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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第1章 恋の魔法にかけられて
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番外編SS-シュワード王国③

 その日の夜。



 私はルナが出て行ったのを見計らうと、寝台の引き出しから大切にしまっておいたアイスブルーのピアス……アルが今日くれたものを耳に付けた。

(……少し、緊張するわ)

 こんなに夜遅くにアルの声を聞くなんて、子供の時以来だと嬉しく思いつつ、少し恥ずかしい、なんて考えながら魔法を込める。



「あ……アル?」

『クラリス? まだ起きてたんだ』

 遅い時間帯だからもう寝ちゃったのかなと思った、とアルの柔らかい声が耳元で聞こえる。

 少しくすぐったく思いながらも、私は『忘れるわけないでしょ』と怒る。

『ふふ、そうだね。 クラリスは、約束破ったりしないもの』

『……っ』




 アルはすぐ平気で人が恥ずかしくなるようなことを言う。 さらっと褒めたり甘い言葉を言ってみたり。

 その度に翻弄されるこちらの身にもなってほしい。

(……でも、私は間違いなく幸せだ)

 ……この胸のドキドキは、幸せな音。 これがもし、奪われたりしたら。




『……アルは……』

『ん?』

『もし……シュワード王国の第一王子として生まれてなかったら、今頃自分は何してたかとか、考えたことはない?』

 私はそうアルに聞いたけど、アルは何も答えなかった。

『……アル?』

 寝たのかと呼びかけてみると、『あ、あぁごめん』と一拍置いて答えが返ってきた。




『そういうのを考えたこと、そういえばなかったなぁ……でも確かにそう言われてみれば、今がどれだけ恵まれていて、どんなに尊いことか考えさせられる気がする。

 ……そっか、クラリス今日このことを考えてたの?』

『……うん』



 私は少し恥ずかしくなって枕に顔を埋めて頷くと、アルはふっと笑った気がした。

『それで、僕の顔を見て、もし第二王女じゃなかったら僕と会えなかったんじゃないかって考えて、泣きそうになってたんだ』

『っ……だ、だって! それは』

 しょうがないでしょう、と怒ろうとしようとしたら、アルは『そういう僕だって、クラリスがいない世界なんて考えられないけど』なんて言うから、驚いて口を閉じる。



『……僕はね、クラリスと出会えたことは、運命というより奇跡だと思うんだ。

 変なことを言うけど、僕はクラリスに助けられてこの命がある。 ……クラリスは覚えていないかもしれないけど。

 でもそれだけじゃない、僕はクラリスが側にいてくれたから今がある。

 クラリスがいない世界なんて、僕には色がない世界と同様なんだ』

『っ、大袈裟よ……でも気持ちは、私だって一緒だわ。

 ……私はアルの言う通り、アルを助けた記憶はない。 だけど、もし本当にアルの命を助けられたのだとしたら、私は過去の自分を褒めてあげたい。 よく頑張ったねって。

 だって、私だってアルのいない世界なんて考えられないから。 ……アルがいないと、私は今もこの先の未来も、生きていけないわ』



 私がそう言うと、アルは何も言わずにただ沈黙が流れる。




 どのくらい経っただろうか。






 私から話しかけようか、と口を開こうとしたのと同時に耳元が冷たくなる。

『……どうしよう、クラリスが僕と同じ気持ちでいてくれてるんだって思うと、顔がにやけて止まらないんだけど』

『え、ちょっとその顔のアルも見たいような気もするわ』

 なんて返すと、変な会話をしてるなとふと気が付いて、おもわず笑ってしまう。

 アルも笑い出して、二人でくすくすと笑っていると『元気出た?』とアルが穏やかな口調で言った。



 私はその言葉に、『えぇ』と言うと、『良かった』とアルはホッとしたように言った。

『そうやってクラリスは笑っていて。

 僕はクラリスの笑った顔が好きだから。

 ……でも、もし泣きたい時は、僕の胸で泣いていいから』

『! ……ふふっ、有難う。

 でも最後の一言は、ちょっとアルのやましい気持ちが入っているような言葉に聞こえるのは、私の気の所為?』

『気の所為だよ〜』


 格好いいことを言った後に、わざと声色を変えてふざけたように言うアル。

 ……でも私にはその言葉はとても嬉しくて。

『……アルの前では自分が王女だってこと、忘れそうになるわ』

『ふふ、僕も。 クラリスがいれば、この身分もどうでもよく思えてくるから不思議』

『そ、そういうことは言ってはいけないし、そう簡単に身分を放り出して欲しくないわ。

 ……その気持ちは、嬉しいけれど』



 私がそう言うと、アルは『今日は珍しくクラリスが素直……!』なんて言うものだから、もし目の前にいたら頰を抓るぐらいは出来たのに、なんて思っていると、瞼が急に重くなる。




(……ホッとしたのかしら、眠くなってきたわ……)

『クラリス、そろそろ眠いでしょう』

『……でも、もっとアルと、お喋りしたい……』

 私は眠くなって目をこすりながらそう言ったけど、アルから返答がない。

『……アル?』

 不思議に思って呼びかければ、慌てたようなアルの声が聞こえてきた。



『っ、く、クラリス、それ無意識なの!?

 ……と、とにかく、クラリスは早く寝て! じゃないと、僕が眠れなく……ゔっゔん、これ以上起きるのは体に良くないから、ちゃんと寝るんだよ。 分かった?』

 アルが何か言いかけて、言い直した言葉が若干お母様みたいだなぁ、なんてぼんやりと睡魔に襲われながら考えつつ、私はふわぁっと欠伸をしてから答える。




『有難う、そうするわ。 おやすみなさい、アル』

『っ、うん、お休み、クラリス』





 ピアスの魔力が消える。





 私はそれを確認した後、どっと強い睡魔に襲われてそのまま寝てしまったのだった。







 ☆







「おはよう、アル」

 朝。

 シュワード王国にいる間、一緒に朝ごはんを食べようとアルと約束しているから、食堂に行けば、先に食堂に来て座っていた。

 そして後ろから声をかけると、振り向いたアルの顔を見て、まあ、と私は驚く。



「アル、目の下に隈が出来てるわよ? あの後眠れなかったの?」

 アルの綺麗な目の下には、うっすらと隈が出来ていた。

 あまり見かけない姿に驚いていると、アルは「大丈夫、ちょっと眠れなかっただけだから」と言った。

 その言葉に、壁際に立っていたクレイグがぷっと吹き出す。 それを見て睨むアル。



(……よく分からないけど、まあ日常会話のようなものね)

 なんてアルとクレイグの目でのやり取り(一方的にアルが威圧してる図)を見てルナと苦笑いを浮かべながら、アルの向かいの席に着く。

 そして私とアルは、談笑しながら朝ごはんに舌鼓を打つのだった。







 ☆








 時間が流れるのは早い。

 特に、楽しければ楽しいほど、大切な時間であればあるほど、そう感じてしまう。


 


「えぇ、もう帰らなきゃいけないの〜」

「我儘言わないで下さい、クラリス様。 アルベルト様とはまた来週会えるでしょう」

 ルナの呆れたような言葉に私は言い返す。

「それもそうたけど、シュワード王国に次いつ来れるか分からないじゃない!」

「え、クラリスのなかでは僕<シュワード王国!?」

「嘘よ、冗談」

 ……半分本気だけど。



 なんてアルのしゅんとしたような顔に、私は「ごめんねってば」と言いながら、本当にアルは子犬のようだと、可愛いとさえ感じてしまう。


 今日でシュワード王国に来て1週間。

 私は帰らなければいけない。

 アルとも、この国とも離れるのは寂しい。 ……アルとは1週間後に学校から始まるから、すぐに会えるのだけれど。



 ……でも、もっと一緒に色々なところに行ってお話したかったなぁ、なんてアルの顔を盗み見ながらそんなことを考えていると、バチっと視線が合って慌てて目をそらす。



 アルはそんな私を見て「ふふっ」と言いながら、私に顔を近づけて囁いた。

「名残惜しそうだね? 寂しい?」

「っ!! そ、そうやって顔を近づけるの反則だってば……!」

 私が顔を赤くして怒ると、アルは舌を出して「昨日の仕返し」と言いながら笑う。

(仕返しって何)

 そう思ったけど、まあ聞いても答えてはくれないだろうしいいか、なんて考えていると、ルナの呼ぶ声が聞こえた。




「……そろそろ行かなくては。 1週間、とても楽しかったわ。 有難う、アル。

 また、来週学校でね」

 そう言って馬車に向かって走っている途中で、耳がひんやりとする。

 え、と思ってアルを振り返れば、アルは私に向かって微笑んでいた。

 そして、彼はこうピアス伝いに言ったのだった。


『寂しくなったら、いつでもこのピアスを使って話しかけて』

 と。



 私は、『乱用しないようにするわ』と返して笑ってみせると、アルの驚いたような顔に満足して、馬車に乗り込む。





 ランドル王国に向けて発車した馬車の中で、私はルナに「それ、アルベルト様から頂いたものですよね?」と質問責めされそうになったけど、私はあまり多くは語らなかった。






(これは、私とアルだけの秘密。

 夏休みの、大切な思い出だから……)






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