3.転校生と婚約者様と
「「……」」
「……あの、えーっと……」
私はだんまりを貫く(視線で睨み合っている)アルとリアムさん……いえ、リアム君に溜め息を吐いた。
(困るわ、何この状況……)
私達はあの後、3人でお話することになり、テラスに向かった。
テラスにあった四角いテーブルを囲って、私の横にはアルが、その向かいにはリアム君が座った。
(……でも本当にこの子が男の子だなんて……)
陶器のように白い肌。 ぱっちりとした紫色の瞳。
白く長い髪を高めのツインテールにして、紅茶を飲む姿は、本当にお人形さんみたいだ、とまじまじと見つめていると不意に視界を遮られる。
見れば、アルが私を見て拗ねたような表情をしていた。
どうやら見るな、とアルが私の目の前に手を出して私の視界を遮ったらしい。
「……そんなに他の男ばっかり見ないで」
「だって、この子が男性と言われても全然ピンと来ないんだもの。 可愛いと思わない?彼」
「いや、クラリスの方が桁違いに可愛い」
「っ」
……何でこの人はいつも恥ずかしげもなくこういうことを言うのかしら……!
(しかも人前で!!)
私を火照った顔を誤魔化すようにリアム君を見れば、リアム君は遠い目をしている。
「ご、ごめんね、リアム君」
何のフォローをすれば良いか分からず、とりあえず謝っておこう、と思った私は謝ると、リアム君は首を振る。
「君が謝るようなことじゃないから気にしないで。 ……それより、そっちのさっきから睨んでくる王子様をどうにかして欲しい」
「ご、ごめんなさい……」
アルはふんっとそっぽを向く。
(んもうアル!)
と目で怒りながら肘で小突く。
その光景を見ていたリアム君が一言、ポツリと呟いた。
「大変だね、こんなに嫉妬深い王子様が婚約者様で」
(!! あ、アル抑えて抑えて……!)
アルが殺気立つのが分かって、私は慌ててアルの握った拳に手を置きながら、「でも幸せよ」と付け足す。
リアム君は目を見開いた後、また遠い目に戻ったから私はフォローの仕方を間違えたかしら、と首を傾げるとアルが吹き出した。
(何で笑うのよ)
とジト目で見れば、アルはふふっと今度は誤魔化すように笑った後、リアム君を見て言った。
「もう私のことは知っているようだけど、一応自己紹介しておくよ。
私はシュワード王国第一王子、アルベルト・シュワード。 そして、クラリスの婚約者だ。
宜しく頼む、リアム君」
「……はぁ、牽制ね」
「?」
リアム君の溜め息と“牽制”といった意味が分からなくて首を傾げる。
その後リアム君も自己紹介をして微笑んだのだが、その笑みが何故か黒い。
……勿論、アルも。
そんな二人の黒い笑みのやりとりを見て、私は絶対にこの人達は二人きりにしてはいけない、と悟ったのだった。
☆
「え!? あの人、男性なんですかっ!?」
私と馬車に乗ってからすぐにアルとリアム君のやりとりの一部始終を言うと、ルナは第一声に驚きの声を上げた。
「そうでしょう? 私も驚いてしまってリアム君をまじまじと見つめてしまったんだけど、未だに信じられなくて……」
「……アルベルト様は鋭いと言うか、凄いというか……本当にクラリス様バカなんですね」
そう言って感心したような、呆れたような溜め息を吐くルナ。
「ほ、本当よね……」
と、これには反論できず私も同調してしまう。
(だって、あんなにリアム君は可愛いのに、私にリアム君が近づいた瞬間、容赦なく引き剥がすんだもの)
「……クラリス様に近付く男を容赦しない性格故に直ぐにリアムさんが男だと気が付いたのか、はたまたリアムさんを一目見て女の子ではないと気付いたのが先なのか……うん、どちらにせよ凄いクラリス様への執着心です」
ルナは真顔で私が感じていることを全て言い退ける。
それに私は、軽く頭を抑えながら答える。
「……真顔で言わないで頂戴。 私を溺愛してるって、それはもうヒシヒシと、怖いくらい伝わってきてるのだから……」
……それを私は嬉しいと感じているのだから、もう私自身もアルの虜、というか手遅れなんだわ……。
(……後で、アルとお話しした方が良いかしら。
こういう時にピアスを使うべきよね……)
……あまりアルともお話ができなかったし、今夜話してみよう。
(“学校では秘密にしたいから、城にいる間はピアス付けてるね”って嬉しそうに言っていたし……その時点で、アルの愛は深いわね)
なんて思いながら、私は小さく笑ったのだった。
☆
私はこの前と同じく、ルナが部屋から出たのを見計らってピアスを付けて魔力を流し込む。
『アル、アル、起きてる?』
と呼べば、すぐに耳がひんやりとした。
『あ……クラリス』
少しだけ眠そうだけど、嬉しそうな声に私もふわっと胸が温かくなる。
『……ごめんね、寝てた?』
『いや、クラリスと話そうと思ってたけど寝てるかなと思って、寝ようとしてた』
『もう少しタイミングが早ければよかったわね。 少しだけ時間、大丈夫かしら?』
私が申し訳なくてそういえば、アルは『いやいや全然大丈夫! 今凄い目が冴えてるから!!』と元気よく返事をしたアルに私はくすくすと笑ってしまう。
『ふふっ……私は、幸せ者ね』
『え?』
私の言葉に、アルは驚いたような声を上げる。
『アルに愛されてるなって、改めて今日感じただけよ』
そう私が言えば、アルからうっと何か呻くような声を上げる。
『え、あ、アル? 大丈夫?』
心配になって声をかけると、アルは『〜〜〜あぁ、もう!』と何か怒ったように言ったかと思えば、ポツリと呟いた。
『……クラリスが僕の側にいれば、今すぐ抱き締められたのに』
『!? あ、ああアル!!』
耳元で囁かれてるみたいなんだって!!
と思わず心の中で突っ込みながら、あまりの破壊力にピアスを反射的にとりかけて、私は慌ててその手を引っ込める。
『そ、その話よりリアム君のことなんだけど』
『……リアム?』
その口調から伝わってきた冷たい口調と、心なしか耳が冷た……いや本当に冷たいわ!!
『ちょ、ちょっとアル! 魔法抑えて! 冷静になって!!』
『っ、あ、ごめん。 つい反射的に魔力が……』
つい反射的にって……全く、私の口から男性の名前が出ただけですぐこうなるんだから……。
『リアム君のことは私、女の子だと思って接してしまっただけなの。
……誤解しないでね?』
『……ははははっ』
『えっ?』
突然笑い出したアル。 ……私、変なこと言ったかしら?
『ふふっ、気付いてないの? クラリス。
それってまるで、僕に勘違いしてほしくないみたいな物言いだよ? 僕のこと、大好きなんだね』
嬉しい、と笑いながら言うアルに、私は思わず顔を赤くする。
(そ、そう聞こえるわよね!? た、ただアルが誤解してるかもと思ったから言ったことだけど……!)
私はその考え自体がアルに勘違いしてほしくないということなのでは、と冷静に考えて恥ずかしくなる。
黙った私にアルはくすくすと笑った後、真剣な口調で言った。
『一応、僕は調べたんだ。 リアムのこと。
何故女装するかは分からなかったけど、学校は容認しているみたい。
……ちょっとよく分からないけど』
『まあ、ランドル国自体が基本、罰を犯さない限り緩いからそうなるわよね……』
主にお父様がそういう方だから、と含めて私は苦笑いすると、アルは『僕には厳しいけどね』と苦々しく言う。 それは婚約者だからね、と苦笑いした後、私はリアム君の話題に戻す。
『まあ彼も彼なりに何か考えているようだし、女装のことは周囲に迷惑をかけない限り、黙っておこうと思うの』
『え、それでいいの?』
『自然とバレるでしょう。 私達から何も言い出さなくても、彼もすぐに言うと思うわ。
勿論、危うい行動をしたら指導はするつもりよ』
私がそう言うと、アルは少し溜め息を吐いた後、『それもクラリスの仕事なの?』と言った。
『んー……でも、今のところ私以外に男の子だって知ってる人は、アルとルナとクレイグくらいじゃない?』
『……じゃあせめて、ミリア嬢とかにも言っておいて。 それで、なるべく二人きりにならないように行動して。
僕はあまり。あの子を信用していないから』
声のトーンを落とすアルに、私は少し驚く。
(……アルが信用していないなんて言うのは初めてかもしれない……)
『……分かったわ。 そうする。
私とアルの不仲説なんて飛び出しかねないものね』
『……ふふ、その時は僕が堂々と皆の目の前で仲良くすれば良いだけだけどね?』
……聞かなかったことにしましょう、えぇ。
そして、絶対に気をつけましょう。
(……“アルと私の不仲説回避”のために、私はこれから作戦会議よ……!!!)
こうして、2学期初日、そしてゲームの続編初日は幕を開けたのである。




