5.“会わせたい”人の正体
放課後。
私とルナは、アルに言われた通り魔法実験室……別棟にある、授業以外で人があまり出入りしない教室に向かう。
「魔法実験室に呼び出しだなんて、なかなか無いわよね」
「そうですね。 私の予想は的中しているかと。 ……それだけ、重要人物というか、それくらい秘密の人物なんですよ」
「? ……そうなのね」
一体どんな人なのか。 私には予想できず、不思議に思いながら教室のドアを開けると、既にアルとローレンス、クレイグ、シリルの4人の姿があった。
「ごめんなさい、遅くなって」
「いや、僕達も来たばかりだから大丈夫だよ」
アルは私の言葉にそう微笑むと、シリルに目配せすると、私の手を握る。
「クラリス、ここからは誰にも秘密だよ。
国中でも、知っている者は王家のごく一握りだ。 ……だから、誰にも言わないでね」
私はその言葉に息を飲む。
「こ、国家秘密な方なの……? それは、どうして」
「会えばわかるよ。 僕も行くから。
……ルナとクレイグ、シリルはここにいてくれるか。 あの人の所へは、僕とクラリスとローレンスで話がしたい」
そうルナとクレイグにアルが言うと、三人は「仰せのままに」とそれぞれ礼をとった。
私は不安になる。 ルナもいない中で国家の秘密人物に会うことになるなんて……。
それを淑女の面で隠してるつもりだったけど、アルは「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と私に向かって微笑むと、手を握る力を強めた。
「シリル、宜しく頼む」
アルがそう告げれば、アルと私、それからローレンスの周りが青白く光り始める。
ふわっと身体が浮き、私達が着いた場所にいたのは、周りを本で囲まれた一室で。
(……ここは、どこ……?)
私は所狭しと並べられた本棚に驚いて、辺りを見回していると、隣にいたアルが「久しぶり」と声をかけた。
その視線の先を私も辿ると……。
(……あっ!!)
その姿に驚く。
(この人、新しく加わった追加キャラの人……!)
銀髪の長い髪を無造作に後ろでポニーテールにして、優しい眼差しを浮かべる銀色の瞳。
儚い印象を持つその人を見て、予想していた通り一目で追加の攻略対象だと判明する。
その人は、アルとローレンスを見てアルに「久しぶり」と返した後、私を見て言う。
「初めまして……かな。 クラリス・ランドル姫。
僕は、ディズリー王国第一王子、エドガー・ディズリー。
……ローレンスの兄だよ」
そう言って笑うエドガー王子。
「……え!?!?」
「兄さん、それを言う前に“国家秘密”である理由を教えてから言わないと混乱してしまうよ」
ローレンスがそう、エドガー王子に向かって言う。
私はそのローレンスの言葉も頭に入って来ず、只管エドガー王子の言ったことを頭の中で繰り返して考える。
「え、エドガー王子が、ローレンスのお兄様で、ディズリー王国の第一王子……って、第一王子は御病気のはずじゃ……」
そう、ディズリー王国の第一王子は、病気がちであまり外に出られないと昔から言われていた。
そのため、第二王子であるローレンスにディズリー王国の王位継承権が回った。
「御病気は、大丈夫なのですか?」
オロオロしながら私は心配すると、アルが少し怒ったように言う。
「ちょっと、クラリスが心配しちゃってるから、ちゃんと説明してあげて」
僕の口からでなく直接説明するんでしょ、とアルは口を尖らせた。 そんなアルに困ったようにエドガー王子は肩を竦めると、私に向かって笑う。
「ごめんね、この通り元気だよ。 ……説明不足だったね。
君も、僕のことは国家秘密だとアルベルト王子に念を押されたでしょう」
私は戸惑いながらも頷く。
「そう。 その理由はね、私の魔法にあるんだ」
「魔法……? ということは、時の魔法使いではないと、そういうことですか?」
私の言葉にエドガー王子は「そういうこと」と頷く。
「私の魔法はね、“記憶操作”。 ……今は亡き母から受け継いだものなんだ」
「! 記憶、操作……」
それで全て繋がった。
“記憶操作”。 この魔法はとても貴重な魔法で、この魔法を持つ一族は幻だとも言われている。
……その一族のうちの一人が、ローレンスのご病気で亡くなったお母様であるとしたら……。
「……記憶操作は、とても貴重で、それを特質魔法とする魔法使いは狙われやすい。
悪用されるといけないと考えて、時の国の王家の方々が、わざとエドガー王子の魔法がバレないよう、病気がちだということに託けて隠蔽した……」
私がそう言うと、「そうそう。 正解。 さすがランドルの王女だね」とエドガー王子は笑って軽く拍手する。
「これで、説明する手間は省けたよ。
……だけど私の魔法を説明すると、いつも結構面倒なことになるからね……」
そう言ったエドガー王子の視線の先には、エドガー王子の視線から顔をそらすアルとローレンスの姿。
(……二人とも、このお兄様にまで迷惑をかけているのかしら……)
なんて少し白い目で見ていると、私はふと疑問に思う。
「でもどうして、今になって私がエドガー王子に会わなければならないと考えたの? アル」
アルにそう問えば、アルは私を見ると真剣な表情で言う。
「確かに、エドガーのことは、王家の者の中でも力のことまで知っている人は数えるくらいしかいない。
クラリスにも教えるつもりはなかった。
……それはただ、言いふらされるのを心配して、って意味ではなく、秘密を知った者が狙われるのを防ぐって言う理由でね。
実際、ランドルでは、元国王とニコラス王くらいしか知らないから。
……でも、事態が変わった。
“悪魔”の存在が、学園を脅かし始めたから」
「!!」
悪魔、と聞いて私はあの時の、ミリアさんのお花が危うく燃やされそうになった日のことを思い出す。
「……ごめん。 ちょっとだけ我慢して」
と無意識に怖くて震えた私を見て、アルは来ていた制服の上着を私にかけてくれる。
「……有難う。 話を、続けて」
と先を促すと、アルはゆっくりと話し出す。
「“悪魔”がいつ現れるか分からない。
……後まだ詳しくは言えないけど……クラリスにも、手伝ってもらうことになるかもしれない」
「! 私の、魔法を……?」
驚いた。 まさか、悪魔討伐で私の魔法が必要になるとは思わなかったから。
「で、でも、私はお兄様に比べて魔力は弱いし、お父様のような大魔法も使ったことはないわ」
「……本当に、そうだと思う?」
「え……」
アルのアクアブルーの瞳がじっと私を見つめる。 その瞳には、戸惑う私の姿が映し出されている。
(……全て、見透かされているような気になる……)
「……確かに、火の使い手はランドル王国に行けばたくさんいるかもしれない。
だけど、クラリス。 君が気が付いていないだけで、魔力量はとても多いんだ」
「……っ」
分かっている。 私の魔力は、ただ少ないのではなく、私自身がコントロールが出来ないくらいの大きな力が眠っているということ。
(……少し訓練をしただけで、“夜会の演出”の時に、あれだけの魔力量を出せたんだもの)
私は、何も言えず下を向く。
その姿を見たローレンスは、溜め息をついた。
「アル、いきなりそんなに言われてもクラリスが混乱するだけだって。
俺の兄さんが実は元気で、希少価値の高い記憶操作の魔法使いだった、なんて知っただけでも、情報量が多いと思うよ」
「っ、そうだよね、ごめんクラリス……」
ローレンスの言葉に、アルはハッとして申し訳なさそうに言う。
私は首を振って「大丈夫よ」と微笑むと、エドガー王子に視線を戻して口を開いた。
「私の力がお役に立つのなら、ランドル国の第二王女として、“悪魔”から学園を守るお手伝いをやらせて頂きます。
……ですが、少し今は混乱しているので、お時間をまた頂けたら嬉しいです……」
私の言葉に、「だよね」と苦笑いを浮かべるエドガー王子とアルを肘で小突くローレンス。
ごめんなさい、アルと思いつつ、私はエドガー王子に淑女の礼をする。
「自己紹介がまだでしたので、今からさせて下さい。
私は、クラリス・ランドルと申します。 ランドル王国第二王女であり、ここにいるアルベルト・シュワード様の婚約者です。
宜しくお願い致します」
そう礼をすれば、エドガー王子はクスクスと笑う。
「ふふっ、アルベルト王子、君が心酔しているお姫様は、凛としていて素敵な婚約者だね」
その言葉にアルは軽く瞠目すると、私を見て顔を赤らめる。
あら、と私は少し笑って「そうだと嬉しいです」と言ったのだった。
追加キャラ二人出せた!!
魅力的にかけるよう、頑張ります!




