2.前世と乙女ゲームの記憶は……
「あぁぁぁぁアルベルト様かっこいいぃぃ……!!」
(……これは、私……?)
見慣れない服を着た女の子。 ……知らないはずなのに、ふとその姿を見てそう思ってしまう。
……いや、この世界を、私は知っている。
確か……そう、“日本”という国。 服は……高校の制服。 私立の、女子校に通っていて……、これは丁度、私が同じ歳の頃の記憶だわ。
前世の“私”は、ゲームにハマっていた。
乙女ゲーム……恋愛をテーマにしたものに、特に。
ドキドキ、ハラハラが堪らなく好きだった。
前世の“私”が手に持っているゲームの画面を覗き込むと、紺髪碧眼の男の子が笑っている。
……わぁ、アルベルトにそっくり……って、ん? アルベルト?
「やっぱりアルベルト様が一番素敵……!」
……間違いない、今の私が住んでいる世界は、前世の乙女ゲームで、私がプレイしていた“聖ランドル王立学園―恋の魔法にかけられて―”だわ……!
“聖ランドル王立学園”は、名の通り学園をテーマにした、魔法系の恋愛シミュレーションゲーム。
……あまり覚えていないけれど、たしかヒロインが学園に転校してきたことでスタートする。
攻略対象は4人。
水の国の第一王子のアルベルト・シュワード、時の国の第二王子のローレンス・ディズリー、アルベルトの護衛騎士兼執事のクレイグ、そしてローレンスの執事のシリル・ダンヴィル。
(全員ほぼ幼馴染と言っていいほどの付き合いだわ……。)
そんなことはさておき。
(それで、今の私のポジションは……)
「うわっ、また出たよ〜……クラリス・ランドル……」
……この嫌そうな声の前世の“私”の言葉に、思わず自分の顔を覆ってしまう。
(だって私……よりにもよって、悪役令嬢ポジションなんだもの……!)
クラリス・ランドル。 アルベルトの婚約者であり、モテる主人公に何かとつっかかる、悪役令嬢。
学園長が前国王である父、というのを盾に何でもやりたい放題……というイメージが強い。
……強すぎて、ヒロインにどんな嫌がらせをしていたのか、すっかり忘れてしまった。
(……ど、どうするのよ、これ……)
せめて、生徒1とかの方が絶対マシだったと、16年間クラリスとして生きてきた中で初めて感じてしまう。
(ルートだってメリバENDも、アルベルトENDですら、覚えていないなんて……)
……神様、前世の私に何の恨みがあったのか、教えて下さいませ……。
――こうして、前世の私と乙女ゲーム、それからゲーム上のクラリス・ランドルについての記憶は、とても朧げで、殆ど何の役にも立たないことだけが思い出されたのであった。
乙女ゲームの名前は、“聖ランドル王立学園”というシリーズで、ー恋の魔法にかけられてーは、その中の種類、という設定にしております。
続編がもしできたら、他の種類も考えたい、という思いで作っております(笑)
又、本文は私の中で短い方なので、次話から長くさせて頂く予定です。