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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第1章 恋の魔法にかけられて
33/113

番外編SS-ヒロインとローレンスの淡い恋①

番外編一つ目です!

最初はローレンス視点、途中からミリア視点に変わります。 時系列は、ローレンス視点が1学期が始まる日の朝(まだミリアに会っていません)、ミリア視点はクラリスが3つ目のペンダントの時に悪役になったすぐ後のお話です。

①は少しせつなめです。

(ローレンス視点)




 ……幼い時の、夢を見た。



 今より随分と小さい、金髪赤眼のクラリスと紺髪碧眼のアル。


 ……歳は、5歳の時、だったか。



 笑い合って手を繋ぐ姿は、小さなお姫様と王子様そのもので。



 小さなお姫様は、「ローレンス、きいてほしいことがあるの」と嬉しそうに言った。



「わたくしとアル、きょうから“こんやくしゃ”になるんだって! みらいで、アルの、およめさんになるのよ!」



 小さなお姫様を前に、僕は一瞬面食らってしまう。



「っ、あぁ、そうなんだ! おめでとう、クラリス、それにアル」



 そういうと、クラリスとアルは嬉しそうに微笑み合う。




 ……心から、祝福したいのに。





 どうして、胸が痛く何だろう。




 幼すぎて、気が付かなかった。 ……いや、この気持ちには、気が付きたくなかった。




 もし気がついてしまったら、この3人でいられる関係が、壊れてしまうんじゃないかって。





 ……それに、心の何処かで分かっていたんだ。




 ――クラリスは、アルが好きで、アルは、クラリスが好きなんだって……






 ☆







「……っ」




 気が付けば、まだ明け方前で辺りは薄暗かった。

 俺は、小さくため息をつく。



(……又、あの時の夢……)




 ……俺こそ、アルのことを言えないほど、執着心が強いのか、なんて自嘲気味に笑い、そんな考えを消すように近くにあったグラスに入った水を流し込む。



 その水を見て、幼馴染のアルの魔法だ、なんて思い出す。



(……あの二人には、幸せになって欲しい)




 まだ二人は、両思いだと気が付いていない。



(でも俺は、決めたんだ)





 そんな二人の恋を、応援すると。











 ……俺のクラリスへの気持ちを、封印して。







「……さて、今日から最高学年だ」







 俺はわざとそう明るく言って、もやもやとした気持ちを吹っ切るように大きく伸びをした。










 ☆







(ミリア視点)


 この学園に入ってから2ヶ月が経とうとしていた。


「ミリア嬢、今日は何処を案内致しましょうか?」

「え、えーっと……あ、今日は、ガーデンテラスに行きませんか? その、お話を一緒にさせて頂けたら、と思いまして……」



 恥ずかしくて小さくなる語尾。



 私の目の前にいるこの方は、時を統べる国、ディズリー王国の第二王子のローレンス様。

 銀髪金眼がとても印象的で、その容姿と穏やかな性格が相俟(あいま)ってとても魅力的な方。 ……こんな下の身分である私にも、決して蔑んだりせずに優しく接してくださる、とても素敵な方で。

(……私が、お隣に立っていてもよろしいのかしら……)



 その答えは、聞かなくても分かっている。




 私は、ローレンス様とは似合わない。

 クラリス様にも言われた。

 “王家二人と一緒に歩いているのは良くない”というようなことを。



 心の何処かで、気がついていた。 ローレンス様やアルベルト様と一緒にいる時、向けられる視線。 私が、側にいるべき方々ではないと。



 胸を張って隣に立てるのは、あの凛とした、金色の髪に赤い瞳を持つ素敵なお姫様、そして幼馴染でいらっしゃる火を司るランドル王国第二王女の“クラリス様”だけなんだと。



(……それでも、この方のお隣にいたいと、そう願ってしまう私は、“身分をわきまえない無礼な女”、なんだわ)

 陰でそう言われていた言葉に、私は苦笑いする。

(それもそうよね……当たり前だわ、そう思われて)




「……嬢? ミリア嬢? 大丈夫?」

「っ、え、あ……大丈夫です。 少し、考えごとをして頂けですから」

 いつの間にか、ガーデンテラスに着いていたらしい。

 私は心配して下さるローレンス様に慌ててそう答え、学園内の景色に目を向ける。



 ガーデンテラスは、学園の3階にあって、学園内のお庭や噴水広場を見渡せるようになっている。 普段はお茶をしたりしている御令嬢様方がいらっしゃるけれど、今日は運良く誰もいなかった。




(私は、今日お話をしようと思って、ここに来たんだわ)

 そう、今日は決めたの。

 私は、ちゃんと自分の気持ちを言おうと、そう決意して。



「……ローレンス様」

「ん? どうしたの?」




 誰もいない時は、私に敬語は使わないローレンス様。 その方が親しみやすいと、二人で話し合って決めたのだ。




「……クラリス様のことで、私、お話があるんです」

「? ……あぁ、そのこと」

 ローレンス様は、少し顔を強張らせる。 私はふーっと長く息をして、真っ直ぐとローレンス様を見て言う。




「私、クラリス様が、私を貶めようとしてるだなんて思えないんです。

 ……彼の方は、とても素敵な方。 初めてお話しした時と、噴水広場でお話しした時、なるべく私を傷付けないよう、気遣ってお話しして下さいました。

 ……ローレンス様がお慕いするのも、無理はありません」

「!? ど、どうして……」




 唖然とするローレンス様。

 その姿に、あぁやっぱり、と私は少しチクリと胸が痛くなるのを気付かぬふりをして、言葉を続ける。




「すぐに気が付きました。 クラリス様にふと一瞬向ける、まるで慈しむような視線。

 それにアルベルト様に、心の何処かで気遣っていらっしゃるような言い方も良くされています。

 ……っ、すみません! こんな、分かったようなことを言うつもりでは」

「いや、君の言う通りだよ」

 ローレンス様は、「随分バレバレなんだね」と苦笑いを浮かべ、遠くを見つめた。





「二人とはね、知っての通り小さい頃からの幼馴染なんだ。 俺達は親同士がとても仲良くて、国同士も仲が良いんだ。

 それもあって、3人でよく遊んでいた。

 そして、俺もクラリスが好きだった。 その“好き”はその時、恋愛という意味では、幼すぎて全く考えていなかったけど……。

  ……あ、これは内緒ね。 俺と君だけの秘密」




 そう言って私に軽くウインクしてみせるローレンス様に、秘密という言葉に反応して、少しドキンとしてしまう私。 ローレンス様はそれには気付かずに、そのまま話を続けた。




「いつまでも、3人で一緒にいられると、そう思っていたんだ。

 ……でもある日、2人が手を繋いでて、クラリスが嬉しそうに言ったんだ。

『今日から婚約者になるんだ』って」




 私は息を飲む。

 それは、ローレンス様の顔が、とても寂しそうだから。




「それで、初めて気が付いた。

 そう言われた時、あぁ、俺はクラリスが好きだったんだなって。

 ……幼かったんだ、心も体も。 その点では、アルよりずっと、子供だったんだ。

 アルは、頭が良かった。 運動神経もとても良いし、魔力も完璧に僕より上。

 今考えれば、アルはずっと、クラリスばかり見つめていた。 恋心に気が付いたのも、ずっとアルの方が早かったんだと思う。

 気が付いた時には、もう、彼女は手の届かないところにいた。

 ……なんて、それはもう過去の話で」



 ローレンス様がそう言って左手を伸ばして、下げそうになったところを、気が付けば、私は両手でその手を握っていた。

 驚くローレンス様。 私も、驚いてどうしよう、と焦るけど、ゆっくりと口を開いた。




「わ、私は……ローレンス様のお気持ちが、痛いほど分かる気がします。

 手の届かない距離にいる人を、追いかけてしまう。 ……例えそれが、無理だと分かっていても。

 っ、それなら私は、その人の幸せを、願うことにしているんです。

 ローレンス様がお慕いしている方を、私も応援します。 ですから……!

 ローレンス様は、クラリス様の無実を証明しようとしているのですよね?

 それに私も、何かお手伝いすることが出来ませんか?」




(……我儘なのは、分かってる。

 でも、せめて、お慕い申し上げている人……好きな人の願うことを、叶えてあげたい。

 私に出来ることなら、何でも……)



「どうして、君はそこまでクラリスを庇えるの?」

 いくら犯人が違うかもとはいえ、そこまで庇おうとするのか。 と、ローレンス様は言いたいんだろう。

「……そうですね、不思議だと思うのは当然です。 私は、被害者ですから。

 でも、クラリス様がやったとはどうしても思えない。

 ……それは、彼の方の性格を考えてのこともありますが、なによりも」







 私は、そこで区切って大きく息を吸うと、戸惑うローレンス様の瞳をじっと見つめ、微笑んでみせる。








「……私は、好きな方の思い人という点で、クラリス様の無実を証明したいです。

 お役に、立ちたいんです」








 声が、震える。




 体も、心も震えている。








 どれくらい、見つめ合っていただろうか。











 私の言葉に、ローレンス様はやがて、私が初めて見た、少しだけ泣きそうな表情で笑顔を浮かべて、一言「有難う」と、私に言ったのだった。



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