26.答え合わせ
「はい、到着」
「ちょっと! これは本当に駄目だと思うわ!」
ポスッと降り立ったのは、いつぞやお茶会をした、ランドル城の薔薇園だった。
「ま、まずいわよ……! 後で間違いなく怒られるわ……!しかもシリルを使いすぎ!」
「ははっ、どっちも今更だよ」
なんて軽い口調で言うアルに、私は怒る。
「ねぇ、本当に戻らないと絶対やばいわよ! あんな話するだけして、誰も納得しないわ!」
「ま、校長が何とかしてくれるでしょ」
(貴方、本当にお父様の扱い雑よね……)
「それに、校長だってこうなることくらい分かってたはずだよ。
だって、クラリスが無実だってことは最初から分かっていたんだもの」
「……どういうこと?」
「その前に、僕、そろそろ腕疲れてきちゃったかも」
座っていい? なんていうアル。
ん? と私は下を見てハッとする。
(わ、私、アルにお姫様抱っこされたままだったわ……!)
「あ、アル、座ってもいいのだけれど、まずは下ろしてくれる? 」
「嫌だ」
「は!? い、嫌だって……!?」
アルはあろうことか、私を抱えたまま座り、私をアルの膝の上に座らせた。
「な、な……!?」
驚き真っ赤になる私に、アルはふふっと笑うと、ギュッと私の腰を持って抱き寄せた。
「ち、近いわ!」
至近距離で接近しているアルの顔を見つめてそういうと、アルは「んー……確かに、近いね」 と、そう言って離してくれるかと思えば、少し距離をとっただけで離してくれない。
「あんまり至近距離だと、僕の我慢がきかないから」
「な、なななんてこと言ってるのよ!?」
「あれ、クラリス、どんな想像したの?」
悪戯っぽく何処か妖艶にそう言って笑うアルに、私は「知らないわ!」とプンッとそっぽを向いた。
「ほんと、クラリスは……可愛い」
「な、何を言って……」
私は固まる。
アルの顔が、とても綺麗だったから。
(こ、この顔のスチルは、たしか……)
「……今すぐにでも、クラリスをデレデレに甘やかしてしまいたいんだけど、それをすると本当に歯止めが効かなくていつ終わるかわからないから、今はやめておくね」
「っ、そ、そうして頂戴!!」
これ以上心臓を乱されるのは、断固反対よ!!
そう心の中で抗議する私には気付かず、スッと真剣な顔になるアル。
……その顔も、とても綺麗でドキドキしてしまうのを振り払うように、私は少し視線を逸らして、「今までの経緯を説明して」と言うと、アルはゆっくりと語り出した。
☆
アルが言うには、3つ目の嫌がらせ……ペンダントの時から、私の様子がおかしいと思っていたらしい。
(まあ、あれだけ急に啖呵を切ったら、そりゃそうよね……)
私が教室内で見つけたと言ったことについては、教室内を彼女もローレンスも見落とさないよう、隈なく探していたらしく、魔力負荷のペンダントが落ちていたら気付いたはずだと、そう判断して嘘だとなった。
そして、急に態度が変わった私には、今まで誰かの物を盗んだりなんて一度もしていないのに出来るわけがない、そう判断したらしく、私のとても良い演技力だという結論に至った。
(いや、アルがミリアさんを抱いている姿を見て躍起になって演技したとはいえ、演技力を褒められるとは思ってなかった……)
そして、全く信用がなくなった私。 そしてルナが私は無実だということの経緯をクレイグ、そしてそこからアルに話したとことで、真相を探るべく、ローレンスの“時”の魔法を使って、過去に遡り突き止めた。
「って、ちょっと! ルナは何故私との約束を破ってまで言ったのよ!? それに、時の魔法は私利私欲のために使うのは禁止のはずよ!?
……まさか貴方達、許可なしに使ったの!?」
「ちょ、落ち着いてクラリス。 校長に一応許可は頂いたよ。 ……事後報告だけど」
……あぁぁ、もう、この人達は……。
時の魔法を簡単に説明すると、あまりにも壮大な魔法で、文字通り“時”を司り、過去に戻ったりほんの少し先の未来にも行けたりする。
……ただ、あまりにもその威力が強すぎるため、私利私欲、王様の許可がない場合の使用は本来禁止されている。 そして、時の魔法については、周りへの影響力が高いために情報が明らかにされていない。
現に私も詳しくは知らないのだ。
……そしてそんな魔法を、この方達はあろうことか、その掟を毎回無視してローレンスが使って怒られているけど。
「まあまあ、そんなことは置いといて……」
慌てたアルは白い目で見る私を宥めながら話を続ける。
4つ目の“教科書燃やし”の件については、クレイグに命令して私を見張っていたらしい。
だから、事の顛末を全てクレイグが見ていて、会話の内容も全部筒抜けだったと。
「私、相当間抜けね……」
そして……これは言うつもりじゃなかったらしいが、過去に遡ってミリア嬢の教科書を新しいのとわざわざ交換して、それを持ってきたらしい。
「……何がしたかったのかよく分からないけれど、それは時の魔法の無駄遣いね。 私、新しいのを用意したのに」
「ミリア嬢をこれ以上傷付けたくないと、ローレンスが自ら行ったんだ」
……僕は悪くないと、そう言いたいんだろう。
なんという幼馴染達だ。
第一、ミリアさんは複雑なはずよ。 目の前で燃えた教科書が、元通り自分の机に置いてあるんだもの。
それと過去のミリアさんだって、教科書が突然なくなって困っているはず。
彼女にとって、絶対に奇妙な怖い現象に見えるとは思わなかったのかしら……。
「それで、問題はここから」
そんな考えを私がしている間に、ここからは本当に大事な話だと、アルの表情から察して私はごくりと唾を飲む。
「……“悪魔”の件について、クラリスには知っておいてもらいたい。
君にも、大いに関わってくる事だから」
……よく分からないが、クラリス・ランドルも新しい世界に、巻き込まれているようだ。
それだけはわかった。
私は黙って頷くと、彼の話に耳を傾けたのだった。




