9.過去を知るために
(……やっぱり、何か隠してるんだわ)
私は腕組みをして考える。
ルナに朝、自分の見た夢が“過去”の記憶なのではないか、そう尋ねると、ルナは青い顔をして言った。
「気の所為ではないか」と。
(青ざめながら言われても全然効力がないわよね……)
私はそれで、ピンと来てしまった。
十中八九、私の答えで合ってると。
(……アルに言っても聞かなそうだし……ここは、あの人に聞くしかないわよね)
……私の記憶を消したであろう、“あの人”に会うために。
私は決意して、3年の教室に向かうのだった。
☆
3年の教室に着くと、昨日謝らなかったためにアルを呼ぶ。
だけど、先輩方は何処にもいないと首を振るばかり。
(? 何処にいるのかしら……)
……しょうがない、先に過去の記憶を調べるために、あの人に会いに行くことにしよう。
「……お呼びですか、クラリス姫」
「えぇ。 シリルに、お願いがあって」
私は息を吸うと、「あの人に会わせて欲しいの」と言った。
シリルは無表情な顔な瞳を一層冷たくして「また何を企んでるんです」と言う。
「貴方しかいないの。 ……部屋の場所も隠されているあの人に会いに行けるのは。
……それに、アルやローレンスに行ったら、止められることだから」
私の侍女であるルナが私の命令でも言わないということは、アルやローレンスから言うなと言われていると捉えて良い。
じゃないと、あそこまで頑なに教えてくれないなんてことはないもの。
「……俺だって、ローレンス様の味方です。
ローレンス様やアルベルト様が許さないことを、何故私が許せるのですか。
第一、彼の方に会いに行くこと自体が異例なんですよ」
「……その異例に、私が過去から巻き込まれているとしても?」
「……っ」
グレーの瞳が動揺したように揺れる。
私はその態度で一瞬で分かる。
あぁ、やっぱり。 シリルも、私の過去を知っていて、隠してるんだ、と。
(皆が、頑なに私の過去を隠そうとしてる。
だけど、ここで引き下がるわけにはいかないの)
私はふっと息を吐くと、シリルの目を見つめてゆっくりと口を開く。
「……シリル、私が責任を取る。
何かあっても全て、私が処罰を受ける。
だから、あの人に会わせて。 ……私はもう、ただ守られているだけなのは嫌なの」
私の言葉に、シリルはハッとした顔をする。
そしてしばらく沈黙した後、一言、私の目を見て言った。
「本気ですか」
「……えぇ」
私は、少しだけ震えている自分の手をギュッと握る。
すると、シリルは普段はあまり見せない、柔らかい笑みを浮かべて言った。
「……クラリス姫も、もう子供ではないというわけですね」
「あら、まだ私を子供扱いしていたのかしら?」
「まあ、まだ少なくとも“シュワード国の次期王妃”という感じはしませんね」
「えぇ! それは困るわ」
私とシリルはそんなやりとりをしてクスクスと笑うと、「では、放課後また」とシリルは会釈をして行ってしまう。
(有難う、シリル)
私はその背中に向かってそっと心の中で呟いた。
☆
放課後。
「ルナ、ごめんなさい。 今日は彼の方に呼ばれているから行くわね」
……呼ばれている、というのは嘘だけど。
一方的に行く、なんて言ったら全力で止められるもの。 私に過去のことを知らせないために。
(ごめんね、ルナ)
魔法に関しては、貴女の望みを受け入れることは、この先もきっと出来ないと思うわ。
(……ごめんなさい)
私は心の中で何度も謝る。
ルナはそんな私には気付かず、私の言葉に驚いたような表情をした後、「分かりました」と一言、そう言った。
私は、その後一人で魔法実験室へ向かうことになった。
ドアを開ければ、この前とは違い、立っているのはシリルだけ。
シリルは、「今日は私もご一緒してよろしいですか」と言うと、私は頷いた。
(アルやローレンスに何も言わずに行くなんて、私も結構危険なことをしてるわよね……特に、あとでアルがどんな顔をするかわからないわ)
この前嫉妬された時みたいに、怒るのだろうか。
(……それでも、私は自分のことを知りたいの)
この夢のことも、魔法のことも。
この魔法が悪魔討伐に役立って、アルやこの国の人達の助けになるのなら、何だってしたいの。
(だから私は、もう決めたの)
……絶対に、記憶を思い出すと。
私は目を瞑って、記憶を思い出すことへの恐怖と不安を落ち着かせるように長く息を吸って吐くと、ゆっくりと瞼を開ける。
そして、シリルを見て微笑んだ。
「宜しくね、シリル」
「はい、お任せを」
シリルと私の足元が、青白くキラキラと光る。
私はシリルを見て、「有難う」と、さっき直接言えなかったことを、彼に言ったのだった。
場面・時間がコロコロと変わりすみません><




