリアさん」
「は、はい。 私のドレスのことでよければ……」
ミリアさんに話を振ると、驚いたようにそう言った。 リアム君は「ふふっ」とツインテールを揺らしながら笑うと、「じゃあ、また今度ね!」とひらひらと手を振って行ってしまった。
私とミリアさんは、視線を合わせて少しだけホッとすると、「もう少し、人がいなくなってからいきましょうか」と言って、他の生徒が下校するまで待つことにした。
☆
人が少なくなった頃合いを見計らって、誰も付いてきていないか確認しながら、3人で魔法実験室へ向かう。
実験室には既に4人の姿があった。
「ごめんなさい、遅れてしまって。
人が多かったから、少し時間を置いてからと思って……」
私がそう言うと、アルはニコニコとしながら言う。
「大丈夫だよ。 僕達も今来たところだし」
「いや、もうちょっとはや……グェッ」
アルは笑顔でクレイグの鳩尾に肘をお見舞いしていた。
言いかけた言葉に気が付いて、私は「ごめんなさい」と色々な意味で謝ると、ルナが慌てて「大丈夫!?」とクレイグに駆け寄った。
私は苦笑いでクレイグに、「アルがごめんね」と謝ると、クレイグは気にしなくて良いです、と言うふうに軽く手を挙げた。
(……声も出せないほど、痛いのね……)
そんな私達をローレンスとミリアさんは苦笑いをして見ていた。
ただシリルだけは、冷めた目で私達を見て、「何やってるんですか」と溜め息を吐いた。
そのシリルの声に、あ、ちょっと機嫌悪いと悟った私は、「さ、さぁ行きましょうか」とシリルにお願いね、と目で訴える。
そんな私の視線に気付いたシリルは、今度は長く溜め息を吐いたかと思うと、「では、行きますよ」と言うと、足元が光り出す。
ルナとクレイグの足元には、青白い光はなく、私達を心配そうに見守っていた。
「ルナ、行ってくるわね」
そんな私を見て、ルナは口を開いて何か言っていたけど、聞こえなかった私は聞き返そうとするも、その瞬間にはエドガー王子の部屋に辿り着いていた。
「ふふ、今日は全員集合だね」
なんて楽しそうに笑うエドガー王子に、私とミリアさんは微笑むと、アルは何故か面白くなさそうに私を見ている。
「? 何、アル?」
「はは、アルベルトはいつ見ても面白いね。
クラリス姫のこととなると、すぐムキになるんだから」
エドガー王子がそう言うと、アルは「僕が知らない間に会ってるのが悪いんです」と拗ねたように言う。
「私とエドガー王子は少しお話しただけよ?」
と言えば、アルが何か言いかける前にローレンスが、はいはい、とアルの口を手で塞いだ。
「二人の会話はそこまでにして。 折角全員揃ったと言えど話が進まないじゃないか」
と言って、ローレンスは本棚と本棚の間の壁を軽く押す。
私はその壁から現れた応接室を見て、あ、やっぱり兄弟だからよく知ってるんだなぁと思っていると、エドガー王子が苦笑いする。
「ローレンス、そこは僕が案内するべきでは……まあ、いいや。
話さなければならないことがたくさんあるしね。
アルベルト、クラリス姫、ミリア嬢、シリルも入って。 すぐに紅茶を淹れるから」
と、エドガー王子は朗らかにそう言って、私達を招き入れる。
今日は人数が多いことを配慮してくれたようで、年輩の執事さんがいて、ソファ2脚の他に1人がけの椅子が2つ置かれていた。
私とアル、ローレンスとミリアさんはそれぞれソファに座り、エドガー王子は一人がけの椅子に座る。
シリルは断りながらも、エドガー王子に押されて最終的に、反対側の一人掛けの椅子に座った。
「じゃあ、単刀直入に言うね。
君達が言う、“悪魔討伐”について、アルとローレンスには粗方話したんだけど、クラリス姫とミリア嬢にはまだ話してないから、今までで分かっていることも踏まえて話していこう」
エドガー王子は一口淹れたての紅茶を飲みながらそう言うと、私とミリアさんに緊張が走った。
アルはそんな私の手をギュッとさりげなく握ってくれる。
その手の温もりに幾らか落ち着いたところで、エドガー王子は話を進める。
「確か、まだ二人には悪魔の件については、全く話していないに等しいよね。
……この王子二人が心配性でなかなか口を割らないから」
「「うっ……」」
アルとローレンスが呻く。
私とミリアさんは顔を見合わせて苦笑すると、黙って頷いた。
「まあ、そんなことだろうとは思っていたからいいけど。
じゃあ、まずは悪魔の話から始めよう。
以前、学園の花園で、一人の御令嬢が悪魔に取り憑かれていたと聞いた。 覚えているだろう?」
私とミリアさんは頷くと、エドガー王子はそれを見て話を続ける。
「その時、クラリス姫は咄嗟に火を消そうと魔法を使った。 ……その魔法についてはまた後で話すとして、今は悪魔の話をしよう。
……その悪魔が、御令嬢から出て行く姿をアルベルトは見たと言うんだ。
その姿は後ろ姿しか見えていないけど、その髪の色は“黒髪”だったと」
「黒、髪……!?」
黒髪。 それは、この大陸では“悪魔憑き”と呼ばれ、差別されている人々のことを言う。
私はそんな差別は馬鹿げていると思ったけど、この十数年の間に、黒髪をした人の姿はどこにもいなくなったらしい。 私自身も見たことがない。
今ではただの言い伝え、そう思っていたのだが、ここで“悪魔憑き”と呼ばれている黒髪の人々の存在が出てくるとは思っていなかった。
「そう、君達が言い伝えで聞く“悪魔憑き”と呼ばれる彼ら。 その彼らの内の一人が、あの御令嬢に取り憑いた。
私はそこが引っかかって、古い文献を調べてみたんだ。 そうしたら、“悪魔憑き”についての禁書が見つかったんだ」
「! 禁書!?」
私は驚いて口を開いたけど、ミリアさんは首を捻った。
それを見たローレンスがすかさずミリアさんにフォローする。
「禁書っていうのは、国が出版や閲覧を禁止した書物のことを言うんだ」
「そうなんですね、ごめんなさい、私は知らなかったので……」
「謝ることないわ。 普通は知らないものよ。
国やその家系の中でも口外禁止にしているものだから」
と私もミリアさんが謝ったのを見てフォローする。
エドガー王子は頷くと、「禁書は流石に見せられないけど」と付け足して言った。
「その“悪魔憑き”についての禁書は、時の国だけが所持しているものなんだ。
時を司るこの王国では、歴史の記録は必須事項だからね。
……僕は、この通り外に出られない身で、そういった書物にまで手を出していいと言われているから見られるんだけど」
ローレンスは現に知らなかったよね、とエドガー王子が言うと、ローレンスは黙って頷いた。
「そう。 だから、禁書のこと自体が口外禁止だったから、当然“悪魔憑き”の本当の意味が、出回らないというわけ」
「本当の、意味……?」
悪魔憑きというのには、違う意味があるというのか。
驚く私とミリアさんに、エドガー王子から語られた本当の意味の“悪魔憑き”は、とても恐ろしいものだった。
いよいよ今までの謎が明らかになっていきます!
ちょっとした推理感覚で読んで頂けると、楽しめるかなと思います。




