番外編SS-侍女と騎士の出会い
ルナとクレイグの初デート、そして出会いの物語です。ルナの過去話も出てきます。
二人が課題を終わらせている時の話です。
(課題編の時系列でいうとクレイグが割り込む前です笑)
課題をやっている姫様とそれを手伝うと言ってくれくれたアルベルト様。
俺達の護衛は大丈夫だから、と前もってアルベルト様に言われたと言うクレイグと一緒に、私達はランドル王国の城下町を散歩することにした。
(……うぅ、今までどんな話をしてたっけ……!)
今までは幼馴染として仲良く話していた筈なのに、今は晴れて恋人同士。
その時はとても嬉しすぎて、姫様に嬉々として報告したのだが、いざ恋人として、と思うと何も言えない。
「……あの、さ」
「ひゃ、ひゃい!」
クレイグにいきなり声をかけられ、私は思わず思い切り言葉を噛む。
クレイグはふはっ、と笑って「俺達同じなんだな」と嬉しそうに言った。
「……同じって?」
「あぁ、まぁ、緊張するなーってこと」
「! ……ふふ、そうね!」
私はそう言うなりバッと抱き着くと、腕を絡めて歩き出す。
チラ、と上を見上げれば、真っ赤な顔で私を見下ろすクレイグ。
してやったり、と舌を少し出して微笑めば、大好きな笑顔を浮かべてくれるクレイグ。
「ルナは何処へ行きたい?」
「んー……あ、私達の“始まりの場所”でどう!?」
私の言葉に、「それは名案だな」と私の頭を撫でた後、私達は目的の場所へ足へ進める。
“始まりの場所”。
それは、昔の私達にとっては唯一の居場所だった。
姫様が建てたと言われている孤児院。
私とクレイグが出会った場所。
あの時のクレイグは、何というか、少し幼い頃の私に似ていた気がする。
☆
当時、私は10歳だった。
姫様に連れられて何度めかに訪れた孤児院。
姫様に孤児院を建てた理由を伺うと、「ルナみたいな子が一人でも多く助かるようにするためよ」と言っていた。
そんな孤児院を、私は何が何でも守りたい、姫様が大切にしているもので、私のような子達を救うために、と意気揚々と侍女として姫様に付いて行くのだった。
そんなある日……孤児院へ数回目くらいに訪れた時のこと。 いつものように、姫様は真っ先に厨房に向かう。
足りない食材がないかを聞いているらしい。
私はすることがなく廊下の片隅で待っていると、ふと外に視線を向ければ、私達と同じくらいの子達が元気に遊んでいた。
思わず顔が綻ぶ。
姫様はとてもかけがえのない場所をあの子達に作ってくれたんだ、と。
そしてふと、木陰に一人の男の子が蹲っていることに気付く。
(……ん? あの子、お友達がいないのかな……)
私は迷ったが、あの子が気になって仕方がなくて、姫様にごめんなさい、と思いつつ、その子の元に走ったのだった。
「こんにちは」
そう声をかければ、ゆっくりと視線が絡まった。
私と同じ茶色の髪と瞳。
それなのに何故か、とても綺麗に見える。
「……」
男の子は何も言わなかった。
(聞こえなかったのかな……?)
いやでも、聞こえるように言ったはずだから無視されたのか。
まあでもいいや、とそう判断して隣に座った。
男の子は少し驚いたような顔をして、じーっと私を見た。
「ねぇ、貴方お名前は?
私は、ルナって言うの」
宜しくね、と笑顔で言えば、又驚いたように目を丸くし、やがてそっぽを向かれた。
(何よ、無視なの)
私は怒ることにした。
「名前は?」
もう一度、強く言うと、その子は私を冷ややかな目で見た後、ようやく口を開いた。
「……貴族様には、とても言えた名前じゃない」
と。 ……聴きやすい、高めの綺麗な声。
そう思ったけど、よく分からないその発言に私は怒りを鎮めながらも、“貴族”と言う言葉に反応し、暗い気持ちになった。
「……私は、貴族なんかじゃない。
姫様のお隣にそのくらい偉かったら、本当の意味で胸を張って立てるのかな」
私の呟きは彼に届いたのか。 分からないけど、少し身の上話をすることにした。
「私はね、姫様に救われたの。 この孤児院を姫様が建てるずっと前……私と姫様が6歳くらいの時。
姫様は覚えていらっしゃらないと思うけど、私はよく覚えてる」
あの日は、とても寒い日だった。
私はお手伝いをして何とか得ていたご飯が、その3日前にお店が潰れたこともあって、お手伝いどころではなくなってしまった。
何も食べていない状況だけど、それは慣れているからしょうがないと思った。
……私は、盗みは良くないと知っているから、手を染めたくなくて、食べれなかったとしても、それで死んだとしても、それは天命だと思っていた。
ただ、その日はとても寒くて、ろくな服を着ていなかった私は当然上着なんて持ってなかった。
そのまま道で意識をなくしかけてもう駄目だ、と思ったその時、綺麗な女の子が私の手を取って「もう大丈夫よ、だから安心して」と言った。
この人は女神様だ、と朧げな記憶の中で笑った自分と同じ歳くらいの少女を見て、とても嬉しい気持ちになった。
その人はこの国のお姫様だった。
クラリス様といい、爵位を嫌い、皆平等だと笑顔で言う、素敵な人。
こんな汚い私を拾って手厚く夜中まで起きて看病してくれた。
そして、姫様のお陰で死ぬどころか、元気になった私を侍女にする、と言う。
周りは断固反対の中、ランドルの王家の方々だけは違った。
“訓練に耐えられるのなら侍女にさせよう”と。
私は迷った。 反対意見が多い中で、私なんかが心根の綺麗なお姫様……クラリス様にお仕えしても良いのかと。
そう漏らせば、姫様はこう言った。
「何を言っているの。
生きるために必死にここまで生きてきてくれた。
そして、私と出会ってくれた。
それのどこが汚いと言うの? それを見下すような人達こそ、“汚い”というのよ」
「“だから貴女は胸を張って、いつも笑顔でいなさい”と。 自分と同じ歳なのになんて聡明な方だと私は思った。
だから必死に、侍女になるために今でも努力しているの。
……この孤児院だって、姫様がお小遣いなんていらないから、と自ら服の一つも買わずに孤児院を建ててしまうのよ? 私みたいな子を救うんだって。
だから貴方もそんな卑屈にならないの。 こんなに素敵な居場所、他にはないわ」
そう言って笑ってみせる。
(ちょっと喋りすぎたかな)
黙って聞いているのか聞いていないのか分からないけど、私の方を見ている彼。
綺麗な瞳に見つめられて、何故か苦しくなってきた私は、「じゃ、じゃあもう行くね」と行こうとした。
すると、手を握られた。
え、と振り向けば、彼は戸惑ったような表情をした後、ゆっくりと口を開いた。
「……クレイグ。
それが、僕の名前だよ」
と。
☆
「その後、クレイグがご飯を食べれなくて困った姫様がアルベルト様に相談したら、アルベルト様が一緒に姫様と来て、アルベルト様がクレイグを怒って……無理矢理食べさせられてたよね。 ふふっ、懐かしい」
私は、孤児院の庭の木陰に座った。
「あぁ。 ……懐かしいな」
少しからかうように言ったのだけど、それには怒ることはせず、そうしみじみと言って隣に腰掛け、微笑を浮かべる彼の瞳は、昔と全く変わらず綺麗な目をしている。
「……やっぱり、綺麗ね」
「え?」
私はそう嬉しくなって言えば、「何が?」と驚いたような表情をする彼。
(姿こそ大きくて、頼もしくて、格好良くなった。 ……けれど私の大好きな人で、あの頃と面影も全く変わっていないのね)
私は驚く彼を正面から見つめて頰を撫でる。
「……私と同じ、瞳と髪の色。
なのにとても綺麗に見えるの。 会ったあの日からずっと。
……前にも言ったけど、私はきっと、会った時から恋に落ちていたんだわ」
ふふっと笑えば、クレイグは驚いたように目を見開いた後、私の髪を手にとって軽く口付けた。
「……あの時は恥ずかしかったんだ。
俺とは違う世界の、可愛い女の子。 姫様の後ろを追いかけるように走る姿を、気が付けば目で追いかけてた。
……あんな態度を取った自分が、今では何て態度を取ってるんだ、と殴りに行きたいとも思ってるし」
「!? め、目で追いかけてたって……」
クレイグはふっと笑って、私をギュッと抱き寄せた。
「……知ってたか? 俺はずっと、ルナの姿を目で追いかけてたんだ。
ルナが初めて来た時からずっと。
姫様の隣で小さく姫様を窺い見ながら、姫様の笑顔を見る度に幸せそうに微笑む姿に、俺は一瞬で心奪われてたんだ」
(……そ、そんなの……)
「知らなかったわ。 もっと早く、教えてくれればよかったのに」
私はそう呟けば、少し抱擁を解いたクレイグが「……怒った?」とおそるおそる聞いてくるものだから、私は笑顔を浮かべて言った。
「いいえ、怒ったんじゃない。
やっぱり、大好きだなって思っただけよ」
……出会ったのが、貴方で良かった。
そう小さく言えば、クレイグは目を丸くした後、「あぁ、俺も」とその後の言葉を私の耳元で囁き、その言葉に驚いた私を嬉しそうに見て微笑むと、ゆっくりと……唇を重ねた。
―――愛してる
彼はそう、私に言ったのだった。
(余談)
「姫様姫様! ちょっと聞いてください!」
「ん? 何?」
課題をやっている姫様に向かって、私はクレイグから聞いたんですけど、と言葉を続ける。
「クレイグがご飯を食べなかった時、『アルベルト様は何て言ったか知っていますか』、とクラリス様にクレイグが前に聞いてたの覚えてますか?」
「? ……あぁ、保健室にアルが前運んでくれた時に、クレイグが聞いてきたわね」(注:7話参照)
「そうそう、それです! あれはですね、」
そうきって、私はクラリス様に耳打ちする。
「……!? え、あ、アルはあの時そんなことを言っていたの!?」
クラリス様は真っ赤な顔をして頰に手を当てたのを見て、私はクラリス様の予想通りの反応に、思わず頬が緩んだ。
―――“俺のクラリスを困らせるようなことをするな”
と、幼いアルベルト様はそう仰ったそうです。




