24.ゲーム上の終幕は
「ん……」
(……ここは……)
「……保健、室……?」
「ひ、姫様ぁぁぁっ」
呆然と私が呟けば、制服姿のルナがガバッと抱き着いてきた。
「……ルナ、時間がないからそういうのは後にしてくれないか」
「あら、貴方が何故ここに……?」
私がそう呟けば、グレーの髪を持ち、綺麗な顔に眉間の皺を寄せながら、大きく溜め息を吐くローレンスの執事・シリルの姿があった。
「……全く、人使いが荒いんですよ、主もアルベルト様も。 ……特に貴女絡みになると、アルベルト様はいつも形振り構わないんですから」
そう淡々と言うシリル。
「そう言うシリルこそ、そんな愚痴言ってる暇があったら連れて行ってくれない!?
もう、いつも貴方は表情に欠けて、人に誤解されやすいんだから!」
「それは今は関係ないと思うが」
さっき注意されたルナが今度は私の番だ、と言わんばかりにぷんぷんと怒り始め、シリルはそんなルナに冷静に反論する。
このままだときっと二人の応酬が続いてしまうと思った私は、さっきのルナの言葉に疑問を持った点を問うことにした。
「行くって……何処に?」
私がそう尋ねると、「あ、そうでした!」とルナは説明してなかった! と言い、シリルは大きく溜め息を吐く。
「……本当に、貴女は……」
「シリル、黙ってて!
……いいですか、姫様。 あまり時間がないので端折りますが、今日は“表彰式”の日です」
「……えぇっ!? 待って、端折り過ぎて頭が追いつかないわ!
私、どれくらい寝てたの!?」
だって、表彰式は7月の初めなのよ!?
なのに……
「……姫様は魔力回復のため、長くお眠りになられておりました。 今日でちょうど10日間ですね」
「……ちょっと待って、本当に頭が追いつかないわ」
10日間!? え、私そんなに長く眠っていたの……?
(……魔力回復って、そんなにかかるものだっけ? でも、どうして……)
「混乱するのは分かりますが、表彰式はもう始まっている時間です。 行きましょう」
「姫様、軽くお支度を致しましょう。 表彰式には必ず参加しないと!」
「え、え、でも……」
シリルとルナの言葉に、私は狼狽える。
(私、まだ心の準備が……)
そんな私の動揺を見向きもせず、シリルは持っていた懐中時計を見て口を開いた。
「……とりあえず、タイムリミットは15分としましょう。 それまでに、制服に着替えてその髪型も何とかして下さい」
「あら! 女性の支度にそんなに時間がかからないとお思い!? シリル、貴方酷いわね!」
「仕方がないでしょう。
表彰式に間に合わせないと、私がローレンス様とアルベルト様に怒られてしまいますから」
早くお願いしますね、とシリルは付け足して、保健室を出て行った。
「姫様、早く支度です! さあ、起きられますか?」
「え、えぇ、ちょっと体は、重いけど……」
足が少しフラフラする。 眠っていたせいなのだろうか。
「では、私もお手伝いしてパパッと終わらせますね! クラリス様、少々辛抱下さいませ!」
そう言って、目にも留まらぬ速さで私の着ていた部屋着を脱がし、制服に着替えさせるルナ。
「……ふふっ、ルナ、本当にありがとう。
……今日で、悪役令嬢のお仕事はおしまいよ」
そう言うと、ルナはハッとした顔で私を見上げた。
「……えぇっ、そ、それは……!」
ルナはゆっくり微笑むと、私に向かって頭を下げた。
「……クラリス様、お疲れ様でした。 私はどんな結果でも、姫様のお側を離れるつもりはございません」
その言葉に、私は頷くと、「有難う、ルナ」と言って、二人で微笑んだ後、又急いで支度を整えたのだった。
「さぁ、いいか、もう行くぞ」
「……そういえば、どうやって?」
私の問いに、さすがにルナも唖然とする。 そしてシリルは「もう説明するの面倒」と、敬語を使わずぼやくと、パチンと指を鳴らす。
(……あ、思い出したわ、最近見てなかったけど、シリルの魔法は瞬間移動……)
こうして私達は、保健室から一瞬で表彰式の会場へと、飛んだのだった。
☆
ストッと降ろされた場所は……
(え……?)
「な、な……!?」
会場の、舞台の上だった。
当然、皆何事だと私を見て大騒ぎになる。
(し、シリル〜〜!? 貴方一体何を考えているのよ!!)
シリルとルナだけ何故か、目立たない場所にストンッと降り立っていた。
ルナなんか、グッと私に向かって何故か親指を立てている。
(いや貴女、主人を置いて何やってるのよぉぉ)
私はとりあえず立ち上がろうとしたけど、足に力が入らなくて座り込んでしまう。
(うぅっ、こんな姿、衆目に晒すことになるなんて……!)
この学園の王族なのに、これでは後で校長に怒られるわ……!
なんて考えていたのも束の間。
「静粛に!!」
と声を上げ、皆が一斉に静まり返り壇上を見上げた。 そこに立っていたのは、お父様と、その隣にいるのは……
「……アルベルト様?」
こちらを見て、にっこりと笑って「来た」と嬉しそうに言う、アルの姿だった。
(……え、え、ちょっと待って、壇上に、アルがいるってことは……)
……これは、もしかしなくても、アルベルト様エンド……!?
(表彰されているのは、アルで、確か表彰される人が、ルートのエンドに繋がってて……っ)
グルグルとあまり活性化していない頭で考えていると、アルが「校長、良いですか」と口を開いて、校長から許可されるとゆっくりと、凛とした声で話し始めた。
「その場で聞いて欲しい。
……今回、このような賞を貰ったことは、私はとても嬉しい。
だが、この賞にはもっと、私よりも相応しい者がいる」
その言葉にざわつく会場。
(あ、アル!? 貴方、一体何を考えているの……!?)
しかも、エンディングではこんなシーン、なかったはず……!
(……シナリオが、変わっている……?)
私は一つの答えに辿り着き、ハッとしていると。
「その人は……
クラリス、貴女だ」
「え……?」
壇上でアルは、アクアブルーの瞳で真っ直ぐと私を見て、そうはっきりと告げたのだった。




