31.恋の魔法にかけられて
無事に私とアル、それからルナとクレイグが晴れて両思いになったことに浮かれていた……のもつかの間。
「……っ、やっぱり、怒られたじゃなーい!」
案の定、校長であるお父様にこっぴどく叱られた。
……勿論、それは表彰式を引っ掻くだけ引っ掻き回して途中退場したからである。
私はアルに詰め寄ると、アルは「でもクラリスが無罪なのに有罪にした校長が悪い」と尚も開き直ったまま。 私は深く溜め息をついた。
「……学園一の秀才と呼ばれているアルベルト様がこれでは、この学園も世も末ね……」
「何を言ってるの。 こういう時にその名前を使わずして、いつ使えばいいんだ」
「……やっぱりもう手遅れだわ」
なんて開き直りのアルベルト様に呆れていると、向かいから親しげな男女が現れる。
「あっ、クラリス様〜!」
「ミリアさん!」
私達は近くに来ると、淑女の礼をした。
そしてミリアさんを見、そしてローレンスを見て私は察する。
「……あら、二人とも婚約者になったのね」
「!? ど、どうしてそれを」
先に口を開いたのはローレンスだった。
「ふふ、だって、とても仲睦まじいんだもの。 腕を絡めてるから、すぐにわかったわ。
…… あ、やめなくていいのよ? 私も、アルと両思いになれてとても嬉しくて、さっきまで離れたくないと思ってたもの」
うふふと笑いつつ、アルが調子に乗って私の腰に腕を回して来ようとしたのを、指でつまんで阻止しながらそう言うと、ローレンスは苦笑いを浮かべた。
「はは、若干まだアルの一方通行に見えなくもな……ごめん、嘘だって。 全く、すぐアルは、魔法を使おうとするんだから」
この前は、全水道の水ストップしたよね、クラリスがいない時に、なんてローレンスが衝撃の爆弾発言をしたので、私は一瞬ふらりと眩暈がした。
(……“未遂”って言ってたのに、それは全くの嘘ってことね……!)
私がジト目で見るものだから、アルは「は、はは」と引きつり笑いを浮かべる。
「……今の言葉は、不問にしといてあげるわ、アル。 その時は、私を思ってやってくれていたみたいだし、しょうがない、ということにしといてあげるけど……いい、今度そんな勿体ない魔法の使い方をしたら、アルのお父様に言いつけるから!」
温厚なアルのお父様……現シュワード王国の王様は、アルに対してはとても厳しい。
例えば、昔あった例でいうと、言うことの聞かないアルを、自分からは出られない水牢に一日入れていたことがある。 (結構酷いとは思うけれど、その時のアルは反抗期真っ盛りだったので、アルがしでかしたことも酷かったから、自業自得だと思う。 ちなみに、一日で済んだのは、私が王様に可哀想だと訴えたからである)
そして、とても私の父とも仲が良いのだ。
「は、はは……気をつけます」
大人しくシュンとした子犬のようなアルを見ていると、ローレンスはまた笑って言う。
「尻に敷かれてるね、アル」
「……うるさい、ヘタレなローレンス」
「おいおい、ヘタレって……」
男同士の変な会話をしているのを横目に、私はそんなローレンスをじっと見つめて、楽しそうにしていたミリアさんに一歩近づくと、手を差し出した。
「え……?」
これには、ミリアさんも、何も言わなかったアルやローレンス、それからいつの間にか来ていた侍女達もびっくりしている。
「……今まで、ごめんなさいね。 変な芝居をしてしまって。 私は、貴女にとても助けられてばかりだわ」
「い、いえ! 滅相もありません!! こんな私を助けて下さったのは、クラリス様の方です!!」
「ふふ、心根が本当に綺麗ね。 ローレンス……いえ、ローレンス様がお慕いするのも、無理もありませんわ」
私の言葉に、ミリアさんは笑う。
「いえ、そんな。 ……ローレンス様は、私には勿体ないお方。 私も、クラリス様のようにアルベルト様のお隣で胸を張って立てるよう、精一杯頑張ります」
そう言って、「あ、後」とミリアさんが付け加えた。
「私にお気を遣って下さるのは有り難いのですが、その……ローレンス様のことは、今まで通り呼び捨てで大丈夫です」
「え、でも」
「幼馴染なのに、他人行儀なのは、良くありませんし、私は幼馴染という繋がりが、とても素敵だと思うんです。 だから、その……今まで通りに、して下さい」
「……ミリアさん」
(貴女は、本当に……素敵な、ヒロインに相応しい、立派な淑女よ)
「……お言葉に甘えて、今まで通りに、ローレンスと接するわ。 でも、嫌だったら、嫌だとはっきり言ってね。
……それから、私からもお願いしたいことがあるの」
「はい、何でしょう?」
「私と、お友達に、なって下さらない?」
「え……い、いいんですか!?」
食い気味に、目をキラキラさせてそう言うミリアさん。
「え、えぇ。 ……そ、そんなに嬉しいことなの?」
「はい! だって、私の憧れですから!!」
そう言って、私の手を取るミリアさん。
うっと、とても綺麗な翡翠色の瞳で私を見るものだから、つい恥ずかしくてアルの方を見れば、ククッと笑っている。
(……アルを見たのが間違いだったわ)
内心少しアルに対して怒りを覚えながらも、私はその手を握って軽く握手する。
「宜しくお願いね、ミリアさん」
「こちらこそ、宜しくお願い致します! クラリス様」
そうして笑い合う私達を、皆が温かく、見守っていた。
☆
こうして、ランドル王立学園―恋の魔法にかけられて―の舞台は、結果的にローレンス……いえ、内容が変わりすぎて誰のエンドかは良くわからないものの、とりあえずハッピーエンドでその幕を閉じたのだった。
これで、平穏は訪れる、私はそう思っていたが……。
ここは、ゲームと同じ世界の中の現実であり、突如現れた“悪魔”の存在が、私達に着々と忍び寄ってきていること、それから、
ゲーム上のヒロインであるミリアさんとお友達になったことで、これからの事件に巻き込まれていくことになろうとは、私には想像が……いや、ドジっ子故の忘れがちな性格から、この時、すっかり忘れていたのである。
第1章 『恋の魔法にかけられて』END




