6.誓いと夢
「……と、まあこんなことがあったのよ」
私は帰ってからルナに大体のこと(続編の新キャラクターで、攻略対象であることも含めて)を話すと、ルナは驚く。
「続編のことはともかく、そんな大事なこと、私に話してよろしかったのですか?」
「えぇ。 一人で抱え込むのは良くないから、ルナには話してもいいと、エドガー王子から許可を頂いたのよ。
……それにしても不思議ね。 私は知らなかったのに、何故貴女はエドガー王子のことを知っているの?」
エドガー王子の口から、まさかルナが出てくるとは思わなかった。
ルナだけではなく、クレイグのことまで知っていたし。
「そ、それは……そう! あの時知ったんですよ。
この前のミリアさんのお花を燃やそうとした悪魔の時。
あの後、あの場にいた御令嬢方の記憶を、エドガー様の記憶操作の魔法を使って、忘却させたのです」
「……! そんなことまで出来てしまうの!?」
私は確かにあの時のことは、学園内では大ごとにならなかったことを思い出して、記憶を封じたのが原因なのかと驚いてしまう。
「はい、だからエドガー様の魔法は国家秘密なんです」
「……影響力は、壮大よね……」
“記憶操作”のことは幻の魔法、として私は知ってはいた。
だから、本当に使い手がいるとは思わなかったし、使い道すら分かっていなかった。
(エドガー王子はそれで、国では病気がちとして特質魔法も隠され、言い方は悪いけれど、ほぼ軟禁状態の生活を送っていると……)
いつ狙われるか分からない。 ローレンスのお母様もこの魔法の使い手だったということは、相当苦労されたはず。
「……私も、この魔法の威力が何のためにあるのか、調べなければならないのかしら……」
隣でルナの息をのむ音が聞こえた。
そしてルナは、私の手を掴む。
「……ルナ?」
その手が小刻みに震えていることに気が付き、私は驚いた。
「……姫様、絶対に危ないことだけはしないで下さい。
もし……もし、それが姫様が仰る“ゲームの世界”で生きている上で、悪魔を討伐するのがお仕事だとしても、私は、そんな危険なお役目、姫様にはして欲しくありません……」
ギュッと、ルナが俯いて唇を噛みしめる。
私はその顔を見て「有難う」と言うと、震えているルナの手を両手で握った。
「私は、何の記憶もないから、この世界で何をすれば良いか分からない。
アルの言う通り、悪魔討伐に加担して、危険な目に遭うかもしれない。 ……でもね、絶対に死んだりなんかしないわ。
だって、私にはルナがいる。 アルと結婚して、幸せな生活も送りたい。
……ふふ、覚えているでしょう。 私は、“クラリス・ランドル”……悪役令嬢として、この世界に生まれたの。
悪魔と戦ったとしても、そう簡単に死んだりなんかしてやらないわ」
そう言って笑って見せると、ルナはみるみるうちに涙を浮かべ、「姫様ぁぁぁ」と私に泣きつく。
私はそんなルナを見てふふっと笑うと、ルナの背中をさすった。
そうしながら天井を仰ぐ。
(もしこれが、私がゲームの世界を変えてまで前世の記憶を持って生まれた、“クラリス・ランドル”としての宿命なら、受けてたってやるわ)
……私を愛する人達を、国を守るため。
この命を惜しんだりはしない……
私はそう、心の中で誓ったのだった。
☆
それからは何の事件も起きず、穏やかな日々を過ごしていた……はずなんだけど。
「ねえねえ、聞きました? リアムさんって、男の方なんですって」
「えぇ! いつもクラリス様とミリア様のお側にいらっしゃる方よね?」
リアム君が来てから2週間。
ついに、周りにリアム君の正体がバレ始める。
……まあ、仕方がないことだわ。 普通にお手洗いにいけば、すぐにバレることだもの。
だけど、ここからが問題よね。
(……あまり二人きりにはならないようにしましょう)
今はミリアさんも一緒にいてくれる。
……本来、確かゲーム内ではミリアさんと共に行動していたはず。 そこに、私が加わっただけで。
でもミリアさんのルートは、ミリアさんの婚約者であるローレンスルートだから、ミリアさんだってリアム君とあまり仲良くするのはよろしくないはずで。
(……あぁ、どうしましょう……)
困ったわ……悪魔討伐対策より、今はこっちの方が問題よ……。
と新たに発生した問題に頭を抱えていると。
「? クラリス様?」
「!!」
突然声をかけられて驚いてしまう。
「えっ、あ、リアム君? どうしたの?」
「あ、前方注意、しようと思いまして……」
「? ……っ」
私はリアム君の指差す方を見て驚く。
……私、壁に激突するところだったわ。
「あ、有難う、リアムく……ん?」
私は、急に頭痛が起き始める。
ドクンドクンと、鼓動が早く鳴り出す。
(……っ、どうして、何が起きてるの……?)
グラングランと、頭が揺れる。 ふらふらする。
「クラリス、様?」
再度呼ばれて大丈夫、そう答えようとしてリアム君を見れば、二重に見える。
……その姿に、何か違う面影が重なって見える。
「うっ……」
いよいよ頭がクラクラしだしたその時、誰かに抱き止められる。
よく知っている力強い腕の中で安心したのか、私は意識を手放した。
☆
(ここは、どこ……?)
辺りを見渡せば、何処かの路地裏だった。
(……ここ、見覚えがあるわ)
そう、私が……いや、思い出せない。
(どうして……)
思い出せそうで、思い出せない。
そんな自分に苛立ちながら少し先の方に視線を移せば、ポツンとひとりの影が蹲っている。
……それは、この前見た夢の中の男の子。
この前と同じく、泣いているその子に、私は「大丈夫?」と声を掛けると、その子は恐る恐る顔を上げて……―――
短いですが一度切ります。
今晩もう一話、更新予定です!




