4.思い出した1つ目の嫌がらせ
悪役令嬢を演じるにあたって、ルナと話し合いをして、ルールを決めた。
大まかにまとめると、
一. 無理はしないこと
二.新しい記憶が蘇り次第、すぐにルナに報告すること
三.なるべくヒロインと関わらない
四.悪役を演じた後は、ルナが後始末をする
「いいですか、一は絶対条件ですからね!」というルナの念押しが凄かったので、それは絶対に守ろうと思う。 ルナとしては、「そもそも、ヒロインと関わらず、悪役もやらなければいいのではないか」と考えたようだけど、どこでメリバフラグを回収してしまうか分からないから、覚えている内容に関してはしっかり悪役を演じようと言う結論に至った。
……本当に、そもそもゲーム上のクラリスのことを何も覚えていないがために、対策のたてようも無いのよね、なんて呑気に考えていると、その日夢の中で、望んでいたクラリスの、ミリアに対する最初の嫌がらせが何なのかを思い出すことが出来た。
☆
「なるほど、ミリア様を呼び出して説教した挙句、学園にある噴水に引っ掛けて落とす、ですか」
そう結論づけた分かりやすいルナの答えに「えぇ」と飲みかけの紅茶を見つめて溜め息をつく。
「気が重すぎるわ。 お説教なんて、する方もされる方も嫌なものなのよ?」
「それもそうですね。 ……そういえば、お説教って何のことなんでしょう?」
「……そ、そういわれてみれば……」
首を傾げた私に、ルナは「あ、そこは思い出していらっしゃらないんですね」と白目を剥いた。
「それじゃあ、説教する内容も考えなければならないと……」
ん〜と二人で唸っていると、「あの」と誰かに呼ばれる。
「? ……あら、アリシアさん」
学園内のカフェテラスで呼びかけてきたのは、アリシアさん。この王国の侯爵家の地位を持っている御令嬢。
(……何の御用かしら?)
アリシアさんは、「急に呼びかけてしまってごめんなさい」と私に向かって頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですわ。 ……それより、どうかなさいまして?」
そう聞くと、少し困ったように眉尻を下げる彼女。 ルナと顔を見合わせて首を傾げていると、おずおずと彼女は口を開いた。
「ミリアさんの件についてなのですが」
「え、ミリアさん??」
……粗方、彼女の言いたいことは分かった。
ミリアさんはもう、良い意味でも悪い意味でも、注目の的、ということだ。
「はい、ミリアさんのことなんですけど……良いのですか? クラリス様は。
その……言いにくいですけれど、クラリス様の御婚約者と、随分親しげに歩かれておりますわ」
「アルベルト様と?」
……その光景は、初めて聞いた。 アルは最初、ミリアさんの案内も嫌そうにしていたけど……そんなに、親しくなったのかしら?
「そうなのです。 いくらシュワード王国から来たとはいえ、学年も爵位も違うのに、あそこまで親しくされるのはどうかと思いますわ」
そう怒ったようにいう彼女の言葉に、「そうね……」と微妙な相槌を打つ私。
(……爵位で判断することは私は嫌いなのだけれど、皆この世界にいる限り、爵位が優先なんだわ……)
「……分かりました。 私から彼女に、それとなく言っておきますわ」
御心配有難う、と微笑むと、アリシアさんは恐縮したように会釈をして行ってしまった。
「……あの方は良い方だけれど、妬ましく思う方がたくさんいらっしゃるのね……」
しかも相手がアルベルトという、人気者の王子様となると尚更、そうなるわよねぇ。
そう呟いた私に、ルナ様は「観点がずれてますよ!」と指摘する。
「アリシアさんが仰る通りですよ! ミリア様がアルベルト様のお隣だなんて……この素晴らしいクラリス様という御婚約者がいらっしゃるというのに、なんてこと……!」
「そ、それもそうだけれど……でも私は、アルの交友関係を、とやかく言って狭めたくはないわ。 ……って、ルナ、何故そこでハンカチを噛みしめるの?」
「だって……歯痒いんですもん〜〜!!」
……何のことを言っているのかしら?
「まあ、それはともかく。 ……そのことを私、一応遠回しにミリアさんに伝えに行くわ。 ……そうだ! 噴水広場にしましょう! これで、悪役令嬢と同じシチュエーションに出来るわ!」
……水に落とすのはともかく、同じシチュエーションにまずは立たないといけないわよね。
「それは良い考えです! では早速、ミリア様を呼び出しましょう!」
「え、今から!?」
「善は急げですよ! 今日の放課後にでも呼び出しましょう!」
……ルナが生き生きしてる……まあ、いいわ。 もう、ルナに任せましょう。
半分投げやりになる私を見て、ルナはにっこりと微笑んだ。