2.続編の転校生
「え、この時期に転校生?」
「そうらしいです。 私も噂で聞いただけなので、詳しくは分からないのですが……」
私は、ミリアさんの口から出た“転校生”とい言葉に、内心で溜め息を吐いた。
(……これでまた、“聖ランドル王立学園”に新たな追加キャラが加わる、というわけね……)
“追加キャラ”……十中八九、何人出るか分からないこの追加キャラ達が、今回のキー人物となることは間違いない。
……記憶がないから何も言えないけれど。
(……本当に、私の記憶って全く役に立たないわ……)
そんなことを考えていると。
「わっ……!」
「えっ……」
横から来た女の子と、ドンッと、ぶつかってしまった。
……どうやら、その子が慌てて走っていたらしい。
(……というか)
……可愛い……。
主人公のミリアさんも可愛いと思っていたが、この子も恐ろしく可愛くて。
白髪紫眼。 その白い髪には、ツインテールが施されている。 まるでお人形さんのような白い肌。
思わず見惚れていると、その子は伏せた目を私に向けた。
視線が絡み合う。
……ドクンッと、何故だか、胸騒ぎがする。
(……あれ、私、この子を、何処かで……)
「……クラリス、様?」
ハッとすれば、その子の口からわたしをよぶ声がした。
何処か中性的な声のその声を、私はやはり、何処かで聞いたことがあると錯覚する。
「ご、ごめんなさい。 ついボーッとしてしまって。
……立てるかしら?」
とりあえずその子を立たせなくては、と私は手を差し伸べる。
すると、その手を見て、何かボソッと呟いた気がしたけど、私の耳には届かなかった。 聞こえなくても良い言葉だったらしく、私が聞き返そうとするより先に、その子は私の手を握ってスッと立った。
立ち上がって気がついたことだけど、私より身長が高い。
そこまで変わりはないけど、私は女の子の中でも背は高い方だから、この子があまりにも可愛いから、まさか私より高いとは思わなかった。
そして、それと同時にふと疑問が湧いて首を傾げる。
「私、この学園で貴女をお見かけしたことがない気がするのだけど……もしかして、貴女が“転校生”かしら?」
そう言った私の言葉に、その子は「はい、そうです」と淑女の礼をして言った。
「私は、リアムと申します。
クラリス様の仰る通り、今日からクラリス様と同じクラスで一緒に授業を受けさせて頂くものです。
宜しくお願い致しますね」
私は、リアム、という言葉を聞いて、少し頭がキンとした。
(……やっぱり、私、この子と……)
「……あの、変なことを聞いてもいいかしら?」
私の言葉に、リアムさんは「どうぞ」と微笑みながら言う。
「私……何処かで貴女と、お会いしたことがあるかしら……?」
頭の中で、引っかかる。
……何か、大切なことを、忘れているような、この子を見てるとそんな気にとらわれる、なんて……。
「……」
彼女は、少し驚いたような顔をして私を凝視した。
そして、その目がふっと和らぐと、ふふっと笑った。
「クラリス様、それではまるで、殿方の誘い文句のようですよ」
「っ! ご、ごめんなさい!
そんなつもりではなかったのだけれど……ただ、少し懐かしいと、そんなことを思ってしまっただけで……ごめんなさいね、変なことを言って」
私がそう言うと、リアムさんは何処か一瞬寂しそうな顔をした、と思ったら、「いえ、大丈夫です」とまた微笑んだ。
(……? 私の気のせいかしら)
彼女が一瞬見せた表情を、私は彼女と別れた後もその意味を考え続けたが、結局答えは見つからなかったのだった。
☆
「わぁ! 綺麗なところですね!」
そう私の隣で、リアムさんは嬉しそうに学園の庭園を眺めて言った。
リアムさんは出会った時に言ったように、私達と同じクラスになった。
しかも彼女は、私達よりまだ一つ年下。
……つまり、飛び級してきたのである。
特質魔法は“風”。 しかも珍しいタイプで、家に爵位は無く、庶民の出らしい。
そして、両親は他界しているらしく、聞いてしまった時に申し訳ないと思ったけど、彼女は気にしていないと笑って答えた。
(……この子が、続編のゲーム内でのキー人物……ミリアさんの時も思ったけど、このゲームのキャラクター達、アルやローレンス、シリル以外は結構生い立ちが可哀想な気がするわ……)
なんて考えていると、リアムさんが急に私の目の前に来たからびっくりしてしまう。
思わず後ずさると、「動かないで」と指摘され、私は何が何だか分からず、とりあえず大人しくしていると、私の頰にリアムさんの指先が触れる。
驚いていると、リアムさんは悪戯っぽく笑って「はい! 取れました」と指先を見せてきた。
見れば、睫毛が付いていた。
「あ、有難う」
「いえいえ、どういたしまして」
にこっと微笑むリアムさん。
(本当に、顔が綺麗すぎて驚いてしまうわ……)
美形はアルやローレンスといった、乙女ゲーム上の攻略対象キャラクター達を見てるから、免疫は付いているはずなのに……なんて考えていると。
「!?」
急に肩をぐいっと誰かに引き寄せられ、突然のことに私はトンッと、その人の胸に頭を預ける形になってしまう。
上を見上げれば、そこにいたのはアルだった。
……そして、何故か怖い顔をしてリアムさんを睨んでいる。
「あ、アル? 顔が怖いわ」
「それは、わざと怖くしてるからね」
なんて、私の方には見向きもせずにリアムさんを睨み続けるアル。
そして一言、信じられない言葉を言った。
「クラリスに近付くな」
「???」
私はその言葉に、頭がハテナマークでいっぱいになる。
「あ、アル? 何故嫉妬してるの??
……この子は、女の子よ?」
私の言葉に、今度はアルがハテナマークを浮かべながら言う。
「何言ってるの? ……こいつ、男だよ?」
「え……?」
こいつ? 男??
言葉遣いが悪い、そういつもなら注意するけど、内容に驚きすぎて言葉を失う。
私はアルの視線の先を辿ってみれば、リアムさんを真っ直ぐに見ている。
そのリアムさんは、「うわ、速攻バレた」とつまらなそうに言った。
……? バレた??
「あーあ、つまんないの。 僕、女装でバレたこと殆どないのに。
……さすが、アルベルト様」
「女、装……?」
唖然としていると、リアムさんは私を見て「騙しちゃってごめんね」と軽く笑いながら言う。
「えーーーーーーーー!?」
女の子、と思って接してきた私の数々の行動にショックを覚え、私は悲鳴に近い叫び声を上げたのだった。




