25.終結、そして新たな予感
「え……?」
もう、何が何だか分からない。
アルは目で誰かに合図をすると、その人が私に椅子を差し出して座らせてくれた。
「……クレイグ、有難う」
私がそうお礼を言うと、クレイグは笑みを浮かべて、壇上をすぐに後にする。
アルは満足そうに頷くと、「さて、これからそれを説明するんだが、皆驚かずに聞いて欲しい」と皆を見回して言う。
「2年の教室にやって来た転校生を、多分皆知っていると思う。
私の国である、シュワードから来た伯爵令嬢だ」
(……ミリアさん……)
キュッと、無意識に手に力が入り、スカートを握る。
「その人が入ってから最近、あまり良くない噂が出回り始め、彼女の周りで色々な事件が起きた。
……そして周りは、その犯人を私の婚約者である、そこに座っているクラリス・ランドルだと言う」
「っ……」
皆の視線が突き刺さる。 私は居たたまれなくなって俯くと、不意に影が指した。
……目の前には、こちらに背を向けて、振り返っているアルの姿で。
「……ごめんね、クラリス。 ちょっとだけ、我慢していて」
後で説明するから、と小声でそっと言われ、私は小さく頷くと、微笑みを浮かべてからまた、真剣な表情に戻って皆を見回した。
「だが皆、それが本当だと思うか? 彼女が、人の物を盗んだりするつまらないことをする人間だと、そう思うのか?」
アルの言葉に皆は息を飲む。
(……アル……)
それでようやく分かった、アルの真意。
……私を無実だと証明するために、この場を今設けてくれているのだと。
「私は、彼女はそんなことをする人だとは思えない。
……小さい頃からずっと一緒にいるんだ、彼女がそんな性格でないことは、側で見てきた私が一番分かる」
「ちょ、ちょっとアル……」
私は堪らず、小声で呼びかける。
(何で、そんな惚気みたいな言い方するのよ……!?)
そんな私の声にチラッとこちらを向いた後、ふふっと一瞬悪戯っぽく笑ったのを私は見逃さなかった。
(……んもう! 絶対、後で文句を言ってやるんだから……!)
そう決意した私は、とりあえず今は大人しくしていようと、黙って聞くことにした。
「その無実は、被害者でもある彼女が証言してくれている。
……そうだろう? ミリア嬢」
皆が一斉にミリアさんがいる方を向く。
ミリアさんは目を閉じると、決心したように「はい」と真っ直ぐにアルを見て、口を開こうとしたけど、口をつぐみ、壇上へ向かって歩き出した。
……そして、ミリアさんは壇上の前へ来ると、クルッと後ろを向いて皆の方を向いた。
「私は、クラリス様には何もされておりません。 ……私のペンダントは、クラリス様ではなく、違う方……いえ、その方に取り憑いた“悪魔”がそう仕向けたのです」
その言葉にどよめきが広がる。
(あ、悪魔……? そんなファンタジーなこと、あるの……?)
……でも確かに、悪魔がやっていた、と言ったら納得がいく。
あの時の侯爵令嬢の方の表情は、とても人間には思えないほどの形相をしていた。
「……クラリス様は、その方を悪魔憑きだとはご存知なかったのですが、その方の名誉に関わると、自分を“悪役”として、自ら犠牲になられたのです」
(……っ)
図星だった。
どこも間違いはない。
(だけど、どうして……)
「何故そんなことが言い切れるの?」
ハッとした時には、そんな言葉が私の口から飛び出していた。
沈黙の中で私の声は、しっかりと皆の耳に届いてしまった。
(……だって、信じられないもの)
酷いことをした。 彼女の目の前で、2つも、酷いことを……
「……クラリス様、私は貴女が誰よりも、爵位を嫌い、私のことを気にかけてくれていたのを知っております」
「っ、な、何で……」
ミリアさんは、ギュッと手を胸の前に置いて、鈴の鳴るような綺麗な声を少し震わせながら言った。
「私の大切な花を、守ってくれた。
私の辛い過去を聞いている間、とても申し訳なさそうに聞いてくれていた。
わざわざロッカーを鍵付きにして、私だけでは不平等だからと、平等に皆に与えてくれた」
「っ、違うわ! 私は、私は……」
もっと貴女に、酷い言葉を……
でも、声が出てこない。
「……クラリス様、もう大丈夫です。
貴女は、もう、“悪役”を演じなくていいんです。
……もう、十分なんです」
ミリアさんの翡翠色の目から、綺麗な涙がこぼれ落ちる。
それを見て、聞いていた私の目からも涙が溢れそうになったところで、アルがそっと私にハンカチを差し出してくれる。
それを受け取ると、アルは「これで、彼女は無実だ」とそう、強く言った。
「反対する者は……いないな。 まあ、反対したとしても……私が排除するが」
ビクッと皆の顔が強張る。
残念ながら、私からでは彼の顔は見れないが、口調からして貴方最近どんどん黒くなってない……? と私が疑問に思っていると、又話を続ける。
「そして、悪魔の件についてだが、これは本当の話だ。
……いつ、この学園に来て悪さをするか分からない。
だが私は、徹底的に戦うことにした。
それは、このランドルの王家の方々、そしてディズリー王国の王位継承者であるローレンス・ディズリーとも、話し合って決めたことだ」
その言葉に、ざわりとまたざわつく会場。
(お父様が関与しているってことは、“悪魔”の話は紛れもない真実で……)
……ん? ちょっと待って。
新しくこの学園のゲーム内に、悪魔が追加された、ということは。
(ええええええ……!?)
そんな記憶、どこにもないわ……!
と、新たに出現した問題に頭を抱えていると。
「え!?」
ヒョイっと、体が浮く。
……その原因は言うまでもなく、アルが私をお姫様抱っこしたから。
会場にいた女生徒から、きゃぁと黄色い歓声が上がった。
「ちょ、あ、アルベルト様!?」
「必ず、この学園を守ると誓おう。
……シュワード王国第一王子、アルベルト・シュワードの名にかけて。
……そして、私の婚約者であり最愛のクラリス・ランドルも、この先一生、私が必ず守ってみせる」
「……!?」
さ、最愛……? この先一生って……!!
「あ、アルベルト様!? せ、説明して!?」
「ん? ……あぁ、そうだね。
色々と、ゆっくり話をしよう」
アルは「では皆、これで失礼する」と言って、パチンと指を鳴らすと、私達の身体がふわりと浮く。
(ま、待って、この感覚は……!)
「って、失礼しちゃ駄目でしょう!?」
私のツッコミに、婚約者様はにっこりと、私に向かって悪戯っぽくまた笑うのだった。




