29.侍女と護衛騎士 *ルナ視点
(ルナ視点)
その頃、薔薇園の外では……
「うぅぅ姫様ぁぁぁ」
私は今日も、姫様と連呼して泣いておりました。 ただ、今日の涙はこの前とは違う、嬉し涙です……!
……取り乱しましたが、アルベルト様と抱き合っている姫様の顔は、なんとも幸せそうで。 涙腺が崩壊するのは不可抗力です! と私は考えながら、泣き続ける。
それを隣には、何故か今日は静かなクレイグがいる。
でも気にする間もなく、私の涙はおさまることはない。
「……ほら、涙を拭いて、いい加減泣き止め」
と、ようやく口を開いたクレイグが、優しいのか優しくないんだかよく分からない言葉を発したことにイラっとした私は、クレイグをキッと睨む。
「なんっで主様が長い片思いをこじらせて、ようやく両思いになったっていうのに、泣かずにいられると思うの!? 私はっ、私は……どんなにこの日を、待ち望んでいたか…!」
そう言いながら、クレイグからハンカチを受け取ってうわーん! とハンカチを濡らす。
「……駄目だ、泣き止んでくれ。 ……俺は、あんまりお前には泣いて欲しくない」
「……えっ」
驚いて、涙が止まる。
ハンカチから顔を上げて身長の高いクレイグを見上げると、クレイグの顔が少し赤い。
私も、少しつられて赤くなる。
「な、なな何を言ってるの!? そ、それはどういう意味で……あ」
私は、恥ずかしくなって無意識に向けた視線の先に、姫様とアルベルト様の姿を見つける。
問題は、その姿。
(ひ、ひひひひ姫様とアルベルト様が、キス……)
そう思ったのも束の間、そっと視界を遮られる。
何するの! と抗議の声を上げようと口を開いたその瞬間、視界が床に。
……ん? 視界が床?
「キャーーー!!! 何するのよ、クレイグぅぅ!?」
「しっ、大人しくしてろって。 お邪魔虫は退散したほうがいい。
……それに、ルナにはまだ早い」
「ちょっと、それはどういう意味、ってほ、ほんとに怖いのよぉぉ!! お、下ろしてぇええ!! 」
なんとあろうことか、クレイグが私を俵みたいに肩に担ぎあげたのだ!
宙ぶらりんの足を、ただ背中を押さえられているだけで、身長の高いクレイグに担がれて歩いてるなんて、ただの恐怖である。
……たとえそれが、好きな人だとしても。
それでも、下ろすことも止めることもなく、歩き続けるクレイグ。
「せ、せめてっ、お姫様抱っこにしてぇぇぇ!?」
なんて、半分冗談(半分本気)だけど、担がれるよりはマシ……と思った私に、クレイグはようやく立ち止まって私を下ろした。
そして、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、ヒョイっと、今度は視界いっぱいに広がるクレイグの顔と青空。
「!?!? な、なっ……!! 何してんの!!」
「お、お前がこっちが良いって言ったから!?」
「何で疑問符!? 格好つかないじゃない!!」
なんてそんな体勢のままワーギャーやっていたけど、それを側から見たら変な光景だ、と気付き私は笑い出してしまう。
「あははっ、クレイグ、おかしっ……」
「んな!? あのなぁ、恥ずかしいんだからな!? 担ぐ方がまだマシだったとはいえ!」
真っ赤な顔で怒るクレイグ。
私もつられて赤くなるけど、クレイグから目が離せない。
「……ふふっ、分かってるよ。 有難うクレイグ。
……もう重いだろうから、下ろしていいよ」
少し名残惜しいけど、なんて考えてしまう私。
「いや、全然重くない。 むしろ軽いし。
それよりも、このまま聞いて欲しいことがある」
「か、軽いって……」
その言葉の続きを言う前に、クレイグの表情が真剣味を帯びる。 その表情に思わず見惚れいていると。
「……待て、ちょっと恥ずかしくなってきた。
ルナ、視線何処か向けてて」
「……はぁ!? 何で!? この体勢選んだクレイグがそれ言う!?」
折角の甘い雰囲気が台無しだと、私は思わず言葉遣いが荒くなる。
あからさまに驚いた表情をするクレイグを見て、やらかした、と思った私はすぅっと目をあさっての方向に向ける。
「……で、話って何?」
「……あ、あー……」
妙な沈黙が流れる。
(本当に、やらかしちゃったわ……)
いたたまれなくなる私。 その時突然、クレイグが「やっぱやめた!」と大声で言ったと思ったら、私を下ろした。
(……あーあ)
嫌われちゃったかな、なんて思っていると、急に今度は私の手を取ると、ギュッと握ってきた。
「……く、クレイグ? あのう」
固まっているクレイグに恐る恐る声を掛けると、真っ赤な顔をするクレイグと目が合う。 そうしてクレイグは、やがてはは、と力なく笑った。
「駄目だ、全然アルベルト様みたいにかっこつかねぇや」
「? アルベルト様……?」
その言葉にハッとする。
(ま、まさか、クレイグは、私に……)
だっさ俺、と自嘲気味に笑うクレイグを見て、私は首を振ってクレイグの目を見つめる。
「……いいえ、クレイグ。 聞かせて。
その……格好悪くてもいいから。 アルベルト様と、比べたりなんかしないから。
……私は、貴方の言葉が聞きたいの」
どんな話でも聞くから。
と念押しをして、私は高いクレイグの身長を見上げるように、じっと見つめた。
そして、クレイグはポカンとした後、漸く意味を理解したようで、顔を赤くさせながらも頷くと、私の手を握った一回り大きな手が、ギュッと力がこもった。
そして、少し小さく、俯きがちに口を開いた。
「……俺は、アルベルト様や、お前の好きな小説の王子様みたいに紳士的じゃない。
優しさとか、手の込んだ贈り物をあげられたりしない。
だから、クラリス様が喜ぶようなことを、ルナにしてあげられないと思う。
……けどっ、俺は気持ちなら……ルナを思う気持ちなら、誰にも負けてない!!」
思わずビクッとなる。
……それは、最後に大声でクレイグが叫んだからではなく、その気持ちが、真っ直ぐと私の心に響いたから。
「……っ、だ、だから、俺は、その……
好きなんだ、ルナ。
お前のことが、ずっと……」
(……好き? 私を? クレイグが……?)
心が、震える。
そんな私をよそに、クレイグは自分の胸に拳を当てた。
……それは、騎士団がとる、敬礼と同じ意味のポーズで。
「シュワード王国護衛騎士、クレイグが、貴女に生涯、この命に代えてお守りすることを、この剣と騎士の名にかけて誓います。
……そして、貴女を愛することを、どうか、お許し願えますか、姫……?」
そう言って私の手に、口付けを落とす。
「……っ、な、なんで貴方はそうやって……っ」
「!? ご、ごめん! いきなり、気持ち悪いよな、こんなこと……お、俺なんか似合わないしさ! ほら、俺なんか、釣り合わない……!?」
私は、クレイグの頰に手を添え、グイッと私の方を向かせる。
な、な、とクレイグは顔を青くさせたり赤くさせたり忙しそう。
そんなクレイグを見て、私は微笑んで見せると、今度は私の番よ、とゆっくりと口を開いた。




