7.嫉妬
途中からアルベルト視点に移ります。
「っ……」
もう少しで男の子の顔が、というところでまた目が覚めてしまった。
……でも目が覚めた先は、いつもの部屋ではなく、学校の保健室だということに気が付く。
そして隣を見れば、アルがすやすやと眠っていた。
私は気持ちよさそうに寝ているなぁと思いながら、アルの少し長くなった髪に触れて、手の中でさらさらと撫でていると、その手をアルが掴む。
「……まさか、狸寝入り?」
「ふふ、そうだね」
「……酷いわ」
私は少し頰を膨らませて怒って見せると、アルは「ふふ、可愛い」と今度は私の頰を触る。
私は触れられると思っていなくて、顔に熱がこもるのが分かる。
アルはそれを悪戯っぽく笑いながら見た後、ふと思い出したように真剣な表情になって言った。
「そういえば、どうしてさっきリアムと二人きりでいたの?」
「? ……あぁ、さっきね」
私はボーッとしていて壁にぶつかりそうになったところを呼び止めて教えてくれたんだと言うと、アルは疑いの眼差しをして言う。
「それはタイミングが良すぎない?
どうしてリアム君が、君の近くにいたんだ」
「そ、それは……そういえば、どうしてかな?」
あそこは、教室移動をする廊下ではない。
私はボーッとしながら歩いてたから、無意識だったけど、本来あそこはあまり人が通らない場所。 だから、アルと二人で話すときはたまに使ったりする廊下でもあるんだけれど……。
私の言葉にアルは少し思案した後、私に言う。
「ねぇ、クラリス。
……やっぱり、リアム君と関わらない方がいいかもしれない。
さっきだって、何で倒れたのか医者も分からないって言われた。 ……もしかしたら、リアム君が」
「変なことを言わないで。 あの子はそんな子じゃないわ。
逆に良い子なのよ。 だって、壁にぶつかりそうになったときだって……って、アル?」
アルは急に黙って私を冷たい目で見る。
私は初めて向けられたアルの視線に、背筋が凍る。
(……わ、私、怒らせちゃったかしら……)
「あ、アル? どうし……きゃ!?」
その途端、グイッと私の体がベッドに押し付けられる。
そして、その上からアルが見下ろす形になる。
「あ、アル……? は、離して」
「……離す? 僕はそんなに力入れてないよ?
離れたいなら、自分から離れて見なよ」
「え……」
私は驚いて、言葉が出ない。
(ど、どうしちゃったの、アル……)
離れる云々の問題ではなく、アルが怒ってる。
私はさっと血の気が引く。
冷たい目で見下ろすアル。
……こんな視線、アルから向けられたことはほとんど……いや、初めてだと思う。
固まる私に「抵抗しないの?」とアルが言った瞬間、私の唇を奪う。
「っ!? んっ……」
いつもとは違う、乱暴な口づけ。
私は何が何だか分からなくなる。
言葉も発せず、息もできず、ただ大人しくされるがまま。
私は悲しくなる。
(何で、どうして、アルにキスされて嬉しいはずなのに、どうして……)
少し唇を離したアルが瞳を開くと、私の顔を見て驚く。
……アクアブルーの瞳には、涙と困った顔でアルを見つめる私の姿が映っていて。
「……あ、る……?」
酸欠で朦朧とした意識の中、私はそう問えば、アルはばっと体を離して、自分の口を手で抑えると、「ごめん……」と俯いて、保健室を出ていこうとする。
待って、そう呼び止めようとしたけど、上手く言葉にならない。
私の呼びかけは空気に溶けていき、アルはこちらを振り返りもせずに保健室を出て行ってしまった。
私はどうしよう、と思いつつ、とりあえず授業に出なければ、と少し乱れた制服を整えて教室に戻る。
教室に戻ると、心配そうにリアム君とミリアさんが駆け寄ってきて、口々に「大丈夫?」と声をかけてきた。
私は大丈夫よ、と言いながら席について、窓の外を見つめる。
(……あんなアル、初めて見たわ……)
……知らない人のようで少し、怖かった。
だけど、格好良くも見えたのは確かで。
(……怒らせちゃったのよね、私……でもどうして? 何処で怒ったの??)
いくら考えても答えは出て来ない。
その原因が分からなければ、アルに謝ることも出来ない。
私は、ルナに意見を求めようと、城に帰ってからルナにキスのこと以外は話すことにした。
☆
(アルベルト視点)
(何をしてるの僕……! 本当馬鹿だ……)
保健室からしばらく走って、別棟に辿り着くと、呼吸を整えながらさっきのクラリスの顔を思い出していた。
……潤んだ瞳で、火照った顔で、僕を呼ぶ声……
(〜〜〜〜〜そうじゃない! 僕は変態なのか!?)
……クラリスを、傷付けた。
僕の勝手な、“嫉妬”のせいで。
(……こんなはずじゃなかった)
ただ、リアムがどんなやつか分からないから、引き離したかった。
それだけじゃなく、クラリスの近くに軽々しくいる男は、許し難かった。
(ただそれだけの理由で、あんなことを……)
「……クラリス、怒ってるよね」
「我が主は本当何やってるんですか」
「!?」
後ろを振り返れば、クレイグの姿が。
「……まさか、盗み見してたんじゃないだろうな?」
「や、やめてください、魔法で暴力しようとするの。 見てるわけないじゃないですか。
……ただ、分かりますよ。 赤くなったり青くなったり、忙しい表情をしている貴方様を見ていれば」
「……」
僕はクレイグを一睨みすると、はぁっと溜め息を吐く。
「……絶対、クラリスに嫌われた……」
「いや、それはないと思いま……って、これ俺が言うことじゃねぇよな。
えーっと……もうちょっと、器の大きい男になって下さい」
「……お前、それは貶してるよな」
「やべっ、言葉間違えた」
そんなクレイグとのやりとりと、クレイグのトドメの一言に、俺は今度こそ長く溜め息をついて座り込む。
「ちょっと、制服汚れますよ」なんて言ってるクレイグの言葉になんか耳は貸さない。
「……ただ、近くにいて欲しいだけなんだ」
僕の隣で笑っていて欲しい。
他のやつの隣になんか、いて欲しくない。
「……学年の違いが、ここまで僕達を阻むなんて……」
「今に始まったことじゃないじゃないですか。
というか、もっと自信を持ったら如何です。 アルベルト様は格好良いです。
それはもう、歩いている全ての人を惹きつけるほどの」
「嘘だろう、そんなの。 信用できるか」
クレイグの慰めなんていらないと俺は立ち上がると、さっさと教室に向かって歩き出す。
本当のことなのに、とかなんとかブツブツ言ってるクレイグにはもう、恋愛の相談なんかしないと、そう心に決めたのだった。
掛け持ち連載、スタートしました!
『ワケあり三毛猫の恋愛奮闘記。』↓
https://ncode.syosetu.com/n7786fj/
もしお時間があったら、お読み頂けたら嬉しいです…!




