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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第1章 恋の魔法にかけられて
35/113

☆バレンタイン編-準備

時系列ごっちゃになってしまいすみません><

ホワイトデーは西洋ではないとのことなので、バレンタインデーを代わりに書いてみました…!(笑)

これは、アルベルトが2年生、クラリスが1年生の時のお話です。(まだ付き合っておりません)

「え、バレンタイン?」

「はい! 今年もやって参りましたね!」

「うっ……」



 私はその言葉に、ガクッと項垂れた。




 2月14日、バレンタインデー。

 恋人や親しい人とプレゼントのやりとりをする日。

 本来考えたら、とても良い風習、なんだろうけど。



 力なくうな垂れた私に、ルナが首を傾げる。




「え、姫様どうなさいましたか? 姫様は今年も、アルベルト様に差し上げるんですよね?」

「っ! それが問題なのよ!!」




 私の突然の大きな声に、ルナがビクッと肩を揺らす。




「あ……ごめんなさい、つい取り乱してしまったわ」



 そう言いながら軽く咳払いをすると、ルナは戸惑いながらも、「それの何処が問題なんですか?」と気を取り直して聞いてきた。

 私ははーっと長くため息をつく。




「……アルにね、毎年、買ったものを送っていたの。

 その……私、不器用でしょう?

 去年は、ハンカチに刺繍をして渡そうとして、針で何回も指をさしてしまって、気が付いたアルがそれを禁止したでしょう、その前の年は、チョコレートをあげようとしたら、その前にドロドロに溶けてしまって……」


「……そ、そんなことも、ありましたね」




 ルナが遠い目をしながらそう答えた。




「……だから、バレンタインって私、成功した試しがないから得意ではないの。

 婚約者で一国の王子のアルに下手なものは渡せないじゃない」

「……アルベルト様なら、クラリス様から貰ったらどんなものでも喜ぶと思いますけど」

「? 何か言った?」




 ルナの言葉が上手く聞こえず、私がそう問いかけると、「いいえ、何でもありません」とルナはしれっと答えた。



「……貴女が羨ましいわ。 いつも成功しているでしょう? クレイグに渡すの」

「ぎ、義理ですよ!? たしかに、クレイグには渡しますけど……!」

「ふふ、分かりやすいわね」




 早くくっつけばいいのに、そう付け加えると、ルナは耳まで真っ赤にして叫ぶ。




「わ、私のことはどうでもいいんです! 問題はクラリス様ですよ!!

 今年は、何を差し上げるおつもりなんですか?」

「……それがね、アルにリクエストされてしまったの」

「リクエスト? アルベルト様が?」




 私は頷くと、長く息をついた。



「……毎年買ったものでなくて良いんだよって。 逆に気を遣ってると思われたみたいで……」

「あらら……」



 刺繍以外、アルはきっと私が失敗して何度も渡せなくなって、その度に買ったものをあげているのを知らないんだろう。

 そうして毎回購入したものをあげていること自体が、“気を遣われている”と思っているのだと思う。




「いやでも、それってもしかしたら、アルベルト様がクラリス様の手作りが欲しいのを遠回しに言ってるのではないですか?」




 そんなルナの言葉に、私はふふっと笑う。



「それはないと思うわ。 だって私が料理が苦手だってこと知ってるだろうし、第一私の手作りなんて別に欲しがらないわよ」

「……あぁ、全然伝わっていない……」

「?」



 最後のルナの言葉の意味がよくわからなかったが、私は「あ、そうだ!」と口を開いた。




「ルナ、料理を手伝ってくれない!? クッキーなら私、多分作れると思うの!」

「は、はぁ、それなら簡単なので、作れると思いますが……私でよろしいのですか?」

「えぇ! ルナがいいわ! クレイグも、前にルナがお菓子をあげた時、美味しいって言っていたし!」

「く、クレイグの話は出さなくていいです!」



 再度顔を赤くするルナに私はクスッと笑うと、「さ、早速作ってみましょう!」と厨房へと向かったのだった。






 ☆





「……えーっと姫様、お言葉ですが」

「……はい」

「……それ、何ですか?」




 ルナが指差した先には……黒焦げになった塊が。



「……クッキー、のつもりです……」

「……ひ、姫様、どうしたらそうなるのか、教えて頂きたいくらいです」



 ルナは完全に、オブラートに包まずにそう言って頭を抱えた。




「驚きましたよ。 姫様の料理下手なところ」

「私も心底驚いているわ……」




 まさか、ここまで壊滅的だったとは。




 ……こんなに焦げるなんて思わなかったわ。 生地が薄かったのかしら? それとも温度調節を間違えた?



「……姫様、こうなったら特訓です! アルベルト様にこのままでは渡せません!!

 ……いや、アルベルト様なら、クラリス様から貰った物なら何でも召し上がると思いますが!!

 それでも、これはあげられませんのでビシバシ、鍛えさせて頂きます!」


「ひ、ひぇっ……」



 確かに、アルにこれを渡すのはまずいと思う。 思うけれど……!




(……ルナ、目が笑っていないわ……)




「このままでは、凶器ですよ! クッキーが凶器だなんてあり得ません! 良いですか、まずはですね!」




(……あぁぁぁぁ始まってしまった、ルナのお料理講座……)






 ルナは料理が得意で大好きなことをすっかり忘れていた。

 ……小説だけでなく、料理も好きなルナは、好きなものの話をし出すと止まらない性格。



(……あぁ、今日も長くなりそう……)







 こうして、アルに渡すクッキーを作るのに、私の過酷なお料理特訓の幕が上がったのだった。






 ☆




 その頃、寮内では。




(アルベルト視点)



「……今年はクラリス、何を用意してくれてるかな……」

「はいはい、手が止まってますよ。

 集中して下さい」



 そう言って書類に目を通しているクレイグを軽く睨む。



「お前にはこの気持ちがわからないだろう。

 婚約者に全く気持ちが伝わっていない僕の気持ちが」

「……割と主は側から見たら、クラリス様のことが好き好きオーラ全開で分かりやすいんですがね。 クラリス様には伝わらないんでしょう。 ……あの方、とても鈍いですから」

「……」




 そこは同感する。




「……僕は、クラリスが何か作ってくれたものが欲しいんだ。 ……流石に、去年の痛々しい手を見て心臓が止まるかと思ったから、刺繍だけはもう絶対にやらないで欲しいんだけど」

「……クラリス様って凄い不器用ですね」

「何を言ってる、そこが可愛いんだ」

「……」



 僕の言葉に、クレイグが白眼を剥く。




「だったら、直接言えば良いじゃないですか。 告白でもなんでも」

「それが出来たら苦労しない。 ……あの子がこっちを振り向いてくれるまで、僕は待つんだ」

「……そう言ってもう何年になりますかねぇ」

「うるさいぞ、クレイグ。 集中しろ」




 そう言って書類に視線を戻せば、クレイグが「貴方様に言われたくないです!」と反論してきたが、そんなクレイグの言葉は無視することにした。






(……“直接言えば良いじゃないですか”か)



 クラリスと婚約者になって10年が経つ。




(……本当にクラリスは、僕と婚約して幸せなんだろうか)




 クラリスは、僕の気持ちに気付いていない。

 どれだけ僕がクラリスに心酔しているかも、婚約した経緯も、きっと知らない。




(……だからといって、今気持ちを素直に言ったとして、クラリスが離れてしまったら怖い)




 そう考える自分もいる。




 何も言わずに今の状況を維持するか、それとも、僕の本当の気持ちを曝け出して、クラリスに伝えるか。




(……今の関係を、壊したくないんだ)





 クラリスの側にいたい。




 例え、あの子に何とも思われていなかったとしても、僕は今を大切にしたい。





(……この心はもう少し……時間が許されるまでは、自分の中で留めておこう)





 弱気だと言われても構わない。 この関係が続くのであれば、僕はそれで良い。

 ……クラリスと家族以外で一番近い存在で居られれば、それで幸せだ。




 こうして、二人のそれぞれのバレンタインデーまでの時間は、過ぎていくのだった。

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