30.小説の中の騎士様よりも *ルナ視点
「クレイグ、釣り合わないだなんて言わないで」
私の言葉に、クレイグは「でも、俺は……」と唇を噛みしめる。
「……アルベルト様どころか、爵位を持っていない」
「そんなの、私も一緒よ」
「……アルベルト様みたいに、格好良くない」
「あら、何を言っているの。 貴方は十分素敵よ。 立派な騎士様じゃない」
「……俺は、」
「って、そうじゃないのよ!!」
私の大声に、ビクッとなるクレイグ。
「……急に、大声を出してしまって、ごめんなさい。 クレイグが十分かっこよくて、頼りになって、人一倍頑張って短期間で騎士になって……それをひっくるめて、今のクレイグがいるの。
……だから、そうやって自分を卑下するような言い方はしないで」
お願い、というと、クレイグは少し顔を赤くしながら口ごもる。
そして、黙って頷いたクレイグを見て、私は今度は笑ってみせる。
「クレイグは、私には釣り合わないくらい素敵な人。
出会った時は仏頂面で、何だこいつ! って言いたくなるくらい酷い顔して私を見るものだから、思わず殴りそうになったけど」
「……ごめん」
落ち込むクレイグ。
「あ、ち、違うのよ。 言いたいのはそこじゃなくて……、私は、貴方を放って置けなかった。
危なっかしくて、でもとても繊細で……どこか私と、似たものを感じたの。 姫様に拾われる前の私と」
黙って私の話をじっと聞くクレイグ。
「だからね、その……今まで恥ずかしくて言えなかったけれど……私はきっと、貴方と出会ってからすぐに恋に落ちていたんだわ」
「え……」
それって、とクレイグが言う前に、私は「ここで一つ、クイズね」と人差し指を出して立てる。
「私が、一番物語の中で好きなキャラクターは何でしょう?」
「……え、王子様じゃないのか?」
「ぶー!! 全然違うわ! ……ま、いっか」
何だ突然、という顔のクレイグに、私は構わず、「あ、さっきと同じポーズして、敬礼っぽいの」と私は一歩クレイグから離れると、クレイグは訳がわからないと言った顔をしたものの、さっきと同じく拳を作って自分の胸に当てる。
私はそっと自分のスカートをつまむと、いつもクラリス様がしているようなポーズをして、私もお辞儀をする。
「私、ランドル王国クラリス様付き侍女、ルナは、シュワード王国のアルベルト様の護衛騎士……そして、愛するクレイグに、生涯共にいることを、ここに誓います。
……あ、生涯共には、絶対よ? 私を置いて、死ぬなんて許さないんだから!
……ゔっ、ゔん。えーっと……。
……姫ではないけれど、私の夢……貴方が私を、私が貴方を愛することを、お許し頂けますか?」
ポカンとするクレイグ。
(……や、やっぱり無理があった!?)
「ご、ごごごめんなさい! 私、クレイグがあまりにも小説の中で、私が憧れていた騎士様と、同じく……い、いえ、それ以上にかっこ良いから、そのっ、私もその中のお姫様みたいにっ……って、きゃ!?」
クレイグは、私の腰を持つと、クレイグの顔より高いところに持ち上げて、グルグルと回る。
「ちょ、く、クレイグ!? 私はもう、子供じゃないのよ!?」
いくら昔はやっていたとはいえ、今は成長した私達の体でこれをやるのはどうかと思う。
……でもクレイグが、軽々と私を持ち上げてもビクともしないところを見て、又格好良くてキュンとするのも事実で。
「ごめん、でも嬉しくて」
ついはしゃいだ、とクレイグは私をゆっくりと下ろすと、今度はギュッと私を強く抱きしめた。
……決して痛くない、私のことを考えて抱きしめてくれているんだと、そう感じる心地よい体温に身を預けると、速い鼓動が伝わってくる。
「……ふふ、鼓動の速さは、お揃いだね」
なんて少しふざけたように言えば、クイッと顎を指で持たれ、上を向かされる。
絡まる視線。
熱を帯びた瞳は、とても甘くて。
「ク、レイグ……」
「改めて言う。 ……好きだ、ルナ。
俺と、付き合ってくれないか……?」
「駄目」
そう言えば、えっ、と驚いたクレイグの顔。
「……ふふっ、違うわよ? そういう“駄目”ではなくて、“生涯私を守ってくれる”って、さっき言ってくれたでしょ?」
「っ、それって……」
「……私が、言っていいの?
結婚を前提に、私と付き合って……下さい」
途中ですごい上からだと気付いた私は、慌てて敬語を付ける。
唖然とした顔のクレイグと、どちらからともなくぷっと吹き出して笑いあう。
「……あぁ。 約束する。
俺は一生、ルナを愛し抜く。 ……命は絶対に落とさない。
だから……、覚悟して置けよ? 俺だけの、お姫様」
「! ……ふふっ、望むところよ」
なかなか格好がつかない私達。
その方が私達らしいのかもね、なんて。
今ならそう思えるわ、クレイグ。
「……私もよ、クレイグ。 貴方のことが……大好き」
その言葉に、溢れんばかりの笑顔を浮かべるクレイグ。 私も、つられて笑顔を浮かべる。
そして見つめ合うと、私達はお城の庭の片隅で青空に見守られ、ゆっくりと、口付けを交わしたのだった。
☆
(クラリス視点)
「……はぁぁぁぁああ!」
「しっ、クラリス。 もう行こう」
その告白を、こっそりと見ていた私達。
「漸く、あの子たちもくっついたわね……! 本当に嬉しいわ!」
「あぁ、そうだな。 クレイグも、あそこまでキザだとは思わなかったけど」
「あら、格好良かったじゃない」
その言葉に、アルが私をジト目で見てきたことに気づいて、慌てて付け足す。
「それよりも、私のお付きの侍女の方が、ずっと可愛いわよ!」
えっへん、と胸を張ると、「いや、どうしてそこで胸を張るの」と呆れたような目をするアル。
「だって、私は幼い時、あの子に会って……あれ、やっぱり思い出せないわ。 嫌ね、私。 忘れっぽいんだわ」
「……」
私は、んーと考えてみたけど、やっぱり思い出せなくて、そのまま話を変えることにした。
そんな私を、アルがじっと、何か言いたげな顔で見ていたことには、私は気づくよしもなかった。




