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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第1章 恋の魔法にかけられて
23/113

22.5つ目は……

 6月に入り、いよいよ庭園やビニールハウスの花もたくさん咲き始める頃。




「見て下さい、クラリス様! もうすぐ咲くガーベラの蕾が、こんなにあるんです!」



 彼女はとても嬉しそうに、そう言って私に花を見せる。



「えぇ、とても楽しみね」

 私が穏やかにそう言うと、「はい!」と嬉しそうに笑うミリアさん。



 私は、ミリアさんがどう思っているかわからない。

 ……けれど、彼女の私に対する気持ちを無碍にしない。

 そうすることにした。



 ローレンスや皆から何か言われるかなと思ったけれど、何も言われないから多分大丈夫なんだろう。

 アルも喜んで賛成してくれた。



 そうして、今日は一緒に来たルナが、花の説明を受けている。

 私はそっとビニールハウスを出ると、んーと伸びをした。



「いい天気ね……」

 そう呟きながら、キョロキョロと辺りを見回して散歩する。

(誰も不審人物はいないようね)




 私は5つ目を、どうにか阻止したかった。

 私がやらなくても、誰かがやることで5つ目が起こることも大いにあり得ることを、3・4つ目で実感したからだ。



 だからこうして、たまに見張りをしている。




 そうしてふと、何人かの御令嬢がこちらに向かって歩いてくる。




「……あら、皆さま、御機嫌よう」

 そう私が言うと、彼女達の先頭に立っていた侯爵令嬢の一人が、「御機嫌よう」と淑女の礼を取った。

 ……その子は、ペンダントを奪った時の子だった。




「……何か、御用かしら?」

「ペンダントについて、謝ろうと思って来たのです」

 ごめんなさい、と彼女は私に頭を下げた。

(……反省は、しているのね)

「あら、何を言っているの。 あれをやったのは私よ。

 ミリアさんがどうしても邪魔で、しょうがなくね」

 その話を振り返されては私が罰を受けた意味がないと、そう判断した私は悪役令嬢を演じることにした。




「……クラリス様は、本当に優しいですわね」

 そう言って礼から顔を上げた彼女は、にこにことしていた。

 ……その顔に、私はゾクリと背中に悪寒が走る。

(なんだか……嫌な予感がするわ)




「姫様? どうかなさったんですか?」

 複数人の足音が聞こえたことに疑問を持ったのか、ルナとミリアさんがビニールハウスから出てきた。

(あ、貴女達は近くにいては駄目……!)





 咄嗟に思う私に、侯爵令嬢は恍惚とした笑みを浮かべて言った。

「だから、そんなクラリス様のために私が自ら、今度はこの女を潰して差し上げますわ……!」

「っ、ルナ! ミリアさんを連れて離れて!」

 私はそう叫びながら、慌ててビニールハウスの近くの方を見る。

 すると、その隅でいつの間にか、マッチから火を放ち、そのマッチを落としてビニールハウスに付けようとしている、何処かの御令嬢の姿だった。







 その火を見て、この前見た悪夢が脳裏に蘇る。




「駄目……!!!!」






 私の手が空を切る。





 マッチが下に落ちていく……







 じわり、と体の芯から蘇る、“あの夢の中”での感覚。







「いやぁぁぁぁ……!!!!!!」







 私の魔法が自然と発せられた、と思ったその直後、マッチの火がシュッと音を立てて消える。





 ……つまり、ビニールハウスへ引火する前に、火が、消えた。






 グラグラとする視界。





 体の芯から流れ、突き上げてくる“何か”がまだ、おさまらない……





(……熱い、体が、熱い……!)






 何とか歯を食いしばって耐えていた、その時。












 急に体が浮き、冷たくて柔らかい何かが、唇に触れる。







 ……うっすらと目を開けた先には……






(ア、ル……?)





 じわりと、今度は中に冷たい何かが入ってくる。




 それは、熱を帯びていた体をゆっくりと冷やすように、私の鼓動を落ち着けるように浸透し……











 やがて離れた唇を見て、あ、キスされたんだ、と呆然とした頭の中で思っていると、アルはいつもの、穏やかな表情で、私を諭すように言った。






「……もう、大丈夫だよ。

 僕が、ずっと側にいるから。

 ……後のことは、僕に任せて、クラリスはゆっくり休んで」




 おやすみ、彼はそう言うと、そっと私の瞼にキス落とす。










 私は微睡(まどろ)みの中で、アルの腕の中で、







 あぁ、良かった。







 と心の底から思いながら、意識を手放したのだった……





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